第7話

 陽が傾いても、わたしはまだあの声から抜け出せない。

 珍しく授業を放り出して、屋上で大の字に横たわる。

 こんなことを自分がするなんて、一年の時は考えられなかった。先生のサボり癖が移っちゃったかな……。

 考えてみれば、私の変化はそのどれもが隣に先生がいた。

 逃げることの勇気も、サボることの大切さも、ひとを好きになることだって。

 愛人未満。それだけで満足だった。満足なはず——、だった。

 きっと、この関係はもう終わる。先生だってきっとそれを解っている。いや、おそらくは最初から。


「ははっ。大人ってズルいなぁ…」


「なんだ、よくわかってんじゃん」


 しみじみと吐いた独り言に天井から思わぬ声が応えた。夕陽を灯したチーズ色の白衣に、額をぺちぺちと叩かれる。


「……先生」


「珍しいな。こんなとこでサボってるなんて」


 帰るぞ、長いまつ毛を瞬かせながら、教師が手を伸ばす。女のひとみたいな細い指先と男性特有の骨張りが調和を保って、とても特別なものに感じてしまう。


「うん……」


 その手に一度触れてしまえば、それまで抱いていた憂いも何もかも赦されているかのような気がして、急に泣きそうになった。


「どうした?」


「なんでもない、です……」


「そうか?」


 顔を見せるのが気恥ずかしくて、小走りに扉へ向かう。


「早くしないと置いてっちゃいますよー」


「いや、捜したのはオレの方なんだが」


 足早に階段を降りていく生徒に教師は首を傾ける。今日のあいつはなんだかおかしい。


「———」


 その行動あやしさに心当たりがないわけではない。されど———いや。だからこそ、教師は沈黙を貫く。

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