エピソード0!? 俺たちのトモダチ
「なあ、信男。俺たちって初めから仲良くなかったよな?」
唐突にれんれんがゲーム機片手に話し始めていた。俺は鼻で笑いながら言った。
「んなわけあるかよ、俺たちはソウルメイト。心の相棒だろ?」
「いや…。ほんとに覚えてないのか? 一気の事。」
「一気? 誰だ?」
一気、聞き覚えがない名前。聞くと俺たちが仲良くなったのはその子のおかげだとれんれんは言う。俺はなんど名前を反芻するも身に覚えがない。俺が深く考えているとれんれんの家のインターホンがなった。ゲームを中断し、れんれんが迎えに行き、こっちにもどってくるとそこにはれんれんとは別に浅黒い肌に白い歯がまぶしいほどの笑みを浮かべた少年がいた。といっても俺たちと同年代なのは変わりないが少し幼い顔つきだった。
「よう、信男。俺の事、これで思い出したか?」
「…!! おまえ、始業式の時の間違えてきたやつ!」
「やっぱりな。おまえこいつの事忘れてたんだろ。」
「でも、なんか地元に帰るとかなんとか…」
「そうじゃ! 高知にもどったんやが、向こうの高校も冬休みやけ、廉と連絡してちょいと一人旅に来た」
こいつと話して大体思い出してきた。この明るくさっぱりとした男は寒来 一気(さぶらい いっき)俺の友達である連 廉(むらじ れん)の中学の時の友人ということを聞いた覚えがある。高知生まれの東京育ちだったが寒来が言うには父親の都合により高校は高知の方へ戻ったということだ。
「ということで信男、これから三人で東京を巡らないか?」
「…まあ、やることないし。二人がいいならいいよ。」
「当たり前ぜよ! おまんも友だちじゃき。」
高知の人ってホントに「ぜよ」っていうんだあと思ったことはさておき、俺に一言言ってくれなかったのは少し突っかかったが冬の東京観光を楽しんだ。寒い。しかし、寒来という男がいるとなんか冬という季節が感じ取れない。しかも半そで、こっちが風邪ひきそうだ。
俺たち三人が向かったのは地上から見上げるとやはり大きく感じる東京スカイスリー。寒来は大騒ぎしながら俺たちの肩を組み引き連れるように上へと昇っていった。
「たっかいのぉ! まっこと高い。日本の首都が丸見えじゃ」
「まあ、600mくらいあれば景色は変わるよね。」
「俺も、初めて来たけど結構高いのね…」
「信男、高所恐怖症か?」
「バーカ! そ、そんなわけないだルルォ!?」
「…信男、俺ら三人の出会いを覚えとるか?」
「そんなの聞いても意味ないよ。モブ男はさっき忘れてるって言ってたし」
「そうか。だが、俺にはわかるぞ。お前は変わった! うん、漢の顔になった。前、会(お)うた時と全然違う。前の時はビクビクしとったが迷子になっとった俺を助けてくれた。あん時以上の輝きが目に見える」
「あの時確か、れんれんと会うために来たんだっけ?」
「そう! 覚えとうやないか」
「名前まで聞いてなかったから、あの時ほんとに寒来に会っていなかったら俺たちは出会ってなかったのかもね。」
グルルルという音が小さく聞こえてきた。寒来がおなかを抑えて少し笑って
「腹、減ってもうた…」
「確かに。 昼ご飯でも食べに行くか」
「学生らしくワック?」
「いや、一気もせっかく来たんだし、もうちょい東京の土産話も欲しいだろうからもんじゃ焼きを食べに行こう。いい店を調べておいたんだ」
「さっすがれんれん! 気配り上手」
れんれんは少し照れ臭くなったのかそっぽを向いて鼻の下を指でこすった。
れんれんの案内をもとにもんじゃ屋さんの暖簾をくぐると三人は席に着き、注文した。
「おい、まだ焼けてないんとちゃうんか? べちゃべちゃやぞ」
「いやぁ、まあこれがデフォだよね。」
「だな、食べてみ」
「いただきます」
「どう? おいしい?」
「おまん、女みたいな聞き方するなぁ、キモいぞ」
「今はそんなのどうでもいいから! 俺たちはお前の感想を聞きたいんだよ」
「おいしい… 悔しいが味には支障がない。」
「「でしょ?」」
時は過ぎ、寒来は両親が心配しているといい、東京駅で別れることになった。
「ていうか、3日もよく一人でうろちょろ東京を観光してたんだな」
「冬は涼しいから旅にうってつけじゃけえのぉ ま、親もさすがに心配しとるみたいやし帰るわ。最後にお前らに会えてよかったわ。」
「俺も…あんたと再会できてよかったよ また、元気で」
「じゃあの …あっそうや、忘れとった。信男、おまんの夢はなんじゃ?」
「は?」
「初めて会うた時に聞いたやろ。せやけど、そん時は答えんかった。今のおまんならあるやろ夢。俺は人の夢を聞き届けて応援するのが好きなんや。そん人の夜明けを見てるみたいで気持ちがグッと引き締まるんじゃ…お互いにな。ささ、言うてみい」
「…俺は、ハーレム王になる。すべての女性を愛する究極の王に」
「なるほどなぁ、廉は?」
「俺はこいつのその世迷言が達成するのかを見届ける…。一気ができない分、俺が一番近くで見届けるってこいつと誓ったんだ」
「ええのぉ。お前らはいい友になるいうとったやろ。俺の眼は間違いじゃなかった。これからもがんばれよ。また、くるけえの」
俺たちは寒さも忘れるほどの熱い男の帰路を最後まで見送った。彼がいる限り俺たちはきっと一生の友達なんだろう。俺一人でかみしめて勝手に胸を熱くさせていた。れんれんも同じ思いだと嬉しいが…
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