五章「セカンド・オリジン」③淘汰せよ
無数の弾が放たれた。
寸前で走り出した。右へと大きく踏み出し、地面を蹴る。刀護の最高速にはエネルギー弾は着いて来れない。
だが、それは同時に先読みしやすいということでもある。
刀護の行く先にエネルギー弾が迫る。ここで刀護は急ブレーキをかけた。
そして、踏み込む。
大きく前へと飛び出した。総長の方へと一気に向かう。
「ワンパターンだ、容易い!」
弾の密度を更に高める。致命傷を負う確立が増えた。
――まずい……!
握っていた拳を大きく開く。
放たれた弾を、手で掻き分けるようにして疾走する。
「なっ……!?」
もちろん手のひらから全身へ、激痛が駆け巡っている。刀護の体も限界が近い。
だが、それでも。
――守ってみせる。
それだけだった。
「ちっ……」
総長は手を虚空にかざす。
「『
痛覚を激しく刺すエネルギー弾を細い槍のような形状へと変えた。
エネルギー弾が刀護の足元をすくう。
「ぐうっ!?」
――しまった!
目を向けた瞬間、総長は槍を振り上げていた。
「ふんっ!!」
左肩を貫通し、全身の痛みが騒ぎ出す。
「あがっ!? くぅぅぅぅぅぅうううぅう!!」
膝をつき、ひたすら痛みに耐えた。
「はっはっ! 惨めな姿だ。そうして学ぶがよい。痛みに伴う神の正しさを!」
「ぐ、うぅ……」
肩に刺さっている槍を握る。
手にも痛みが走る。だがそんなものは関係ない。
「あがっ……!」
引き抜いた。血が噴き出す。
「何だと!?」
蒼白する総長の顔。
食いしばる歯の音。
刀護の瞳は、確かに総長を捉えていた。
「食らえクソジジイがぁあぁあああ!!」
槍が、総長の腹を貫通する。
「がぁああああああぁぁあ!?」
痛みが全身を刺激する。冷静さを欠け叫び声を上げていた。
はぁ、はぁと刀護は肩で息をする。解けかけていた頭の包帯を引っ張った。
「やっとまともに苦しみやがったな」
左肩を押さえる。まだ痛みが残っている。口と右手を使い、包帯を左肩に巻いた。
総長は四つん這いになりながら、槍を押さえている。ようやく気づいたのか、自分の能力で槍を消した。
腹を押さえながら、壁に手をつき起き上がる。
「このタイミングで効果が出てきたか……皮肉だな」
刀護が呟く。
「いくら痛覚を操れたところで、体のダメージが消える訳じゃない。攻撃していればいつか限界は来る」
辛そうな表情を窘めるように、刀護は見つめていた。その痛みが何なのか、刀護はよく理解していた。
総長がぐっと歯を食いしばった。かと思うと、グニャリと口角を上げる。
「詰めが甘い……そう言われないか?」
「まさか、ここで終わりじゃねぇよ。何回でもぶちのめしてやる」
ははっ、と総長が笑った。
「刀護ぉ……何故お前に幾度となき痛みを加え続けてきたか、わかるか?」
「……さぁな」
「今日! この日のためだ!!」
総長は腕を大きく広げる。
「『苦痛』――『
巨大なエネルギーが総長の体から溢れ出て、やがてそれは大きな塊となる。
「これに触れれば、今まで生きてきて受けた痛みの全てを呼び覚ますこととなる!」
「ハッ、こんなもん避ければ……」
「後ろの彼女たちを見捨ててかい?」
驚いて後ろを振り返る。絶対に後ろにこないよう考えていたはずなのに、守花と渚が心配そうな目でこちらを見つめていた。
――ハメられた!!
「さぁ! 勝負だぁ!!」
総長がエネルギーを放つ。
「くっ……!」
腕を広げ、エネルギーを全て受け止めた。
総長のアストラルが体に侵入していく。
「っ!! ――っ……」
一瞬の激しい激痛の後、意識が暗闇に放り投げられた。
――……あぁ。
思わず、呟く。
――オレ、死んだか。
無理もない。あれ程の痛みを一度に経験すればショック死なんて考えなくてもわかる。
自分の目から、涙が出ていることがわかった。
――……そうか、悔しいのか、オレは。
拳を握り閉めても、感覚はない。
――……ちく、しょう……。
目を、閉じた。
「まだだよ!」
背中からの温もりを感じて、はっと目を開ける。
「守ってくれるんでしょう!? 私たちに希望を見せてよ!」
渚が叫ぶ。
「桐生くんにはまだ伝えてないことが沢山あるの……まだ死んで欲しくない!」
守花が叫ぶ。
「――勝って! 私たちの
「っ……う……」
――今度は、オレが叫ぶ番だ。
足を大きく踏み込む。
「『
刀護の右手が赤く光る。
それは無慈悲な一撃。全てのダメージをエネルギーに変え右腕に集め、放つ『犠牲』の一撃。
飛び出した。
「くっ……来るなぁ!!」
総長は再び槍を創り出し、刀護へと放つ。
「――っ」
拳が、槍を破壊する。
「あ――」
総長から発された、無意識の声。
刀護の拳は、寸前に迫っていた。
「――ピリオドだ、クソ野郎」
ガッ、と大きな音が空に響く。
大きなクレーターを作り叩きつけられた総長はぐったりと、その意識を手放した。
「はぁ、はぁ……」
大きく、息を吐く。
――……勝った。
勝った。
――……守れた。
守った。
――オレ、は……間違ってなかったんだ……。
がくっと、大きく膝を折る。
「刀護くん!」
「桐生くん!」
二人は倒れる寸前の刀護の体を支えた。ぐったりと体重を支える余力もなく、辛うじて意識を保つようにうっすらと目を開けていた。
二人の顔を、ゆっくりと見る。
「……そうか。本当に幸せだな、オレ」
目を、閉じる。
「約束守ったぜ……」
彼女たちが初めて見た、刀護の笑顔だった。
二人が顔を見合わせて安心していると、正面の方から激しい銃声が鳴り響いてきた。何事かと思い、自然に守花は刀護を庇うように動いた。
走ってくる人影がいる。いつでもアストラルを発動出来るように、腕を構えた。
「お前ら、無事だったか!」
その人影はボロボロではあるものの、バットを掲げまだ余力のある少年だった。
「
「説明は後だ! 今、館じゃ日本軍と『カルナバル』の争いが起きてる。このままオレたちも捕まったら面倒くさいことになっちまう」
「……脱出ってことね」
「そうだ。あんたが渚だな?」
暮人は覗き込むようにして、渚を見た。
「お前はどうする?」
「私は……」
――私にも、帰るべき場所がある。
渚はゆっくりと立ち上がった。
「行くね、仲間が待ってるから。刀護をよろしく」
「……あぁ、任せろ」
彼女は走り出すと、振り向くことなく前へ進んだ。
「またね、私の
一言、そう告げて。
暮人が右から、守花が左から刀護の体を支える。意識がない人の体は本当に重い。力を合わせながら、ゆっくりと館の敷地から出た。
この状態で山を下りるのが危険だとわかりながらも、ゆっくり慎重に下りていく。
山の中腹あたりで、二人の人影を見つける。
「大丈夫……というのは野暮だね、その様子では」
椎名が冷静に声をかける。暮人が頷くと、右京が近づいてきた。刀護の体に触れると、一気に持ち上げる。
暮人は思わず笑ってしまった。
「さぁ、急ごう。早くここから出ないと国境を超えられない」
全員は頷くと、一気に山を下った。
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