29:文化祭ハチャメチャパレード
10月31日、いよいよ待ちに待った文化祭。
たくさんの教室で生徒が出し物をやっていた。
お化け屋敷、一円玉落とし、自作ピンボールとか…。
俺たち手芸部は自作した人形での劇を行おうとしていたのだった。クラスではお化け屋敷をしているらしいが、部活をやっていない人中心にシフトを回しているらしい。そういう話ならこちらに専念できるから助かる。
家庭科室で信男たちが準備をしていると、以外にも家庭科室の椅子に続々と座ってくる生徒が見えていた。信男は少し浮かれてみんなを呼び寄せた。みんなも目も前の光景には気づきつつあったが、信男の興奮を見てより一層実感がわいた。
「以外にも集まってるね!」
信男の上ずった声に落ち着かせるように礼が肩を叩いて
「マスター、今まで通りに…ですよ。少し緊張してるのが声に出てますよ。」
きらりが二人の肩に手を置いてさらに愛海、亜莉須を呼んでエンジンを組む形になりながら全員を鼓舞する。みんなの手から、緊張の震えが伝わってきつつ、自分自身も緊張に呑まれていたが、信男は深呼吸した後、笑いながら、
「あやさんの言う通り、練習してきたことをやり遂げよう。恥ずかしがらなければ、きっと成功するはずだから。…行こう。」
信男の震えはなくなり、他の人も緊張を抑えて人形劇が始まった。
信男たちは役になり切り、腕が筋肉痛になるまでそれを演じ続けた。多くの生徒は初めヤジを入れたり、嫌味な笑いを浮かべていたが、信男たちは気にせず、恥ずかしがらず、続けた。そこには変な笑いではなく、本当に面白くて笑ってくれたり、真剣に演技を聞く人達が増えていった。そして物語は終盤へと向かっていった。
『ようやく、鬼ヶ島にたどり着いた! 鬼たちめ、覚悟しろ!』
手作りで作った桃太郎とお供として犬、サル、雉をモチーフにした女性の擬人化3人、そして鬼たちが劇場で躍動している。鬼の人形は桃太郎タッチに敗れ、見事物語はハッピーエンドを迎え閉幕した。観客は拍手で信男たちを激励した。中には珍しく天河がいた。
劇が終わった後、片づけていると天河が腕組みして待っていた。
「人形劇って言ってたから何も邪魔しなくてもつぶれるって思ったけど、中々大したものね。」
信男は腰が抜けたのか、ふらつき、地面に座り込んでしまった。
「よかったぁ。ほんと、どうなるかと思ったよ。とにかく、天河さんに褒めてもらえて嬉しいよ。」
人気がいなくなり、家庭科室には手芸部のメンバーだけがいた。みんなほっとしていたようだった。あやは信男にお茶を手渡し、
「マスター、お疲れ様です。」
信男は椅子に座り、全員の顔を見渡しながらお茶を飲み干してゆっくりと語りだした。
「みんな、ありがとう。とりあえず午後の回まで時間空けてあるから、それまでは休憩なり、自由に行動していいよ。」
「ではマスター、私と愛海さんはクラスの方に行ってまいります。」
あやさん、愛海さんは自分のクラスのところへと戻っていった。きらりさんも本当は僕とデートしたそうだったけど、友達との約束があり、そちらに向かっていった。麗美さんも少し出てくるとばらばらになっていってしまった。残るは俺一人だった。少し疲れたからここでゆっくりするのも悪くない。
クラスに帰っても特に役割決まってないからなぁ。まぁどうせクラスじゃ輝けないからなぁ。
あれ?いつからだっけ。俺が目立ちたいって思うようになったのは…。俺、みんなに会って、初めて俺みたいなのが目立っていいんだ、輝く青春を送っていいんだって思えた。
あやさん、きらりさん、愛海さん、、麗美さん…あれ?こんなに少なかったっけ?
考えていると頬に冷たいものが当たった。びっくりしながらそっちを向くと麗美さんがいた。
「びっくりした、麗美さんか。」
「言ったでしょ? ちょっと出てくるって。コーラは嫌い?」
「う、ううん。ありがとう。」
缶のプルタブを開けて、少し噴き出たコーラをすすって一息ついた。横を向くといつになく、真剣な麗美さんが座っていた。
「どう、したの?」
「ねえ、最近入ったから私わかんないし、思い過ごしかもしれないかもだけど、なんかここの部員少なくない?」
少ない?俺の違和感はやっぱり当たっていたのか? 何かがおかしいのは分かっていた。
「そうかも、、しれない。そういえば一度、愛海さんのことを認識できなかったことがあった。体育祭の日の保健室だ。」
「それ、今の感じてる違和感と関係あるかも。絶対降星会のせいよ!ねえ、ダーリンが覚えてる限りの人で降星会に近い人は?」
「羽生時雄、甲斐弾乃介、それに天河美琴…かな。」
「二人で行動しましょ。何が起こっているかわかんないし。まずは羽生ね。」
俺と麗美さんは羽生のクラスの元へと急いだ。大勢の生徒をかき分けていくと、信男のクラスが見えた。看板係には廉ともう一人が立っていた。
「よぉ、れんれん。無様な姿だな。」
すると廉は小声で怯えながら
「え、ぼ僕ですか? 何ですか?」
「は? いやいや、冗談キツいよ連くん。俺だよ、如月信男。」
「ああ、うちのクラスの…。でも僕に用はないでしょ? これから出嘉井くんと宣伝だから。もし、他にも友達がいたら宣伝お願いするね。じゃあ。」
出嘉井? そうだ、出嘉井修三。初めに目をつけられたクラスメート、、は? あいつが? あの見た目、まるで別人だぞ。ほっそりしてるし、面影はあるみたいだけど、、、俺は勇気を出して、声をかけてみた。
「なぁ、出嘉井。俺のこと、覚えてるか?」
出嘉井も廉同様に怯えた目でこちらを見つめて、小声で話し始めた。
「同じクラスの、、如月くんだよね。知ってるけど、僕がなんかした?」
「なんかどころじゃあないだろ!! おまえ、ダイエットしたのか? 個性だろ?」
「なんの話? とにかく、それは僕じゃない。他を当たってよね。行こう、連くん。」
廉と出嘉井は仲良さそうに外へ宣伝周りに行った。麗美と俺は彼らの異常さに確信が付いた。個性がなくなっているのか?でも、個性をなくす個性なんてありえないって...
「ダーリン? 早く、羽生のとこ行こ?」
「あ、うん。」
また、羽生の奴の仕業か?羽生のクラスに入ると羽生はいなかった。代わりにあやさんがいた。
「あやさん!!」
「マスター、どうされたんですか? もしかして、麗美さんとデートですか?」
よかった、僕のことは覚えてるみたいだ。麗美さんとのデートは誤解だけど、すごい冷めた目向けるじゃん。麗美さんが煽るように腕を組んで
「そーよ。うらやま?」
「麗美さん! 違うでしょ。そんなことより、羽生知らない?重大なことなんだ。」
「羽生さんですか、そういえば、出かけると言ってシフトをさぼっていきましたね。人手は足りてるんでいいですけど…。確かに彼も真剣そうな顔してましたね。私も手伝いましょうか?」
「いや、あやさんはクラスのことがあるでしょ? 俺たちが何とかするから。」
あやは少しうつむいた後、凛々しい表情でこちらを向き
「わかりました。終わり次第、駆けつけます。」
あやに見送られた後、手がかかりもなしに探していると、甲斐がきょろきょろしながらうろついていた。いかにも怪しい行動に俺たちは尾行しようとしたが、思っていたよりも気づかれるのが早く、見失ってしまった。代わりにきらりさんに出会った。
「二人ともどうしたの? マジな顔しちゃって。」
「きらりさん、俺たちが分かるの?」
きらりは信男の返答に首をかしげながら、
「何言ってんの? モブッチのこと忘れるわけないじゃん! で。どうしたの?」
「廉が、俺のこと気づかなかった。それに今までいた部員がいない、と思う。」
「いない、、あ! 思い出した。天使月姫ちゃん! あの子なにしてんの?」
そうだ、天使ちゃんだ。彼女がいつの間にかいなくなっていたんだ。それに亜莉須先輩。ついでに廉、あいつも立派な部員(なかま)じゃないか!
俺は何してんだ! 友達の名前も、顔も忘れて、のうのうと楽しんで、、俺は、俺は・・・。頭を抱え、しゃがみ込む俺にきらりさんは慰めに抱きしめながら
「大丈夫、モブッチ。うち、モブッチが大好き! でも、後ろ向きなモブッチは好きじゃないな。だからさ、みんなのこと、モブッチが思い出せたんだから、みんなも思い出せるよ。今は、この現象を突き止めるのが先だよ。何をすればいい? うちらを導いて! いつもみたいに引っ張って!」
俺は立ち上がり、大きく深呼吸をし、説明した。
「多分、この一連の事件は降星会に関係してると思う。だから俺と麗美さんは羽生時雄、甲斐弾乃介、天河美琴にコンタクトを取ろうとしてたんだ。」
きらりは少し考えた後、『あっ!!』と大きな声を出して目を見開いて
「羽生なら、弾さんと同じ方向に言ってた気がする! ねえ、うちも連れて行って! うちもみんなのこと助けたい! ね、いいでしょ?」
「わかった。麗美さん、きらりさん、行こう。」
「モブッチ、もう“さん”付けはおかしいっしょ。友達なんだし。」
「そうよ。私たちは運命の恋人なんだから、さん付け廃止!! ね、ダーリン?」
「もう、気にしぃだなぁ。行くよ。」
俺と麗美はきらりに引き連れられて羽生の元へと向かっていった。
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