第9.75話 ヴァニラ闘技大会 ~優男編~

 俺様の名前はモブリットだ。

 俺様って言ってるのは心の中だけだけどな!

 ついさっき、レストランの入口で誰かのメダルを拾ったのだが、一体このメダルは誰のなんだろうか。

「早く持ち主にとどけねぇーとな」

 俺様はそんなことを考えながら歩いていると、目の前に変な事をしている人が居たので話しかけてみた。


「よぉ嬢ちゃん何やってんだ?」

「何もしてないわ」

「見た感じ何もしてないようには見えないけどなぁ」

 俺にはカジノの中の二人を覗いてるように見えた。


「俺はモブリット、嬢ちゃん名前は?」

「シロハよ」

 シロハって言うらしい。

 メダルについて聞こうと思ったが、カジノの中にいる、という女の子とという男の子たちとお取り込み中らしいので後にしようと思った。

「そうか、お互い頑張ろうなぁ」

「ええ」

 俺様はこの場を後にする。

 心の中でも、一人称が俺様ってのは痛いので、俺にする。



 ──俺は「片道テレパシー」と言うスキルを持っている。

 このスキルは俺が生まれた時からあったらしい。

 だが俺はこのスキルを好きではない。


「片道テレパシー」とは、その名の通り、片道しかテレパシーができず、相手の思っていることを読み取ることはできるが、相手に俺の思ってることをテレパシーで伝えることは出来ない。



 俺のスキルは好きな時に発動できるのだが、使えるのは、1人につき1回まで。

 だが、何故かあのシロハというやつにはこのスキルが効かなかったのだ。


 なので、俺はイースとかいうやつの心を読んで、リョウと言う名前を知ったのだ──



 その後、俺は会う人全員にメダルを持っているか聞き、口で言った言葉は何も信じず、テレパシーで読み取った結果、だれもメダルを持っていない人はいなかった。

 口では嘘を吐けるが、心では嘘はつけないはずだ。

 たまに「無くした」などと口にする人はいたが、テレパシーを使ったら、普通に持っていた。


 ──俺はこういう人間の闇が嫌いだ。

 どんなに優しい人でも心の中では見下していて、どんなに凄い人でも裏で何かをやっていたり、そういうのを俺は見たくないのだ。



 だから、俺はもう1つの生まれながらあった、どんな即死攻撃を受けても、耐えることが出来る「根性」というスキルをいかし、剣士になったのだ。



 それからは簡単だ。

 俺はどんどん強くなって行き、他の人達に尊敬されるようにまでなった。



 だが、周りの人の本心は、俺の事なんて尊敬していない、俺を妬んでいるだけだった。




 それから俺は、俺を妬んでいるような汚い人間になりたくなく、綺麗な人間、誰にでもしいになろうと思った。

 俺の本心なんてどうでもいい、周りが幸せな気持ちになってくれるのなら、それで俺は幸せなんだ。



 なんて、思いながらも、俺はこの大会に参加している。

 だが、俺がこの大会で勝ったなら、俺は観客から本心で尊敬されるだろう。

 俺は一度それを味わってみたかった。



 ──だが、俺はリョウと言う男に負けた。

 しかも結果は4位だ。



 正直俺は悔しかった。

 俺はたたかいに関しては、生まれてから負けたことが1度もなかった。



 俺はリョウのことを妬んだ。



 俺は結局周りと同じ人間だったのか。



 俺は人に優しいのではなく、どんなやつも相手にしてなかっただけなのだろう。



 俺は医務室のベッドから起き上がり、闘技場の出口へ向かう。



 通路を歩いているとリョウがドアからでてきた。

 俺は妬む気持ちを今は捨て、普通に話しかける。

「よぉ、そうだな自己紹介がまだだったな。俺の名前はモブリット、よろしくな」

「俺はリョウだ」

「しってるわい」

 俺は落ちている気持ちを紛らわすためわっはっはと笑う。

 そして、俺はリョウの心の中を読み取った。

 リョウは今イースのメダルを探しているらしい。

 そして、もう1つ大事なことがわかった。

 この男は何も見返りを求めずに人助けをしていたのだ。

「それでお前が探してるのはこれじゃねーか?」

 俺はリョウの探しているメダルを親指で弾き空中に飛ばし、リョウに投げ渡す。

「なんでこれを?」

 リョウは驚いた顔をした。

「まぁ色々あったんだ。喜んで受け取ってくれ」

「あ、ありがとう」

 リョウは驚きながらだが、それは本心からのお礼だっま。

 自分のために探してる訳でもなく、見返りが欲しいがために探している訳でもない、人を一人幸せにするために探していた男の、本心のお礼だ。

「おう!」

 俺はそう言い、去っていこうとし、リョウは部屋の中へと入っていった。

「俺に貰ったなんて言わなければいいがな」

 俺はそんなことを思いながら回れ右をして、リョウの入っていったドアに背中をもたれ掛け、腕を組む。



『おーいイースあったぞ!』

『え?! ほんとに?! どこに?!』

 部屋の中からの声が聞こえる。

 メダルを無くした子は嬉しそうだ。

『通路に落ちてたんだ』

 良かった。

 誰かが見つけて届けてくれたなんて言わなくて。

『そうなの?! ありがとう?!』

 これもメダルの探し主から、リョウへの本心からのお礼だろう。

『……もう……もう……見つからなかったらどうしようかと思ったよ……』

 メダルを無くした子は嬉し泣きしてるみたいだな。

 良かったなメダルが見つかって。

『どうお礼したらいいかな……?』

『礼なら大丈夫だ』

『でもそれじゃあたしの気が──』

『俺が大丈夫って言ってるんだ、それに今抱きつかれてるのが正直ご褒美だ』

 リョウは元から見返りなんて求めてない、本物のしいだ。

『え……? ……あ! ごめんね、いきなり抱き

 ついちゃって……』

 イチャイチャするなっ。

 俺はそんなことを思いながら自分の分のメダルをポケットから取り出し、出口へ向かう。



 出口に着き、俺は係員にメダルを渡し、賞金と、ステータスのカード、略してステータスカードを貰う。


 モブリットさん


 Lv.82


 物攻 +330000

 物防 +230000

 魔攻 +6000

 魔防 +250000

 職業 剣士

 魔法 未習得

 スキル 片道テレパシー 根性



 俺は外にでて、シロハの心を読み取ることが出来たので読み取り、すぐにシロハの元へ向かう。

「あら、バレちゃったかしら」

「ああ、俺が拾ったのはお前のメダルらしいな」

「ありがとう」

「なんの礼だ?」

「私の罪悪感を少し軽くしてくれたことよ」

「そうか、それは良かったな」

「あと、これはリョウくんとイースさんには内緒にしておいて欲しいわ」

「ああ、わかった」

 俺はそう言い、外へと向かう。



 ──結局俺は何をしていたのだろうか。

 自分のメダルを無くし誰かのメダルを盗んだやつのメダルを見つけて拾い、無くしたやつに届けたのではなく、盗まれたやつにメダルを届けたのでもなく、盗まれたやつのメダルを探してるやつにメダルを届けただけだ。


 あー何やってんだろうか。



 外には妹のマナがいた。

「お兄ちゃんお疲れ様! かっこよかったよ!」

 マナはこちらへ走ってくる。


「4位の兄ちゃんをバカにしに来たのか? いい度胸だな? マナ」

 俺は妹を見下すのではなく、同じ目線で話す。

「お兄ちゃんいつもより怖いよぉ」

 同じ目線で話すと怖いかもしれない。

 だが──


「──これが本当の俺だ」


 俺はそんな中二病混じりの事を言った。

 マナは、どうしたの? という顔をしてこちらを見ている。



 ──そうだ。


 俺は優しくもなければ、強くもない。

 みんなに尊敬されてもなければ、みんなに感謝されてる訳でもない。

 だが、分かることは何個かある。



 誰か《シロハ》に知らないうちに感謝されていて。



 誰か《イース》を救っていて。



 誰か《マナ》に尊敬されていて。



 誰か《リョウ》を成長させていて。



 誰かを尊敬させようとか、誰かを助けて感謝させる、だなんて俺にできる訳が無い。

 俺は、俺を尊敬してくれている人や俺に感謝してくれている人を大事にすることしか出来ないはずだ。


 俺はそんなことを考えながら、マナと手を繋いで、家へと帰る。



 俺は、しいではない。

《優》しい《男》には強い者しかなれない。

 そして、《優》しい《男》は間違いなくリョウだろう。


 と俺は思ったのだった。


「お兄ちゃん、また強くなったね」


 マナはそう言い、スキップしながら俺の手を引いた。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る