15:目覚めよ、熱き魂②

時間は残酷だ。チャイムが学校の終わりを告げる。


今日はいつになく憂鬱だ。だけど、ここで逃げたら、あやさんに顔向けできない!!

逃げちゃダメだ! 逃げちゃだめだ!


そう言い聞かせ、奮い立たせていよいよ放課後になり、事件のあった中庭についた。

そこに行くと彼は仁王立ちで佇んでいた。そんな事はないが目から炎が出ていそうな彼は開口一番に


「来てくれたな! 素直にうれしいぞ! よし、早速やるか!」


俺は臆して


「いいいいや、ちょっと待ってくれ。・・・準備運動だ、準備運動しないと俺の個性は引き出せない。」


こんなでたらめで何とかなる奴なのか? いや、とりあえず、落ち着いて深呼吸したいのも事実だ。


「おっ、そうなのか! 5分だけあげよう!!それで足りるはずだよ。」


少し、人の事を考えられる人で助かった。


「その分、パフォーマンスはバッチリにしてくれよな! 僕は君の本気が見たいんだ!!」


ちょっと違うかも知れんが、とりあえず、冷静になろう。


よし、準備は整った。

もう一度イメージしよう。俺の武器を・・・男が持つと変だがあのピンクの女児向け用の魔法のステッキを出そう。


「現出、<マジックステッキ>」


「現出とはいいね! 僕もやろう! 現出<フレイムナックル>!」


篤井修の手の周りから焔がまとわりつき、ボクシンググローブのような形状になると、篤井はステップを踏み、強めのストレートを打ってきたが、モブ男はさっきの要領で魔法の壁を作って回避する。


「そうやって、自分の殻にこもるのは良くないぞ! まっとうに勝負ししたまえ。」


「悪いけど、圧の強いやつは嫌いなんでね。なんか、必殺技とかないのか?」


モブ男は何度も呪文のようなものを唱えたが何も起こることは無かった。一番初めはまぐれだったのか!? 考えれば考えるほど防戦一方だった。


「君には戦意を感じない。どうした、もっと僕をたぎらせてくれ、熱くなれよ!」


彼の手が一気に燃えだす。それは大きな拳のようになり。彼はとどめを刺しに来ているようだ。


「悪いけど、札杜くんは僕と練習だな。君は本当に僕にとって乗り越えるべきハードルにしては低すぎた。これに躓いていたとは僕の熱く燃え上がるハートが泣いてしまう。 さあ、終わりだ。 燃え上がれ、ハート! 唸れ拳! シャアアアアアアアイニング・オオオオオーバアアアアアアアアーーー・ヒーーーーーーッ」


長ったらしく熱い必殺技が出そうだ。どこに逃げればいい!!


『範囲攻撃はとりあえずさっきの壁を作って! モブちゃん!!』


その脳内に語りかけてくるのは天使ちゃんか! まずい!! つぶされるっ!


「バリア!!」


すんでの所だった。バリアは先ほどよりも硬く、分厚く、何重にも重なっていた。それは玉子の殻のように俺を包んだ。必殺技はそんなには長くは持たないだろう。その間に態勢を立て直して向かい打たなければ、あやさんを、いや、守られてばかりのハーレムは嫌だ! 俺も!かっこいい所見せるんだ!!


「モブちゃん、かっこいいよ! 今なら必殺の呪文出来るよ!! 呪文はね・・・。」


天使ちゃんは脳内なのになぜかひそひそ声で話してきた。少しこそばゆい思いをしたが、、いや、恥ずかしすぎる。俺がプリガルを見過ぎてるせいなのか、こんな所に影響が出ているとは、、こうなったらやけだ!!男は度胸!


「篤井、悪いけど俺は困ってる女の子を見過ごせない。お前はアプローチが熱すぎる! 恋愛向きじゃないんだよ! 喰らえ! ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン!」


ステッキを篤井に向けるとステッキからハート模様がまさにハリケーンのように舞い、相手を吹っ飛ばした!!篤井は当然KOされていた。つえええええええ! でも、使いたくねええええええ!

 始末した後、噂を聞いた部活終わりのあやさんと、二階から見ていたという天使ちゃんが二人して現れた。


「マスター! ほんとに篤井くんと決闘したなんて、しかも勝ってる・・・やはり私のマスターは、強いです。でも、二度しないで下さい。」


あやさんが少し涙を見せながら言った。なんていい人なんだ。好きだ。みんなの事も好きだ。

天使ちゃんは手を掴んできて


「やっぱり、出来ると思ってたよ。 さすが、私が選んだだけあるね! でもあんなに能力使って大丈夫?」


「だ、大丈夫だって。それより、あの篤井ってやつ、きっとあやさんの事好きだったんだよ。だから、俺を妬んだ。だけど、妬みきれなくて、決闘するしかなかった。それがこの男の顛末だよ。」


失神している篤井には悪いが彼の不器用な言葉を代弁してしまった。あやさんは、それを聞くと失神している篤井にむかい、


「篤井くん、あなたには悪いけどあなたの篤い気持ちには答えられない。私には心に決めたマスターが言るから。じゃあ、また教室でね。」


いつもクールだけど、札杜さんはめちゃくちゃいい人だと思う。他の人たちはもう帰ったけど、みん名の事も大好きだ。やっぱり、ハーレムは最高だな。


「黄金体験は今も絶好調だな。お前は良いよな、俺にも分けてほしいよ。」


急に横やりが入ってきた。誰だ? フードを被っていて顔が分からない。もう一人いる。どちらも制服はボロボロで中学生のヤンキーがつけてそうなチェーンをぶら下げている。

はじめに話しかけてきた奴とは別の奴は子分のような口ぶりで


「アニキ、こいつらやっぱりやるのかい?」


子分をなだめる兄貴分は前に出て


「今回は挨拶だけだ。 また今度、お前の能力を奪うさ。その時は地獄で会おうぜ。」


不敵な笑みを浮かべた二人は影に消えていった。不穏な予感がする。今回は速攻で撤退してくれたけど・・・

だけど、あの二人の声、どこかで聞いたことあるんだよなぁ。どこだったっけ・・・と思っていると意識がもうろうとして視界が狭くなり目の前が真っ暗になった。


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