第4話

 きっかけは些細なことだったと思う。それは雨のように突然で、長い停滞だった。


「お前の『好き』は受け取れない」


 前後のことはよく覚えていない。強過ぎる雨の音。叩きつけるようなソレのなか、わたしは先生に想いを告げた。

 先生は私の『好き』を否定しなかった。気持ちそのものは素直に嬉しいとさえ言ってくれた。それでもその答えは、どうあってもわたしの望んだものではなかった。


「それは……っ、わたしが先生の生徒だからですか……?」


 先生の顔が暗む。自分でも情けない質問だと思った。こんなズルい言葉で先生を困らせるなんて。

 解っている。先生はそんなことで、私の気持ちをないがしろにしたりしない。

 だからエゴだった。無理やりに押し付けた唇も、逃げ出したあとの後悔も。一度きりの片道切符だと割り切った。

 それでも、そのエゴはまだ続いていた。

 そんなことを生徒にされた先生は、わたしを監視対象にでもしたのだと思う。打って変わって、自ら恋人を申し出る先生の言葉うそにそれでもわたしは舞い上がった。舞い上がってそれで——現実を突きつけられた。

 先生にはすでに妻である女性がいた。考えてみれば、わかることだった。

 愛人未満——それが私たちの関係。

 先生に『好き』を拒絶されながら、それでも『好き』を続けている。




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