二年生編
40:私とあなたの大事な時間 一日目
ピピピピ...ピピピピ...
けたたましく目覚まし時計が鳴り響く。俺は気だるそうに伸びをしてアラームを止めてリビングへと向かう。今日からやっと二年生初めての新学期、意気揚々とパンをレンジでトーストする。母はせわしなく妹の弁当を作っている。俺は食堂で済ませるからといつも遠慮している。
トーストの焼きあがる音を聞くと皿にのせてバターを軽く塗って口をほおばった。時間には少し余裕がある。これから着替えに行ったとしても間に合うくらいには学校は近い。パンはどんどんと減っていき、最後の一口をほおばった。口に着いた食べかすを取り払い、着替えに直行。私服okなので毎日選ぶのが大変だなと愚痴をこぼしつつお気に入りのTシャツに着替えて、洗面で手軽に歯磨きなどの身支度を済ませていると
「信くーん! めいちゃんが迎えに来てるわよ!?」
ん?聞いたことのない名前だ。と思いつつも俺は能天気なので、新しい彼女候補が律儀にも迎えに来たのかとワクワクしながら手早く玄関を開けると見たことがあるようなツインテールが特徴的な女の子が立っていた。
「もー信くん、寝ぼけてるの? 早く学校行くよ」
「いつもごめんね、めいちゃん」
「いえ! 幼馴染ですから! おばさん、じゃ、信くんをしっかりと学校を送り届けます!」
「行ってらっしゃい」
「...行って、来ます」
不審に思いながらも俺はその「めい」と呼ばれていた女性について行くことにした。そして申し訳ないことを聞いてみた。
「変なこと聞くけど、君と俺って幼馴染だっけ?」
「ほんとに変なこと聞くわね。もしかして、記憶喪失!?」
「うーん、そんな感じ?」
俺は怖がりながらも幼馴染というシチュエーションにニヤついていた。浮かれている中、改めて彼女が自己紹介をしてくれた。
「
「う、うーん…」
「もー、早く行くよ。学校に遅れちゃう!」
「あ、ああ」
めいに引っ張られつつ今日も元気に学校へと行くのであった。正門にたどり着いたってアレ? れんは?あやは?きらりは? 天使ちゃんは? というか、学校も校門に立つ先生も学校へ入っていく生徒もみんな、色調がモノクロみたいだ。目を凝らすと元に戻った。一体何なんだ?
「どうしたの? 目でも悪くなったの?」
「いや、景色が一瞬おかしく見えてさ。ハハ、気のせいみたいだったよ。ていうか、廉のヤツまだ来てないのか?」
「レン? 誰の事? 友達?」
皐月は今までよりも一層機械的で冷ややかな声質で問いかけてきた。俺はそれに恐怖を覚えつつ、恐る恐る話し始めた。
「......廉は、廉だよ。む、連 廉。俺の友達、というか親友。これこそ、幼馴染なら知ってるよな?」
「? 信くん、友達私しかいないじゃん。」
「え?」
「モブで陰キャな信くんをこんな美人で世話焼きな皐月お姉さんが引っ張ってあげてるんだから、感謝してよね?」
「お、おう」
正直皐月の愛くるしい表情や態度は、俺にとって初めての相手なためドキドキしていた。少し笑みがほころんで変な顔になっていただろうが、俺は無い頭をしっかりと働かせようとした。絆されるな、絆されるな!
「ちょっと!またボーっとしてる! ほーら、教室に行くよ」
俺の腕に柔らかいものが当たったと同時に腕が組まれ、グイグイ引き連れる。おーほっほほっほ//
こんなん、なんも考えられんくなるわ!! 知らねえよ! そうだよ、俺にはこういうお姉さん面する幼馴染が足りなかったんだよ! とりあえず、堪能しよ。考えるのはそれからにしよ!
授業が始まると、生徒や先生は平然と授業をこなしていた。といか、今日から新学期だというのに、静かすぎるし、すっと入ったな。というか、俺はいつ、この教室に、この椅子に座った?そう考えていると、皐月が目の前に現れて話してきた。
「さっきの数学の授業さ、ちょっと教えてくれない?」
何?もう一時間目が終わったのか...というか、寝てたか?俺は授業を受けた覚えがない。が、ノートにはなぜかしっかりと黒板に書かれていたものが写されている。
「あ、ああ」
「やっぱ、今日変だよ? もしかして体調悪いの?」
「いや、大丈夫だ。問題ない。ただ、気味が悪い...」
「ふーん。ていうか次、古典だよ。しかも小テストよ。ちゃんと勉強してきたの?」
「ええ、早く行ってくれよ。さすがに勉強してないぞ」
「じゃ、頑張って~」
彼女は台風のように去っていく。彼女によると今日は古典の小テスト...たしか、、いや! おかしい。新学期早々に小テストなんてあるのか? あったとしたら質が悪い。と思ったら本当にありやがった。一年の復習という意味での抜き打ちテストらしい。ん?抜き打ち? 抜き打ちならなんで彼女は知ってんだ?まあ、知ってたとしても有利に働くわけがない。
小テストにやきもきしていると、今度は昼休みになっていた。食堂に自分でいった記憶もなければ3限や4限を受けたような記憶がない。ただ寝ていただけかもしれないが、俺の目の前には親子丼があった。親子丼を見つめていると彼女が現れた。
「なーにしてるの?」
「いや、どこにいるのかなぁって」
「何が?」
「自分がだよ、なんかずれてる感覚があるんだよね。俺、なにか目覚めたのかな?エスパータイプにでもなったのかな?」
「大丈夫! 落ち着いて、信くんは信くんだから。」
そうかなあと思って上の空で親子丼を口にする。うん、うまい。味覚はある。大丈夫だ。細々と食べていると、どこからともなくヤンキーっぽそうな奴らが絡んできた。というかこいつら、前に絡んできたリーゼントと世紀末トサカじゃないのか?
「よう。あんた確か、星矢さんのことガンつけてた陰キャ野郎じゃねえか! だろ?大也」
「ああ、間違いねえ。こいつ陰キャのくせに女と食事してるぜ?
「世紀末不良コンビめ、ていうか一年かよ! 先輩でしょうよ俺! お仕置きが必要なようだな!」
俺は勢いよくマジックステッキを現出した。した! ん? したよ!? あれ?気力が足りない?おっかしいなあ...手元を見ながら困っていると拳が飛んできた。痛い。久しぶりに殴られた。
「何やってんだ?てめえ、陰キャなうえに中二病かよ!! 力なんてあるわけねえだろ!」
ええええ!? 俺、個性失ったのか? 個性という概念のない世界?それともこれもペキュラーの仕業か?心当たりは一人しかいないが今は緊急事態だ。どうすれば...そう手をこまねいていると皐月が食堂の机の上に立ち上がった。
「ちょっと! 後輩のくせに力があるからって乱暴しない! 信くん嫌がってるでしょう!?」
嬉しいがとても恥ずかしい。そう思いながら彼女の言葉を聞き続けた。
「そんな子は私が信くんに代わってお仕置きよ!」
皐月はジャンプした後、世紀末不良の突進攻撃を華麗によけていき、よく知らない武道の構えをつけて、相手を挑発すると二人は見事に乗せられて向かっていった。皐月は不良に見事な蹴りを繰り出し退散させた。
「あんたたちが私に歯向かうなんて一万、いや2万光年早いわよ!」
天文学的数字が出て俺は目を白黒させた。瞬きを何回かしていくうちにどんどん走馬灯のように一日が過ぎていった。今日は一段と目まぐるしい一日だった。今日はあまりみんなと話せなかったな。皐月との時間がやたらと多かった気がする。ま、明日考えよ!
信男はのんきにも寝てしまった。彼の危機感のなさにはほとほと呆れるが、一日が終わってしまったからには仕方ない。明日は明日の風が吹く。......そのはずだった。
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