44:如月信男を救出せよ!



そこに現れたのは身なりをキッチリと整えて、以前よりもさっぱりとした見た目の藤田冬吾がいた。誰も彼のことを認識できなかったが、彼は手芸部にしっかりと説明した。



「いや、藤田だよ! 藤田 冬吾! 蒲生君と如月君のデート邪魔したり、時雄と一緒にやさぐれていたあの藤田ですよ!」



「ああ、なんかいたな。おまえ、ペキュラーのくせに影薄いよな。」



藤田は目くじらを立てて廉に言い返した。



「モブである君には言われたくありませんよ。 今では降谷さんの元で修行をつけてもらい、自分の個性を再確認し、自身が付きました。おかげで僕は以前よりも個性は強くなりましたよっ!!」



そういうと、藤田は目を閉じて現出させた。



「現出:正義の銛!」



両手に収まりきれないくらい大きな銃は海中で獲物を狙う猟銃、銛のような見た目をしていた。冬吾は適当な窓を見つけてはおもむろに開けだした。銛を窓枠から突き出して準備をしながら後ろの手芸部に声を掛けた。



「私は粘り強い正義感によってブレずに相手を捕らえる事ができます! この中で信男くんに一番近い人は?」



そういうと、手芸部全員が前に乗り出して手を上げた。



「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」



「ハハ。好かれているんだな、彼は。よろしい! 思いが強い人がいればいるほど精度は高まる。私の肩に手を置いてくれ。そして彼の顔を、彼との思い出を思念してくれ。」



 引金を引くと糸のついた鉤針状の弾丸が空中を泳ぎ回った。すると、黒いオーラを放つ球が学校の屋上に現れだした。弾丸はその中へと入っていった。



「あそこにモブ男がいるのか!?」



「ああ、おそらくね。」



「うち、屋上いってくる!」



「あ! きらりさん、抜け駆けは無しですよ!!」



廉たちを置いて、礼ときらりは屋上へと向かっていった。亜莉須は一緒に行こうとする麗美を止めつつ、廉と共に冬吾を応援し続けた。



「私たちがここにいないと、信男君、助からないからねえ。」



「確かに、ヒロインは彼女たちに任せた方がいいですね! 先輩」



「俺たちがここで頑張らなきゃ、二人を手助けするのは後だ。」



「元々、私は戦闘向きのペキュラーではないのでいいけど、信男さんの思い出は私にだってあるわ!」



「ダーリン取られるのは癪だけど、ここはあたしのみ★せ★ど★こ★ろ♪ みんな、気合入れていくわよ!」」



多くの思いを、願いを掛けた戦いはまたも屋上で行われていようとしていた。だが、今度は信男のために手芸部全員が駆けつけている。きらりと礼は必死になって屋上へと向かった。重い屋上の扉を開くとそこには窓の外から見たときよりも大きくなっている球体がそこにあった。



「で、どこにいんのよモブッチは!?」



「分かりませんよ!! 考えなしに急に飛び出して、どうするんですか?」



「呼びかける!! それしかないっしょ!」



「はぁ…。下がってください。私がやります。」



そういうと、礼は左腰に冷刀を現出させた。右足を一歩前へ抜き出し、すっと目を閉じた。



「何やってんの? 流行の構え?」



「黙ってください。 以前に聞いたことがあるんです。個性にはより大きな段階があると...その能力を使えば相手の個性さえも分断できるかも、なんです」



「やっぱ無策じゃん!」



「考えなしの無策ではなく、イチかバチかの無策です! より強い、冷気をまとい、冷静に、でも私はただのクールな性格の女の子じゃありません」



そういうと右足を軸に左足をコンパスのようにすり合わせ、腰にひねりを加えた。



「札杜流...居合・氷柱落とし!!」



一瞬礼の服装が白くきらきらと雪景色のような羽織が見えたがきらりには何が起きているかわからないほど速いふりだった。刀は氷柱が振動で連なって落ちるように刃を球体に連続で突き立てた。納刀すると球体に一瞬信男の顔が見えた。



「マスター!」「モブッチ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



くらい。せまい、こわい。でも、温かく包み込む彼女からはの柄られないでいた。恐怖という感情で俺は彼女に依存している。榊 皐月という存在がここでのよりどころになっている。だが、俺はここにはいられない。ここで彼女だけの愛で俺の夢は、野望を止めてなるものか...。俺はたくさんの人を愛したいし、愛されたい。



独り、意気消沈しているとかすかに光が見えてきた。そこには礼ときらりがいた。だが彼女たちの言葉までは聞こえない。手を伸ばす彼女たち...。そして、俺の元へと引っ掛かる心のつっかえ... 違う、本当に服に釣り針が刺さってる!? 皐月は俺の笑顔を見て焦った。



「なにしてんの? あなたは自力では戻れないはずでしょ?」



「俺はね。けど俺を迎え入れる仲間ならやってのけると思っていたさ!」



「待ってよ! ね? 今まで一人にしてたことは謝るからさぁ! だから、一緒にいて...独りにはなりたくないよ...」



「あんた、俺より自己中心的だな。散々俺を孤独にさせておいて自分が捨てられるとわかったら泣き落とし。俺じゃ君を救えない。ごめんな」



「なによ! 私みたいなブスより個性の強い小娘にしっぽ振ってさ! ただのモブキャラのくせに」



「そうじゃない。君はブスなんかじゃない。でも他人のことを考えない、自分の幸せしか考えない。他人に依存する考えは人を不細工にさせる! 俺は自分の夢のために前へ進み続ける! あんたに邪魔されるほどやわじゃないんだ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そういうと、釣り針を掴み、外へと歩みだした。球体の中から手が出ると礼達がその手を掴み、引っ張り出した。力強く引っ張り出したので信男はそのままきらりの胸にダイブした形となった。



「見事なラッキースケベっしょ。 うちのおっぱいに包まれたからケガ無いよね? 貧乳だったらどっちもケガしてたよ?」



「ちょ// マスター! 起きてるんでしょ? 早く起きてください。」



「あーあ、せっかくいい匂いだったのになぁ。 仕方ない、可愛いあやの頼みだし…っていうか、あの球体からデカブツが出てきたぞ!!」



そこには巨大なカマキリが血相の悪い美少女を鎌に乗せて佇んでいた。



「理事長の娘である私を選ばないなんて、もっと独り占めしたくなっちゃったじゃない。ちなみにさっきのも演技だし。ホントはちょっとゾクゾクして濡れちゃった/// アハハ! 要はその取り巻きを一網打尽にすればいいのね。」



きらりとあやは信男を守る形で立った。



「「如月信男は、私たちが守る!!」」

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