第14話 『賭け』
「『賭け』ですか……」
「そうじゃ、『賭け』じゃ」
「具体的にはどんなことをするんでしょうか?」
「じゃあ、ヴァニラ王の弟の命を私は賭ける、君が勝ったらヴァニラ王の弟をやろう、じゃから君が賭けるものは……もちろん分かっておるな?」
「命……ですか……まだ何をするかを聞いてないんですが?」
「君が決めていいぞ」
俺は話に集中していて気づかなかったが、シロハとイースは心配そうな目でこちらを見ていた。
「……リョウくん……勝てるの?」
「……まぁ頑張ってみるよ」
イースが小声で聞いてきたため、俺も小声で返した。
では何で対決するかだ。
ギャンブルの国の王様だ、運はいいに決まってる。
運勝負は極力避けたいところだが……
「肉体と肉体の対決はわしは出来ないぞ、運と運や頭脳と頭脳の対決でお願いしたい」
……らしい。
俺はこの国のゲームはまだブラックジャックしか分からない。
だが、ブラックジャックは運要素が多いのが難点だ。
そこで、少し頭を使う要素を足してみよう。
ブラックジャックのルールは前に説明した通り、1から11のカードの11枚で行う。
そこに、2以外の素数のカードを引いた場合、そのカードの数はプラス1した数になり、素数ではないカードはそのままの数になる、そして、最初に配られるホールカードとアップカードのうち、アップカードは好きな数字を選ぶことが出来る、というルールを追加する。
対戦回数は二回。
最初にカードを選ぶのは二回あるため交互に選ぶ。
このルールを王様に説明した。
「ほぅ、面白いルールを作るのぅ、では部屋を移動しようか、魔法などが一切使えないギャンブル用の部屋じゃ」
俺はイースとシロハに見送られ、王様の後について行き部屋の奥の扉の中に入り、テーブルを王様と挟み席に着く。
ディーラーはいるようだ。
「インチキはなしじゃぞ」
「はい」
ディーラーは11枚のトランプをシャッフルし、ホールカードを俺と王様に配った。
一回戦目は王様が先だ。
「1」
1は素数ではないため、そのままの数字だ。
俺は素数ではない奇数の9を選ぼう。
「9」
この部屋はスキルも使えないらしい。
スキルが使えないなら運勝負でも良かったのだが、スキルの問題ではなく元々の運が良いという可能性もある。
この勝負は奇数で素数ではないカードを引かなくては21は狙えないため、一番最初は奇数で素数ではないカードを引くのが無難だろう。
俺のカードは9とホールカード、王様のカードは1とホールカードの6だ。
王様は一枚引き、カードは11。
今の王様の合計は1とホールカードの6と12で19だ。
この時点で、俺のホールカードがなんだかわかるわけが無いのだが、11では無いため勝つことは出来ない。
同点を狙うにはホールカードは10でなきゃ行けないが、ここは運任せだ。
そして引いたカードは『7』で、素数のため8だ。
そして俺の今の合計は17。
ホールカードが2の場合は同点、3か4の場合は勝ち、5か8か10だった場合は負けだが……
「「オープン」」
2人同時にホールカードを裏返す。
俺のホールカードは『2』
2人とも19でドローだ。
──そう、このゲームはドローの確率を高くしてある。
まず、同じ数が多くなっている。
1、2、4、4、6、6、8、8、9、10、12の11枚のカードだ。
しかも、最初に選ぶカードは1か9の奇数だけど素数ではないカードを選ぶのが無難なため、余るカードは、2、4、4、6、6、8、8、10、12に絞られる。
例えば、俺が1のカードを選びホールカードが8、王様が9を選びホールカードが6だとしよう。
この時点で余ったカードは、2、4、4、6、8、10、12、の7つ。
これで王様がバーストする確率は7分の3に少なくなる。
この例の場合は、俺が先で1を引いたため、先行は俺でカードを引き、10だったとしよう。
すると、俺の合計は19。
そして、今の王様の合計は15。
この時点で王様がバーストする確率は6分の2、引き分けになる確率も6分の2、勝つ確率が6分の1、次のターンになる確率は6分の1だ。
そして、王様が2を引き合計17になり、次のターンになった場合、21になる確率は5分の2で、引き分けになる確率はなくなってしまうが、バーストする確率が増えるのだ。
この例だとカードを引くのが二回目になると引き分けに出来なくなってしまうが、一回目で引き分けになる確率が3分の1あるため、引き分けの確率を上げるには良いルールだと言えるだろう。
「引き分けかい、珍しいのぅ」
「ですね」
俺はカードをまとめディーラーに渡す。
俺は無難に1をもらった。
しかし王様は……
「2」
2を選んだ。
王様はルールの裏を理解して勝負を仕掛けてきたようだ。
これはまずい。
どれだけまずいかと言ったらあまりまずくはないのだが、これで引き分けにするには俺が9を引く必要がある、だが引ける確率はかなり低いだろう。
しかし、このルールで最初に素数ではない奇数を貰わないのはかなりのハンデが出てくる。
王様のカードは2とホールカードが12で、合計14だ。
俺はカードを貰う。
ディーラーから渡されたカードは6。
王様がディーラーから渡されたカードは4。
俺がディーラーから渡されたカードは4。
王様はカードを一度要求しようとしたが、要求はしなかった。
この時点で俺の負ける確率は5分の1になった。
今の俺のホールカードを抜いた数は11。
だが、俺は王様のある『行動』によって勝ちを確信した。
「「オープン」」
王様のカードは、2、12、4。
俺のカードは、1、6、4、そしてホールカードは10。
21対18だ。
「おめでとぅ」
「ありがとうございます」
──おそらく王様は人の表情から何かを読み取るのが得意なんだろう。
このルールは理解するのにはある程度時間がかかるはずなのに、既に理解していた俺と同等くらいまで戦っていた。
それは俺の表情から自分のホールカードの大きさを読み取り、だいたい把握することが出来ていたからだろう。
そして最後、俺のホールカードを抜いた数の合計は11。
普通ならもう1枚引くだろう。
だが──
王様は自分のカードの枚数高いことを俺の表情から読み取って、カードを要求しなかったんだろう。
しかも、残っていたカードはすべて数の大きい数字、自分が大きい数字なのをわかった上でカードを引くメリットは低いと考えて引くか迷ったのだろう。
しかし、王様は自分のカードの大きさがわかったうえでカード引くか迷うということは、俺のホールカードの数は大きかったということだ。
そしてあの場面でまだ残っていた数は、6、8、8、9、10だ。
この中で大きいと言ったら9や10。
というか、まず6以外なら19以上になるため、ほぼ俺の勝ちだったのだ。
俺は王様に連れられ、牢獄へと向かう。
「この方がヴァニラ王の弟じゃぞ」
王様は目の前の牢の中を指さす。
───そこには、40代くらいのおじさんがいたのだ。
「あの……ヴァニラ王の弟さん……ですか?」
「おー! 助けに来たのかー!」
陽気なおじさんだ。
「ヴァニラ王のご命令で」
「兄さんの命令か」
本当にこのおじさんはヴァニラ王の弟らしい。
ヴァニラ王は見た感じ20代だったのだが……
ヴァニラ王の弟は王様に牢から出してもらった。
「そういえば、王様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
俺はずっと東の国の王様の名前が気になっていたので聞いてみた。
「わしの名前か……自分の名前はわすれたことはないんじゃ」
「そうなんですか」
「わしの名前は──」
「──『イース・ギル』じゃ」
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