34:選挙戦争①

 信男は鍛え抜かれた鍛錬のおかげか、父親と会ったおかげか、周りには一段と男らしくなったように見えていた。彼を見ると他の女性は少し振り返るようなっていた。その変化に彼は気づかないわけもなく困惑していた。


「いやー、まいったなぁ~。ハハハ! 俺の魅力に気づいた女子たちが俺に熱い視線を向けてくるぜ。これも、鍛錬の成果かぁ~?」


「違うだろ、よく見ろよ。降谷先輩が選挙で凱旋してるのを見てるだけだろ! 思い込みすぎだ。」


「そんなこと言うなよ、れんれん。もしかして、俺に嫉妬しちゃってる?」


廉は指をさしながら嘲笑う信男にため息をつきながら、廊下の壁にもたれて腕組みして深刻な表情で信男に忠告した。


「おい、これからどうするんだ? ほんとにあいつ止めんのか? ただの3年生の指示でよぉ。」


とはなんだ。一応は今も生徒会長だぞ?」


信男と廉の前に現れたのは紛れもなく3年の生徒会長だった相川一郎だった。彼は堂々とした出で立ちで顎を撫でながら場に割り込んできた。


「それに、彼が会長になれば生徒は全員モブにされるぞ!多分!」


「たぶんって、なんすか! 確証がないなら選挙を止めたらそれこそ俺らは変人扱いで、信男、おまえもモテなくなるぞ。」



信男が頭を悩ませていると降谷の選挙演説が聞こえてきた。


『みなさん! 僕が会長になった暁には、能力者による争いごとがなくなることをお約束します! 皆さん日々、ペキュラー同士の争いにうんざりしていることでしょう。特に、如月信男という悪魔は、争いの火種になるハーレムを作ろうとしている! あいつのせいで学校の風紀は乱れ、女子同士の争い、独占による男子の反乱がおきるのは目に見えております!どうかみなさん、この降谷一星に清き一票を! 平和は僕が守ります!』


「あーあ、完全に悪者になっちゃってるよ。どうすんだ? 信男。」



「降谷さんと話してくる。俺に考えがある。」


 そういうと信男は一人で演説周りをしている降谷の方へと向かっていった。降谷に向かう最中、天使月姫から脳内に直接話しかけてきた。


『信男くん、降谷くんの心は二つに分かれてるの。降谷君ともう一度会って確信した。彼は松村禅至で、降谷一星なのよ。でももうそんなことはどうだっていいの。彼の心を取り戻せられるのは私の寵愛を受けた人、如月信男ただ一人なのよ。だから、、託してもいいかな? あの子の事。』


「天使ちゃん、君と降谷との関係は知らないし、とやかくは聞かない。ただ俺は俺の目標のために前に進むだけさ! 降谷と話すのもその一つなだけ。じゃ、行ってくる!」



信男は降谷とその取り巻きたちの目の前へと立ちふさがり、降谷だけを指名して話をつけるよう呼びかけた。


「降谷一星、あんたに話がある。 少しいいか?」


「君のような無礼なやつに僕に話しかける権利はない。それに君は今や学校の恥だ。みんな、こいつが如月信男だ。女を食う怪物だ!」


取り巻きは信男を抑え込み、降谷から離そうとして引きずっていく。信男は暴れながら彼らを振り払おうとした。


「は、な、せ! こんなのいじめと何ら変わんねえじゃんか!生徒会長となろうとしてるお前が!不当にいじめの対象を作っていいのかよ!」


「これはいじめではない。正当な正義の鉄槌だ。ここでは僕が正義で、唯一のペキュラーなんだよ。他は駒(モブ)だ。すべてのペキュラーをもモブにしてしまえば、個性がなければ争いは生まれないだろう?大人になれば、個性なんてものいらなくなるだろ!みんなそれを分かってるから僕を必要としてるんだ。」


「やっぱり、お前とは意見が合わないし、価値観が違いすぎる! 戦っても分かりあうことなんてできない。でも、俺の友達が言ってたんだ。“お前を助けて欲しい”って。だから、あんたの野望ごと、そのひねた心に風穴開けてやる!」


信男はどんどんと引きずられていき、中庭に放り出された。中庭には誰もいなかったので信男はベンチに寝転んだ。太陽の日差しを眺めながら休み時間の終わりのチャイムが鳴るのを待った。後1分か2分くらいだというのに何もしていないと時間が立つのは遅く感じていた。だらだらと過ごしていると、こちらを真顔でのぞき込んできた女性が話しかけてきた。


「やっと見つけたぞ、如月信男。」


「あんたは確か、天河 美琴(あまのがわ みこと)……。」


「決着をつけに来たわ。あなたは降谷一星という男を知りすぎた。目立たずに過ごせばよかったものを……。」


「俺は逃げない。あんたを乗り越えて、降谷の野望を食い止める。」


「あの人の野望は、間違ってると思う?」


「変な質問だな。あいつに近いあんたが一番知ってるんじゃないか?」


「そう、よね。私が彼の考えに沿わないとあの人が不憫でならないからね。だからあの人にとって邪魔なあなたを倒す。それが私の役割。それに私はあなたの野望は絶対に食い止めるつもりよ、あんたみたいな破廉恥、女子の敵になるだけよ。」


「分かった。放課後、体育館裏で決着をつけよう。一対一で。」


「その言葉、忘れないでよね。」


自分の周りに雨を降らせながら天河は信男の元を去った。それと共に授業のチャイムが鳴り、急いで教室へと戻った。授業をそれなりに受けていたらいつの間にか寝ていた。すると誰かが俺を起こしてくれた。


「っち! モブッチ! もう授業終わったよ。ちゅーか、もう放課後だよ。どんだけ寝てんのよ。」


「へっ!? もう放課後か……。天河さんとの約束の時間だ。」


「え? デートに行くの? ていうか、あの人敵みたいなもんじゃん!」


「デートじゃないから安心して。決着をつけてくる。」


「え?じゃあ、うちも着いて行くし。」


「一人で行くっ言っちゃったんだよなぁこれが。だから、きらりの気持ちだけ受け取っておくよ。」


そういうと信男はきらりの肩をポンと叩いて体育館の裏へと急ぐのだった。体育館の裏は学校のフェンスが道を狭くしているが人間二人がギリギリすれ違うくらいの狭さだった。そこに天河は体育館の壁に背中をもたれさせていた。



「約束通り、一人で来たわね。如月信男。私の怒りに触れる前に降参することね。」


「怒り? 俺なんか君にしたっけ? しかも休み時間の時はあんま俺にキレてる感じなかったけど……。」


「うるさい! “俺が何かしたか?”ですって!? 大いにしてるじゃない! ハーレムを作るって卑劣なことを! そんなお下劣クラブのことを考えてたら腹が立って仕方ないわ。」


「俺は俺自身のやり方にもう疑問は持たない! なぜなら、高校に入ってから俺はモテたいと思っていたからだ。それに手段は問わない。君が下品だっていうのは分かる。だけど、俺のその修羅の道を通ってでもハーレムを形成したいと思っている!」


「そんな男ばかりだから、女は損するしかないんだぁぁあああ!!」


「損しない女を作らなければいい!」


マジックステッキと雨叢雲剣がじりじりと鍔迫り合いを繰り広げ、互いの意見をぶつけ合う。だが、信男の一言で拍子抜けして隙が生まれた天河が態勢を崩すと信男は雄たけびをあげて彼女に突っ込んでいった。


「うおおおおおおお! ラブリ―・ロイヤルフローラル・ハリケーン!!」


「効くかああ! そんな子供だましぃ! 雷光刺水・怒髪天!!」


雨叢雲剣の重い突きは信男の腹部を確実にとらえていたが、彼の防御力は格段に上がっていた。なぜなら彼にはとっておきの秘策があったのだ。それは言わずもがな


「<現出魔:ラヴ・マシーン>!! 雷を受け止めろ!」


「人型のイマジカだと……!?」


ラヴ・マシーンは信男の言った通り、雷を受け止め、そのエネルギーを自分の力に変換していた。信男自身の力とは恋愛感情やその根本である愛情そのものである。その力は天河美琴の体をぐっと押しのけた。さらに、ラヴ・マシーンと共に天河への追い打ちを与えた。


「うりゃーーーー! くらえ、ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーンスラッシュ!」


ラヴ・マシーンの蹄形のような手で繰り広げられる連撃(ラッシュ)は天河に大打撃(クリーヒット)を与えた。自慢の雷をも出せぬまま信男の餌食となった。天河はさらに奥へと吹っ飛んでいった。その先には運動用具の入った倉庫が待ち構えていた。すかさず、信男はラヴ・マシーンを踏み台にして天河よりも先回りしてマジックステッキでバリアを張って衝撃を和らげた。天河をお姫様抱っこして保健室の方へ連れて行こうとすると顔を赤らめているのを隠しながらつぶやいた。


「や、やめろ// おひ、お姫様抱っこするな! 恥ずかしい、お、怒るぞ……///」


信男はニヤニヤしながら天河を保健室へと運んでいったのであった。(やましい意味ではない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る