37:選挙戦争 その後

 あれから一週間後、天河美琴は発言通り会長となっていた。降谷は何も言わず生徒会をやめようとしていたが、天河らの激励もあり、副会長として誠実に僕らと向き合うようだ。逆にけろっとした姿で現れた羽生はあっさりと生徒会をやめていた。これからも俺のことを狙ってくるらしい。もはや俺のこと好きだろ。彼の相方である藤田は生徒会に残り、甲斐弾乃介と仲良くなりこれから頑張っていくということだそうだ。

 そうそう、手芸部はなんとか継続できている。これからの顧問は西京貴先生になりそうだ。基本はこちらに介入するつもりはないとのことだそうだ。後、父親のことだが公園で会って以来全く遭遇していない。本当に神出鬼没な人間だ。


 いろんなことがあった。初めは相川一郎との出会いがきっかけでこんな事件に巻き込まれたんだっけ。あの人にも報告しなくちゃな。 俺は休み時間ふと思い立ち、3年の教室に一人向かった。相川一郎は俺を見つけるなり、中庭へと連れ出した。座るように促して彼は花に見とれたまま話し始めた。


「まさか、本当に彼の暴走を止めてくれるとはね。やはり私の見込みは間違っていなかったようだ。」


「自分の名誉のためです、褒められることじゃない。」


「どんな人間にも個性がある。それを止めてはいけない。ましてはなくしていいことなんてない。私はすべての人間に愛を伝えたい。だが、この学校ともおさらばだ。そこで頼みたいのだが…」


「生徒会に入れって言うならお断りですよ。」


「そうだよな。君はあくまで自由な恋愛を求めているから役職は厄介なだけ、か。だが、これからも君はその魅力が故に他人に疎まれ、激しく衝突するだろう。だが、私にはわかる。君はそれを解決できるし、仲間にもできると信じている。だから、残りの高校生活を謳歌したまえ! 君の愛は無限大だ!」


彼の言うことはイマイチ分からなかったが、少し晴れやかな気持ちになった。教室に戻ると普段通りの授業が開始された。今日もよくわからない呪文のような世界史。眠りのバフをかけられたように船をこぐ。窓際に座る俺を風がそっと起こしてくれた。気が付くと授業は終わりを迎えていた。昼休みになって一人弁当を取り出す。するとれんれんと天使ちゃんが俺の周りを囲んで座っていた。


「お前が教室で弁当なんて珍しいな。モブ男。」


「ああ、食堂に行く気がしねえ。」


「モブ君、どっか具合でも悪いの?」


「いや、単にいろいろあって疲れてるだけだよ。」


「確かにもう11月も終わりそうだもんな。あっという間だよな、みんな普通だよ。」


「そう、普通なんだよれんれん。すべてが普通で、、大したものじゃない。だから今を必死に頑張ってんのかなって。」


「なんか、きしょ。」


「気色悪いとか言うなよ! 俺だってセンチになるわい!」


「その話し方腹立つノリ。」


「うるさいわ!」


れんれんと俺の謎の漫才を繰り広げていると天使が涙をこらえて笑い始めた。それを見てれんれんと俺は顔を見合わせてほころんだ。3人でこじんまりとしたお昼を過ごしているときらりが友人との会食から帰ってきた。するとこっちに気づいて向かってきた。


「モブッチ、最近どう?」


「ちょっと元気になったよ。きらりは?」


「うちはそんなにかなぁ。だって、3人で楽しそうにしてたし、混ぜてほしかったな」


「ごめん、ごめん。これからはもっと、きらり含めてみんなまとめて愛すぜ!」


俺はきっとこれからもハーレムを形成するため、女の子を増やし続けて見せる。父親にも負けず、誰にも負けない、俺は、ハーレム王になる! 

 そう考えていると昼休みも終わり、時は流れ、すぐに放課後になった。眠りという名のスキップ機能が俺を世界から置いてけぼりにさせた。…なんだか今日の俺は一段と語彙力が違う気がするぜ。放課後、家庭科室に行こうとすると西京先生が俺を止めた。


「おい、如月。授業中寝てたが成績は大丈夫なんだろうな? 成績次第ではクラブ活動中止にするからな!!」


「大丈夫だって先生。だって俺、成績毎度中の中っすから。勉強に関してはモブ並みのしぶとさで来てますんで!」


「大きな態度で言うことじゃないだろ。向上心とかないのか?」


呆れかえった先生をしり目に俺は脳内お花畑で家庭科室の門をくぐった。すると、みんなが…札杜礼、蒲生きらり、天使月姫、連廉、結城亜莉須、結城愛海、御笠麗美、、みんな俺の顔を見るなり黄色い声を浴びせてくる。俺は少し小躍りしながら彼女たちの声に酔いしれ、反応していった。そして、俺は家庭科室の一番前、つまりいつも先生が立つ黒板の前に立ち、チョークで大きな文字を書いた。


そこには【ハーレム王】の文字、俺の野望を書き記した。教壇に手を強く置き演説を始めた。


「みんな! 聞いてくれ。俺は男子がうらやみ、女子は黄色い声援と熱視線を浴びるハーレム王になる!君たちはその目撃者であり、俺のハーレム第一号だ! これからも俺はもっともっと女子にモテるぞ!それでも、みんな!これからも俺についてきてくれるかな?」


皆初めは少し目線をそらしていた。多分、降谷との戦いに参加できなかったことだろうか。


「みんな、俺はみんなに笑顔でいてほしい。みんなが居場所を守ってくれたから俺はこうやって笑顔でいられる。だから、みんなも気兼ねなく嫌なことは言ってほしい。どれだけ俺が女性の敵になったとしても地獄について行く覚悟はあるかい?」


そういうとみんな顔を見合わせて頷き、元気よく叫んだ。


「「「「いいとも!!」」」


その証に俺は女子みんなと膝枕ならぬ膝ベッドをした。膝ベッドとは、女子たちが一列に互い違いに並び、同じ高さになるように合わせている。そこに俺は小ダイブし、素敵なひと時を過ごすのだ。最&高!


こうして俺はおふざけなりにもハーレム王になることを高らかに宣言した。11月も残りわずか。そして俺には人生最大のイベントが待ち受けていたのだった!!

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