30:共同戦線

渡り廊下を1つ抜けたところに彼はいた。羽生時雄は教室に張り付いて真剣な面持ちで様子をうかがっているように見えた。信男はなりふり構わず、時雄の胸倉を掴み、そのまま引きづったまま突き当りに彼の背中をたたきつけた。


「また、個性を消す装置とやらを使ったな! 元に戻せ。さもないと今度は容赦しない!」


「…ふざっ...けんな!!」


時雄は膝蹴りで信男のみぞおちを蹴り上げ、引き離した。信男は再度取っ組み合いにかかろうとしていたが、麗美ときらりに止められ、少し正気を取り戻した。


「羽生、天使ちゃんをどこにやったんだ。」


「俺も被害者だよ。弟分の冬吾がいつの間にかいなくなってた。あいつ、個性というか、自信を無くしちまったんだ。あいつのためにも真犯人を見つけ出す。これでも、俺は容疑者か?」


羽生の言葉に信男たちは驚いて、しばらく反省した。信男は顔をあげれずに「すまない」と細々というと、羽生は「ああ」と一言だけ言った後、改まって提案をしてきた。


「犯人を捕まえる間だけ、手を組まないか?降星会に近い人間は多い方が情報は正確になる。」


信男は内心羽生を馬鹿にするひょうきんな顔で答えた。

「今日だけだぞ?」


羽生はひょうきんな顔をできるだけ見ないようにそらしてから

「ああ、俺もお前らと馴れ合うつもりはないからな。」


羽生と御笠さんによると会合の場所はいつも変わり、連絡によってわかるらしい。以前は御笠さんもやっていたらしいが信男の元に来てからは天河と甲斐が行っているらしい。羽生は天河を追っていたが途中で見つかってしまい、甲斐の方を追ってやっとこの場所を割り出したのだった。


「なるほど、視聴覚室か…。」


信男が考えているとしびれを切らした羽生は何も言わずに飛び出し、視聴覚室に侵入した。そこには甲斐ではなく、二階堂が立っていた。そして羽生の相棒藤田が縄で拘束されていた。信男は苦笑交じりに


「なんかデジャブ…またお前かよっ!」


とつぶやくと二階堂は高笑いをして


「またまた、だまされてもらいましたぁ~。ほんと、お前らって単純。」


羽生はなりふり構わずに蹴りを二階堂に向けた。


「てめえ、木村の腰ぎんちゃくのくせにっ!」


「あいつはただの道具だよ。俺は元より降星会のメンバーなのさ。楽しかったなぁ、あいつとの舎弟ごっこ。お前もそう思うだろ? 羽生時雄くん。」


羽生は信男の加勢を一向に拒むように一人で二階堂に挑んでいた。


「全く、趣味の悪い狐を借ったもんだな、木村は…。俺はっ!!」


羽生はフレアナックルを現出させて木村に炎の鉄槌を浴びせていった。


「冬吾は俺の大事な相棒で、弟分だ! それを忘れていた俺自身も許せないが、お前みたいな三流と同じにされたくないな!」


信男をもまた同じような思いでいた。だからこそ、勝手に参加して、二階堂にハートスクリューを繰り出した。ハート型の波が二階堂を襲うが、二階堂は微動だにしなかった。おなじみのラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーンも効いているように見えなかった。


「誰しもが尊いの領域に至らしめて戦意を喪失させる大技なはずなのに!!」


「ダーリン、こいつにはそんなこと楽しめる心なんてないわよ。」

「モブッチ一旦ハウス、ハウス!!」


信男は焦りながら御笠ときらりの方に向き、

「なにそれっ! 俺めちゃ相手悪いじゃん!いや、それでもハウスしてられない!」


それに対して羽生が反応して

「帰れ! 足手まといだ。」


「うるさい、俺もお前の気持ちがわかる。だから、こいつから天使ちゃんの居場所を聞くまで一歩も退く気はない。天使ちゃんもお前の言う相棒だから!」


「なら勝手にしろ。」


羽生と共に二階堂を追い詰めていったが、彼の個性は想像以上に厄介だった。右だと思えば左、上だと思えば下と、まったくもってあべこべの嘘が思考を乱していくのであった。嘘だとわかっていてもそう分かったころには次の手を食らってしまう。彼らは二人係で何とか優勢に保っていた。するとそこに元凶、降谷一星は蒲生きらり、御笠麗美、そして甲斐弾乃介が天使月姫、藤田冬吾を抱え、そこに立っていた。降谷は人質を盾にしながら交渉を申し出てきた。


「少し、その戦いに異議を申し立てたいのだが、いいかね?」


「降谷さん…」

二階堂に対しては返事を返さず、信男の方に近寄ってきた。


「君が、如月信男くんだね。直接会うのは初めてだろう。だが、これで最後だ。私じきじきに学校に来られないほどの苦痛を味合わせてあげるよ。」


「あんたがどんな人かは知らないですけど、一つだけわかる。あんた今、最高に悪い表情してるよ。」


あざ笑い、煽り倒す信男に降谷は手を挙げた。


「黙れ、君たちは私の言うことだけを聞いて平凡な暮らしをしていればいいのさ。目立たず、常識的な暮らしを、ごく普通なモブの人生を送っていればいい。天才(ペキュラー)は一握りで十分だ。」


「今ので確信した。あんたは人の自由を奪う悪だ!」


「私が正義だ! お前たちは風紀を乱す悪なんだ。…しかし、私も鬼ではない。取引をしよう。うちの二階堂と甲斐そして君たちでダブルマッチをしてもらうよ。今年の運動会のようにね。君たちが勝ったらこの子たちを解放してやろう。負けたら退学だ。私は今や相川よりも実権を持ちつつある。これはその見せしめになるはずだ。さてと、、ん?」


降谷が甲斐と二階堂の方を見ると二階堂の方が幸せな表情で倒れていた。


「二階堂!! くそっ、どうなったんだ。」


羽生があくどい笑いを浮かべ、


「俺が対策も講じずに乗り込んだと思うか? 如月、俺が個性の能力を奪う装置を作ったの覚えているか?」


「あ? ああ。」


「あれを応用したものだ。元々、あの装置は降谷の能力を活かすための能力増幅装置だった。あれから研究を重ね、自分の能力と合わせて、自力で個性能力を伸ばしたり、失った状態にできるようにできた。それを、このグローブに搭載しておいたのさ。それであいつ自身にかけていた嘘の効力が薄れ、如月のしょーもない技が今になって効いたんだろ。」



「くっ…ならば、甲斐、君一人でやりなさい。どっちでもいい、完膚なきまでに潰せ。」


「わかりました。ならば、如月信男! やはり、この学校の風紀を乱す元凶である君をこの甲斐弾乃介が制裁をもって更生するべし!」


信男は周囲の反対をよそに戦いを選んだ。信男はマジックステッキで彼を攻撃するが当たらず、甲斐は盾を持ちながらジグザグに突進してきた。彼のタックルはとてつもなく重く、吹き飛ばされてしまうほどだった。だが、ただただやられるわけにはいかない信男は必殺技を繰り出すも盾によってはじかれてしまった。そもそも魔法が盾にはじかれてしまうなんて変な話だが、実際に魔法は分散され、甲斐には全く当たらなかった。


「如月君! 君の攻撃は僕のタックルシールドによって完全にふさがれている。さあ、ノーサイドだ。」



信男は悩んだ。シールドをふさぐ手段としては後方に回るのがベストだとわかってはいるものの、甲斐は弱点をさらすほど馬鹿ではない。常に彼は信男の目の前で対面している状態を保っている。

(せめて、亜莉須先輩みたいに現出魔が使えたら、、みんなが捕まった時や俺が一人で戦わなければならない時でもなんとかなるはずだ。こうなれば、土壇場でやってみるしかない!!練ろ、練ろ、俺の現出魔!)


「甲斐、君は歴史の目撃者になるはずだ。これから俺が現出魔を出すその瞬間を!! 現出魔(イマジカ):なんかすごい奴!!」


信男はステッキと共に両手を地面につけるが、特に何も起きなかった。


「バカにしているのか!?悪あがきだ、かわいそうだが、決めさせてもらう! 大技<ヘヴィ・チャリオッ!?」


途中で甲斐はなぜか体制を崩した。理解できなかったが、信男は隙を逃さずにステッキを再度現出させ、盾で守れないように杖の先を甲斐の胸に当てて叫んだ。


「くらえ、ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン!!」


甲斐は実直だったためすぐに信男の能力に負け、戦意を失った。その光景を見た降谷は眉毛をぴりぴり震わせて


「なるほど、君が危険なのは大変分かった。今日のところは引き上げるとしよう。会長となるため、邪魔となりうるものは排除する。これが私のポリシーなのだから。」


「俺も、ハーレム道を邪魔するなら、これ以上黙ってはいられない。たとえそれがいばらの道だとしても!!」


二人はにらみつけあい、お互いにこれ以上干渉しないように信男はきらりたちを、降谷は甲斐を連れて帰った。信男の中では降谷とは相いれない何かを感じながらきらりたちを連れて家庭科室へと戻るのであった。


家庭科室へと戻ると天使ちゃんが眠っているように机の上に倒れているのであった。なぜか服装が今までの制服ではなく、信男が初めて出会った純白な姿だった。


「天使ちゃん!?」


「るなっち!?」


「ん...。うぅ...」


天使が目を覚ますと信男たち三人に対してきょとんとした姿で顔を見つめていた。信男は必死になって彼女に呼びかけた。


「俺だよ!! 天使ちゃん! 君がいないと、廉のやつはどうするんだよ。あいつ、なんだかんだお前のこと好きだしさぁ! 俺も天使ちゃんがいないとダメなんだ! 見守っててほしいんだ!だからさ、思い出してよ! 友達だろぉ!!」


「とも、だ、、ち? の、ぶおくんそんな風に考えてたの?」


「よかった! 記憶がもどっtうわqすぁえrftgyふ」


「私は...!! もういいです! それより廉くんも取り戻してください!」


「ふ、ふぁい...」


廉は普通に取り戻しました。

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