36:選挙戦争③

完全に日が落ちると降谷はほくそ笑み、ブラック・ドルフィンを陰に忍ばせた。


「圧倒的に時間が悪かったな、如月信男。俺の現出魔は闇に潜むことを得意とする! そして!お前の個性をも奪えるのだ!」


天河は雨叢雲剣を現出させて天高く掲げると雷雲が立ち込めた。


「光を当てばいいことよね! 陰でこそこそしてんじゃないわよ!」


剣が振り落とされたと同時に雷が落とされると、辺りは明るくなり、ドルフィンが信男に近づく様がはっきり見えた。信男はマジックステッキでラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーンを繰り出して牽制した後、降谷の懐へと向かった。それと共にステッキからピンク色のビームが剣状に大きく長く伸びてしなりを帯びて降谷を襲った。降谷は黒い液体を左腕に纏わせ、技を受け流した。体勢を立て直すため、信男は一旦身を引き、そして横からそのピンクビームを脇腹に食い込ませた。


「ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーンソード!! どぉぅっっっ!!!」



「ブラック・ドルフィン! 俺を守れ!あのステッキを...個性を奪え!」


そう降谷の現出魔に指示するとブラックドルフィンは愛嬌のある顔とは到底かけ離れたギザギザな歯を見せるとともに、信男の腕ごと噛みつき、降谷から引き離した。


「本体ががら空きだぞ! 降谷一星!」


篤井のフレイムナックルを現出させて降谷のもとに近づき、殴りつけた。降谷は受け身になったせいか、少ししか怯まなかった。本人自体も隙が無く、技を受け流す術を身に着けてさらには現出魔で猛攻奇襲を仕掛けられるとなると信男たちは不利だった。


◆◇◆◇


学校を後にしたあやたちは信男たち戦闘に向かった組を心配しながらSNSのグループ通話でやり取りをしていた。


あや『マスターはまだ降谷さんと戦っているのでしょうか…』

   『モブッチなら心配ないっしょ。見守るって決めたうちらは見守るしかないんよ』きらり

                   『何? ダーリンが負けるって思ってんの?』れみ

あや『そうではありませんが、やはり参戦すべきだったのでしょうか』

   

  『降谷君は強いし、行くって言っても信男くんは止めたんじゃないかなぁ』ありす


  『行かないって言っても顔色変えなかったですしね、あいつは

                 一人でも行く覚悟を決めてたんでしょ。』れんれん

あや『そうですよね、それでは今の私たちにできることを…。』

    『できることは、明日も元気にここにいる全員が登校して彼に笑顔で迎える。じゃない?』あみ


あや『スタンプ』

                      『?』きらり

                      『?』れみ

                      『?』あみ

あみ『あ、スタンプを送ろうとしたんですけど誤送信しました』

                     『かわいい』ありす

            『(^ ^)b』れんれん


◇◆◇◆


あみたちの影の応援など知らずに奮闘する信男たちだが、降谷に大きなダメージを与えられず、彼にとって有利な状況が続いていた。天河や羽生が光源となってブラック・ドルフィンの特定を急ぐが、その時には誰かの背後にいて奇襲をかけられる。


「俺のブラック・ドルフィンを見つけようと無駄なのだ! 速さはお前たちの動体視力をしのぐ!」


「うるさいわね! ちょっと強いからって人を見下すいい方ばかりして!」


天河の雨叢雲剣が振り下ろされると、その剣筋が稲妻の閃光となって降谷に襲い掛かっていった。それにはブラック・ドルフィンも降谷もろとも感電と共に衝撃で後ろに吹き飛んでいった。仰向けに倒れる降谷はびくともせずに大の字になっていた。


「やったか…?」


羽生が降谷に近づいて顔を覗くと降谷からブラック・ドルフィンが飛び出てきて瞬きをする間に羽生は暗闇にとらわれていった。羽生の声はまるで聞こえず、天河、信男、天使の3人そして降谷しか屋上にはいなかったことが彼の消失を物語った。


「ほんのわずかの時間で、、あの暗闇に呑まれたものは個性が陰って消失してしまうのか…?」

「如月信男よ、これが現実だ。個性など持たなければよかったんだ。俺が、俺だけがすべての人間を照らす光になればいい! あとは陰なんだよ!」


「一色の光じゃ、つまんないよ。」


天使月姫が涙をこぼしながらつぶやいた。お気に入りの白いワンピースをクシャクシャに握りしめて訴える姿は3人だけでなく、降谷にもこたえるものがあった。降谷は頭を抱えながら片目だけ涙をこぼしながら叫んだ。


「僕は、生徒会長になる…男だぞ! 従わなければならないカリスマなんだぞ! 誰も立ち寄れない、尊敬する存在にならなければ、」


「敵ながら哀れだと思うよ。だけど、お前の勝手な行動でみんなの、ましてや俺の個性を奪わせるわけにはいかない! 降谷一星!お前のどす黒い心を今断ち切ってやる!」


「もうすぐ日は昇る。正真正銘最後の戦いだ、これ以上戦いを伸ばせば僕にも不利な状況になる。来い、如月信男!」


「<現出魔:ラヴ・マシーン>!ぁあああああああああああああああああ!」


「<ブラック・ドルフィン>! すべての感情をぶつけろぉおおおおおお!」


「ブラック・エコー・ストリーム」  「ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン/スラッシュ!」


マジックステッキを操縦かんのように握りしめて歯を食いしばる信男と天を仰ぎ咆哮する降谷はお互いの感情をぶつけ合った。そしてその競り合いは微動だにしなかったが、天河や天使が信男の手を取りお互いの思いを乗せた。


「降谷を止めろ! 如月信男! お前しか、お前の個性、<魅力>でしか伝えられないものがある!あいつの後は私が責任を持ってやる。だから、元のあいつに戻してやってくれ!」


「あやちゃん、きらりちゃん、ありすさん、あみさん、レミちゃん、れんくん…ここにはいないけど、みんなあなたの中にいる! すべての思いを彼にぶつければ、彼の能力も個性も変われる。そう信じて…。大丈夫、私、あなたのいい所ちゃんと分かってるから!」


「「「ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン/トリプルスペシャルラッシュ!!!」」」


ブラック・ドルフィンを覆っていた黒い液体はどんどんとはがれていき、ドルフィン自体も押されて行ってとうとう降谷自身にラヴ・マシーンの猛威が迫っていた。抗おうとするも、鋭く速い猛攻はもう止められることなどできず、降谷は信男の魅力のラッシュにもまれエモいムーブに心がスッとするような感覚に襲われ、気を失った。その顔は少し柔らかかった。



こうして降谷及び、降星会との死闘は幕を閉じた。気づくとすでに日は昇りかけていた。


「全部、終わったんだ。 これで、、どうしよう、会長選挙まで4日しかないよ!?」


「確かに、今日も登校しないといけないしな。だが、大丈夫、会長は私が代わって立候補する。降谷の横暴を話したうえで二人で謝るよ。」


「それでいいんじゃないかな。俺は平和が守られたなら何でもいいよ」


「なんだ、その... ここまで付き合ってくれてありがとう」


「ああ、うん」

正直、眠たくて天河さんの顔が見れないや。と目をこすりながら天を仰ぐ信男だったが。天使がギョッとした顔で覗いてきた。


「屋上で寝てる暇ないよ! 信男くん! 早く学校行こ?」


「もう学校じゃん…」


 ドッと疲れが押し寄せた眠い目をこすりながら信男たちは屋上を後にした。降谷は早くに天河さんが彼の自宅に連れて行った。後から話を聞くと彼らは幼馴染らしく、小学校のクラスでの天河へのいじめをきっかけに彼も標的にされていったらしい。信男は大変だったなと受け流して天使に抱えられながらクラスの教室に向かった。教室の前の廊下には手芸部のメンバーが温かく迎え入れてくれた。



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