35:選挙戦争②

 選挙まであと5日と迫っていた。天河美琴との戦闘の後、保健室で彼女と少し話をした。その時の情報によると降谷一星はすでに多くの票を入れてくれるサクラを用意しており、サクラは演説の際にも場を盛り上げていたという。普通に公職選挙法違反では?(公職とは言ってない。)それに最近ペキュラーの人数が激減しているように感じていたのも気のせいではなかったらしい。降谷の個性が強すぎるせいで他のペキュラーたちが自信を失って自分自身を見失っているゾンビになり果てているという。現に、教室を見渡すと俺や廉のように服装も容姿もパッとしない連中が教室の大半を占めていたのだった。


「授業中、やたら静かじゃなかったか? 気味が悪い。」


「モブ男、それが普通なんだ。だが、辛気臭いのは確かだな。だれも降谷の意見に否定する人もいないとなると余計に気持ち悪い。」


「モブッチ、れんチーもなんかもうちょっとわかりやすい服装にしてよ。周りとほぼ同じじゃ見分けつかないよ。」


「えぇ…きらり、それはないよ。」


信男、れん、きらりが放課後の家庭科室で話し込んでいると、天使月姫が神妙な3人のもとに入ってきた。


「やっと見つけた。愛海ちゃんが降谷の個性を完全に思い出したって言ってた。これがその情報(ステータス)」


そういうと月姫は愛海から預かったメモを取り出すとそこには彼の個性が書かれていた。


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降谷善治(降谷一星/松村禅至)

<個性:独善、孤独>のダブルペキュラー。

相手の個性に執着し、一方では自分の個性よりも劣っていると思わせる。

もう片方では個性に隠れる個性。


<現出魔:ブラック・ドルフィン>

イルカの姿を模したイマジカ。人気性と狂気性を兼ね備えたドス黒い個性。


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天使がさらに加えて


「私と愛海ちゃんの知ってる情報はこれで全部。彼を止めて。彼の心が完全に引き裂かれる前に。」


「ちょい待ち、天使さんはあいつのこと知ってたのか? 知ってたならなんで…?」


廉の言葉に返事に詰まる天使に信男は廉の肩に手を置き笑いかけた。


「そんなん、今はどうでもいいだろ? 別に内通していたり裏切ったりしてないんだから。気楽に行こうぜ、相棒。」


「べ、別に天使さんのことを信じていないわけじゃない。ただ心配というか、気になっただけだ。でどうする? 選挙まであと5日しかないぞ。俺たちには他に会長をしたい人を立てた方がいいじゃないのか?」


「それは俺たちのやることじゃない。俺たちのやるべきことははあいつを倒して、みんなに公平な目で彼らを見てもらうことだけだよ。」


神妙な顔で真面目な話をしていると話を聞いていた結城亜莉須がぽわんとした顔で話しかけてきた。


「信男君、難しい顔してるよぉ~? いい悪いとか、好き嫌いじゃなくてさ、今降谷くんに必要なのは何がダメだったかを体を張っていってくれる友達だと思うよ。それはきっと<魅力>の個性を持った信男君にしかできないよぉ?」


「相変わらず、ふわっとしてる印象の割にはキレのいい言葉を残すよね。そういうところ好きだよ、先輩。よし、わかった。考えるのはやめた! あいつと蹴りつけてくるぜ!」


「私も行く!」


天使や信男のやる気をよそに、きらりは少し言いずらそうにしながらも勇気を持って話し始めた。


「モブッチ...。悪いんだけど代弁させてもらうね。あやも愛海さんも麗美も行きたくないって...。だって、怖いもん。るなっちやれんちーをモブ扱いするなんてしたくない。うちらがやらなくても先生に相談すればいいじゃん!」


それに対して、廉は悲しそうに語った。


「俺もそう思って話してみたが、先生に話しても取り合ってくれなかった。俺は、なにもできないからそもそも参加する気はなかったが…どうするんだ?モブ男。」


「無理に来る必要はないよ。俺が頼られたからには徹底的にやるって決めたんだ。俺が逃げたら意味がない!だから、みんなはこの居場所を守って欲しい...。」


一通りの意見を聞いて信男は立ち上がり、『じゃ、行こうか」と言い、天使と手を取り合って家庭科室を後にしようとした。それを止める人は誰もいなかった。が、きらりは少し、切なげな声で言い放った。


「大丈夫!モブッチは一人じゃない! みんなバラバラだけど、みんなモブッチのことを絶対信じてるし、大切に思ってるから! だから、、気を付けて!」


家庭科室を後にすると目の前に天河美琴と羽生時雄がいた。彼らは信男の顔を見るなり、時雄は不適な笑みをこぼし、天河はすました顔で信男の胸を小突いた。


「よく、二人で行こうと思うわね。なんにも知らない癖に...。一星のことは私が一番よく知ってる。あんたとはそりが合わないけど、一星とはきっといい理解者になれる、、と戦いの中で思えた。だから時雄も巻き込んで協力することにしたわ。あんたたちの許可は受け付けないけどね!」


「......。俺はお前がうらやましいと思うし、正直嫌いだ。けど、降谷はもっとダメだ。あいつのせいでお前の個性が消えたら俺の野望ゆめがなくなる。だから、今回だけはおまえと共闘してやる。」



「…二人ともありがとう。行くか。」


こうして、如月信男、天使月姫に続いて天河美琴、羽生時雄と共に降谷一星の元へと向かうのであった。天河の導きで降谷のいそうな場所を転々とする信男たち、しかしながら降谷はどこにもいなかった。最後に向かった場所は屋上だった。そこに行くと教室の椅子に態度の悪い座り方をした男がいた。その男は明らかに降谷と思われる人物だったが、彼には謎のマントや彼に付き従う下僕のような生徒が数人いた。


信男はその光景にポカンとしながら天河に相談した。


「ねえ、あれ降谷一星だよね? モノホン?」


「そ、そうね。間違いないわ。私が顔を見間違うことはない・・・はず。」


「雰囲気、全然違うね。」


「あいついきなり中二病でも患ったんじゃないか?」


4人がざわざわしながら言っていると降谷はマントを翻し、闇墜ちしたかのような顔で彼らに語り掛けた。


「やぁやぁ、勇者ご一行様。よくここが分かったな。なんだ? 自分が正義だと思ってこの俺を倒してきたのか?」


信男は即座に降谷の言動に突っ込みを入れた。


「いや、ビジュアル的にお前、悪だろ! 外見と言い雰囲気完全に魔王だぞ。」


「だまれ、俺が正義だ。間違いのない正義だ。君たちはモブとして一生を暮らすのが一番全うで効率のいい人生なのだ。それが大人になるということだ。長い人生で見れば、」


「うっせえんだよ! こっちは青春を瞬間、瞬間で生きてるんだよ! 大人になったらとか、効率がいいとかじゃねえんだよ! 」


「個性のある人間は一人で十分なんだよ!」


「個性が強くて何が悪いんだよ!」


「すべてだ!出る杭は打たれる! 朱に交われば赤くなる! 世の中はいつもそうなのだ!」


その言葉と同時に信男はラヴ・マシーンを、降谷はブラック・ドルフィンを現出させたが、ラヴ・マシーンの攻撃をブラック・ドルフィンはすべてエコーによって繰り出された黒い液体のバリアによって無効化、というより吸収されているようだった。天河はそれをいち早く気づき、


「黒はすべてを吸収する…ということね。」


「ご名答。ところで、君は何をしているんだ、美琴君!」


天河にドルフィンの体当たりが当たりかけたが、ギリギリのところで天使が救い出していた。


「降谷くん! 顔も性格も変わってて気づいてあげられなかったけど、今も昔のような優しい心があるって信じてるよ。私も、天河さんも!」


天使の言葉に逆鱗に触れたかのように震えだした降谷は一蹴してドルフィンをけしかけた。


「黙れ! 俺の前からいなくなったくせに!」


ドルフィンのエコーは黒い液体を呼び、その液体が天使たちにかかろうとしたが、ラヴ・マシーンが信男が十八番とするバリアを張って対応した。


「だれも孤独は救えない。ぼくの心なんてだれも分からないくせに!」


「誰にも打ち明けないから、当たり前だろうが!」


夕暮れの屋上、如月信男と降谷一星は現出魔が取っ組み合う中、静かににらみ合っていた。

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