第3話
「ほれ、コーヒー」
黄色い線の内側、俯いていた視界の上に缶珈琲が伸びてくる。
絶妙なバランスで、早く受け取ってくれといわんばかりに指先がプルプルと震えている。
「ありがとうございます」
手元にじんわりと暖かさの広がりを感じながら、それが逃げないように両の手と太腿で包み込んだ。
隣に腰下ろした先生は、持っていたもう片方の缶をぐいっとあおる。
そんなに一気に飲んではアツいのでは? と思ったのも束の間、苦味と熱湯のダブルパンチにはふはふと喉に空気を入れていた。
ふふっ、笑いながら自身も缶の蓋をあけ、うっすらと見える焦げ色を飲む。
街外れの駅は人数もまばらで、このホームにはわたしと先生の二人だけだ。
「もう一月ですね……、早いものです」
「来年の今頃は受験だしな」
「もうっ、言わないでくださいよ。考えないようにしてたのに…」
「ははは、悪い」
いつもの日々が過ぎていく。凸凹の屋根から見える蒼穹は、最後の陽を染めて夜を向けようとしていた。
「……ねぇ、センセ。約束、覚えていますか?」
傾けていた缶がぴくりと止まる。一瞬の静寂が駅をかすめた。
目線はそのまま、教師は飲み干した缶を膝に置いた。
けれども、先生が答えるよりも前に、列車の到着音が鳴り響いた。二人の間を割ったそれは、まるでサイレンでも鳴らすように、警告じみている。
わたしたちは、付き合っている。
互いのエゴが重なった。赤い糸の
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