第11話 王様と対談
俺とシロハとイースは城の目の前まで着き、入口の門の前に立っている使用人に話しかける。
「すいませ──」
「イースです! 王に呼ばれてきました!」
俺の言葉を遮りイースは言った。
「そうですか、少々お待ちください」
門の前に立っていたメイド姿の使用人は、城の中に入っていった。
しばらくしてメイド姿の使用人は、城から出て来て俺たちの所へやってくる。
「イース様ですね、こちらへ御案内致します。お連れ様も御一緒にどうぞ」
メイドは表情一つ変えずに頭を浅く下げ、城へイース、俺、シロハの順番で着いて行った。
城までの道の両側には池や花壇などのある大きな庭が広がっていて、凄い城なんだなと感じさせられた。
城の中に入り、俺たちはそのままメイドについて行く。
メイドは1度も振り返る素振りも見せず、淡々とロボットのように歩き続けている。
城の内装も申し分ない。
10階程ある階層は全て吹き抜けで、天井には直径10メートルくらいの大きなシャンデリアなどが天井にあり、壁のガラスはステンドグラスで、色とりどりの光が差し込んできている。
俺たちはメイドに案内され、如何にも『王様の部屋』と物語っているような扉を開き部屋の中へと入って行く。
「やぁ、こんにちはイースくん、それにシロハくんとリョウくん。君たちの戦いは見させてもらったよ」
「ヴァニラ様、こちらがイースさんシロハさんリョウさんです」
「今普通に名前読んだような……」
王様はメイドの行動に少し困惑した。
王様の名前は『ヴァニラ』と言うらしい。
この国の名前にも使われている名前だが、王の名前がそのまま使われていたのか。
「初めまして、リョウって言います」
俺は軽く自己紹介をした。
王様の見た目は20歳ほどで若く、綺麗な銀髪が腰の辺りまで伸びているが目は鋭く終始笑顔を絶やさない優しそうな男性というのが第一印象だ。
「しってるぞ、とりあえずそこに座りたまえ君たち」
俺たちはイース、俺、シロハの順番で席に着いた。
王様の隣にピッタリと座ったメイドの表情が少し幸せそうになったのが分かった。
「そうだな、自己紹介でもしようか、我の名前はヴァニラ・ツーヴェルトだ。好きな食べ物はバニラアイス」
『我』という珍しい一人称だ。
いやいや、ツッコミどころはそこじゃないか。
「あれ、このダジャレは理解できなかったか……俺の名前のヴァニラと味のバニラをかけたんだが……」
「わ、わたくしは面白かったですよ!」
「そうか! そうだよな! このネタはまだ君たちには難しかったか……」
メイドの無表情だった顔には、笑顔がうっすらと浮かび上がっていた。
だが、こちらの俺含め3人は苦笑いだ。
「この子の名前はレノールだ。我にしか懐いてないらしいんだが仲良くしてやってくれたまえ」
メイドの顔が少し赤くなったのが分かった。
王様に大事にされてるんだな、と感じたからだろう。
「では、本題に入るぞ」
王様は組んでいた脚を組み直し話し始める。
「君たちには東の国、ゴールディーンズとい国に行って欲しい」
いきなりこんなことを言われたら誰もが、なんで? と思うだろう。
「なんでですか?」
俺は愛想よく質問した。
「ふむ、イースくんから話は聞いていないのか……まぁいい、我から説明しよう」
ヴァニラさんは笑顔のまま話を続ける。
「この王国は、商業やギャンブルが盛んな東の国、海産物や果物が沢山あり大きな海を保有している南の国、たった1つで孤立している西の国、強い冒険者の沢山集まる北の国、の大きな4つの大きな国に囲まれており、我はどことも仲良くしたいのだが南の国としか上手くいってなくてな……」
「それで、俺たちに東の国との交渉に行ってきて欲しいってことですか?」
「違うぞ」
違うのか、話の流れ的にそうだと思ったのに……。
「そして、君たちには我の弟を連れ帰ってきて欲しい」
「どう言うことでしょう?」
「我の弟は東の国ゴールディーンズに交渉しに行ったっきり帰ってこないんだ……弟は強いか弱いかで言ったらかなり強い方だ。だが、正義感が強いからな……」
ヴァニラさんはこの後の事を話そうか話さないか迷っていたが数秒ためを作っただけで、口を開いた。
「ここからは単なる考察なんだが、東の国ではほとんどの事をお金、いわゆる賭け《ギャンブル》で決めてしまう。それで弟は交渉に賭け《ギャンブル》を持ち出され、負けたんだろう。負けた分のお金が出せないっていうのは、ゴールディーンズの法律違反、もし破ったら投獄だろう。そこで君たちに捕まっているかもしれない我の弟を助けてきて欲しいんだ。それに加えてなんだが、この国の評判もあるし、弟は正義感が強いため法律に違反しない方法でお願いしたい。そして、ゴールディーンズで法律に違反しない方法と言ったらやはり賭け《ギャンブル》、そのためにイースくんを呼んだんだ。ギャンブルの成績は見させてもらったよ、なんせあのカジノは君みたいな人材を見つけるために設置したものだからね」
ヴァニラさんの表情は真剣な顔に変わる。
「お願いだ」
ヴァニラさんは頭を下げ、手を差し出した。
「もちろん報酬も出す」
その言葉を聞いた瞬間シロハは一瞬で、ヴァニラさんの手を掴んだ。
「分かったわ、報酬は私たちが決めてもいいかしら?」
「ああ、我にできることならな」
「俺ももちろんいくぞ」
俺もシロハの手の上から覆い被せるようにヴァニラさんの手を握る。
「ありがとう、感謝する」
ヴァニラさんは頭を上げ、笑顔に戻す。
「行きと帰りの馬車はこちらが用意する」
俺とシロハとイースは頭を一度下げ、王様の部屋を後にする。
「いや〜大変な旅になりそうだね〜」
「あなたなんで王様に呼ばれたのか説明しなかったのかしら」
「わすれてた」
イースは自分の頭をグーで軽く叩く。
俺は段々とこの世界のことが理解出来てきた。
今、この世界は国同士でいざこざが起きているらしい。
その中でも西の国が一番気になるな。
それに、この世界には魔王とか居ないのか。
この世界に来てまだ1週間程しか経っていない今、そんなことを考える必要は無いか。
時間が経てばいずれ分かる事だ。
「お〜い、リョウく〜ん先に行っちゃうよ〜」
イースは俺の方に手を振りながら呼ぶ。
「今行く〜」
日も暮れ始めた赤い空の下、俺は『仲間』の元へ走り出す。
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