16:裏切り者達に鎮魂歌を

誰かが俺の頬をぺちぺちと叩いてくる。



一体誰なんだ。目を開けるとそこには男がいた。フードを深く被っているので顔は分からないがどこか聞き覚えのある声に起こされた。ここは、体育倉庫・・・?


男はため息交じりに



「やっと、気が付いたようだな。ここに運ぶのが一苦労だったよ。」



「あんた、一体何者だ・・・。」



「忘れたのか? あんなに仲良かったのに。」



まさかれんれんがまたグレたのか? いや、あいつに限ってそんなわけがない。


フードの男はその黒いフードを脱ぎ、正体をさらしたのであった。


信男はピンと来ていないような顔で



「・・・誰だっけ?」



「おいいいいいいい!! オレだよ!」



「新手のオレオレ詐欺か?」



「は・にゅ・う! 羽生時雄だ! 忘れたとは言わせんぞ、如月信男ッ!」



信男は腕組みをして考え、思い出した。



「・・・あっ、個性を奪う装置作ってた変なやつ。」



「そう、ってどんな覚え方だ! このマヌケがッ!」



「アニキ・・・。僕も彼に言うことがある。」



もう一人、遠くから見ていた男が同じようにフードを脱いで信男に近づき



「君の事は恨まない。だけど、アニキを悪く言ったら、この藤田冬吾が君を許さない。」



藤田冬吾、、確かきらりさんとのデートを邪魔してきた奴か? そうかこの二人グルだったもんな。



「俺達はお前のせいで人生を狂わされたんだ。だが、俺は感謝もしてるんだぜ。」



意味の分からない言葉を羽生が吐き捨てるので信男は尋ねた。



「どういう意味だ。」



「アニキは力を手に入れた。今ではお前と同じ能力者さ。」



「そうさ、だからお前さんの力、頂くぜ。」



一瞬、羽生の手が光っているように見えた。俺は触れたらヤバいととっさに思い、よけた。



「相変わらず、逃げ足だけは速いなぁ。俺の力を見とけよ。」



そう言うと羽生は



左手に力を込めるとそこには焔が立ち込めた。メラメラと燃え盛る炎は拳にまとわりつきグローブのようになった。この光景はどこかで覚えがある、気がする。



彼の左フックが頬に差し掛かる時とっさに現出して謎の防御魔法を繰り出した。拳は当たる事は無かったが炎の熱さが信男の記憶をよみがえらせた。



(あれは俺と戦った篤井とかいうやつと似た個性だが、同じ個性が発現するのか?)



「どうやらこの能力になにやら覚えがありそうな顔だね。それもそうさ。お察しの通りこれは篤井修の個性さね。 これがどういう意味か、わかるか。 分かるわけもないよな。教えてやる、俺の個性はな、ものまねだ。」



「 は? 」



「個性をまねる。それもりっぱな個性なのかもな。俺はお前を超えてお前の能力をもらう!」



そう言うと銀色のオーラを纏った右手を俺に向けてきた。俺の個性をまねるつもりなのか? ハーレム主人公はこの俺だけだ!



「お前が、ハーレムの力を手に入れたとてお前は俺になれない! 俺の方は神様にも愛されてるからな!!」



近づく右手を払いのけ、羽生のその間の抜けた顔面に頭突きをくらわした。彼が怯んでる隙に逃げようと倉庫の引き戸を開けようとするが、一向に開かない。うちから鍵かかっていたとしても開けられるなら、あかないなんておかしい。声を荒げながら、扉を強く叩く。異様にしんとした外には希望は見いだせなかった。自分の意志ではなく引っ張られて振り向き、無言で殴られた。



「大人しく、しやがれ。そして、俺に力を...。」



諦めかけたその時、外の方から、ガタガタと音がすると扉が勢いよく開かれた。外には制服を着た大柄の男が仁王立ちで立っていた。 信男がポカンとしていると藤田と羽生はめんどくさそうな顔をして



「クソッ、生徒会長かよ。冬吾、一旦ずらかるぞ。」


「ああ、その方がいいね。 失礼します。」



大柄の男は深追いすることなく、目をくらませている信男に手を差し伸べた。



「大丈夫かい? 如月、信男くんだったかな?」



「なぜ、俺の事を? あなたは?」



男は胸を張りその自信満々で満ち満ちた笑顔で返してくる。



「君の事は君のお友達から聞いたんだ。 そして私は、、」



言いとどまると体をクルッと一回転させ、歯をキラッと輝かせた。



「愛は力、愛こそ正義。愛こそ一番!! 欅ヶ丘高校 3年2組相川一郎! 以後、よろしく!」



まためんどくさそうな奴が現れたなあと思いながら、信男は会釈した。

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