第9話 ヴァニラ闘技大会 ~閉幕編~

 俺はシロハのいる医務室へ向かう。

「お〜い、シロハ治ったか〜?」

「ええ、もうピンピンよ」

 シロハは寝たまま言う。

「寝てるのにか?」

「ええ、もう動けるわ」

「じゃあもう行こうか」

 シロハは飛び起き、出口へ向かう。



 俺とシロハは出口につきメダルを取り出し、前で先にお取り込みをしていたと1人を待つ。

「やっぱりメダルがなければここから出ることは出来ないです……」

「なんでよ! 私のこと覚えてるよね?! じゃあどうしたらいいの?! ここに死ぬまでいればいいって言うわけ?!」

 どこかで見覚えのある人だった。

 クリーム色でロングの金髪に元気な声、俺やシロハと同じくらいの身長。

 イースだ、イースがメダルを無くしてしまったらしい。

「イースどうしたんだ?」

 俺はイースの肩をつんつんと指で叩き聞く。

「あっ、リョウくん……なんか恥ずかしいとこ見せちゃったね……」

「そんなことはいいんだ。それより、メダルを無くしたらしいな」

「そうなんだよ、ポケットに入れて置いたら無くなってて……」

 え? ポケットに入れてた?

 そんな大事なもの普通ポケットに入れるか?

「そうなのか……良ければ俺も探すの手伝うぞ?」

 イースは嬉しそうな顔をした。

 まあ、イースからはステータスを頂いた恩もあるしな。本人は知らないだろうが。

「リョウくんが行くなら私も……と言いたいところなのだけど、私には用があるから先に出させてもらうわ」

「分かった。見つかったら戻ってくるから闘技場の入口らへんで待っててくれ」

「わかったわ」

 シロハは出口を出て行き、俺は先程来た通路を戻る。

「なんか……悪いね」

「気にするな」

 イースは申し訳なさそうな顔をして下を向く。

「それで、心当たりとかあるか?」

「う〜ん、心当たりはないかな」

 爆弾発言だ。

 こういう時は心当たりのある場所を探して探偵みたいな事をするもんじゃないのか?

「でも装備のポケットに入れてたんじゃなくて私服のポケットに入れてたから、闘技場ステージに落ちてるってことはないと思うよ」

「そうか。じゃあ、お前が昨日行った場所を教えてくれないか?」

「う〜ん……まず、リョウくんとレストランに行って、その後リョウくんとカジノに行って、そのまま部屋に戻ったよ」

「じゃあ、まずレストランに行ってみようか」

 俺とイースはレストランへ向かう。



 レストランの床には、メダルは落ちてなかった。

「見た感じ、ないな」

「うん……」

「じゃあ次はカジノに向かおうか」

「うん……」

 イースは先程よりも、一層心配そうな顔をしている。



 カジノに着き、メダルを探す。

 スロット台の下や、テーブルの下、ブラックジャックをやったテーブルなど、色々な場所を探したが、メダルは落ちてなかった。

「もういいよ……ありがとう」

 もう諦めたような声のトーンで、そう言う。

「おいおい、諦めるのはまだ早いぞ。まだお前の部屋が残ってるだろ」

 俺はイースの手を引き、イースの部屋へ向かう。



 俺は部屋を探し始める。

「洗濯機で洗濯した時に一緒に選択したんじゃないのか?」

「洗濯機で洗濯した時はポケットから出しておいたよ。その後しっかりまたポケットにしまったし」

 ポケットにしまうのがそもそも間違いだ、部屋の金庫に入れておくのが正解だろう。

「ほんとにごめんね……こんなのに付き合わせちゃって……あとは一人で探すから大丈夫」

「いや、俺も探すよ。とりあえずお前が通ってきたルートは全部探したから他の場所も探してくる」

「わかった……ありがとう、いつかこの恩は返すね」

 恩なら先に渡されてるんだが、まぁいいか。

「じゃあ見つかったらまたこの部屋に来る」

「わかった」

 俺はイースの部屋を出た。

 だが、部屋をすぐ出た場所にあの闘技場ステージで最後に戦ったあの大男がいた。

「よぉ、そうだな自己紹介がまだだったな。俺の名前はモブリット、よろしくな」

「俺はリョウだ」

「しってるわい」

 モブリットはわっはっはと笑う。

「それでお前が探してるのはこれじゃねーか?」

 モブリットはそう言うと、コインをこちらに投げてくる。

 俺はそのコインを掴む。

 そのコインはコインではなく、ここを入る時に渡され、出る時に返すメダルだ。

「なんでこれを?」

「まぁ色々あったんだ。喜んで受け取ってくれ」

「あ、ありがとう」

「おう!」

 モブリットはメダルを渡しただけで去っていく。

 とりあえず一件落着と言うことでいいのだろうか。



「おーいイースあったぞ!」

「え?! ほんとに?! どこに?!」

 どこかと聞かれたらどこだろうか。


 モブリットに受け取ったって言う必要も無いし、通路で拾ったってことにしておくか。

「通路に落ちてたんだ」

「そうなの?! ありがとう?!」

 イースは綺麗な水色の瞳に涙を浮かべながら、抱きついてくる。

「……もう……もう……見つからなかったらどうしようかと思ったよ……」


 イースは俺に抱きついたまま泣いている。

「どうお礼したらいいかな……?」

「礼なら大丈夫だ」

「でもそれじゃあたしの気が──」

「俺が大丈夫って言ってるんだ、それに今抱きつかれてるのが正直ご褒美だ」

「え……? ……あ! ごめんね、いきなり抱き

 ついちゃって……」

 イースは慌てたように俺から離れ、真っ赤な顔を背ける。


「大丈夫だ、それよりここから出ようか」

「う、うん」

 イースは深呼吸をした。

 そして、俺とイースは部屋を出て、出口へ向かった。



「メダルは見つかったんですね!」

「はい!」

 イースは係員の女性の言葉に元気な声で応え、メダルを渡す。

 ついでに俺も渡す。

「では通ってどうぞ、あと、これが今のステータスです。闘技場ステージの試合が終わった時点のものですが受け取ってください」

 俺とイースは係員の女性からステータスの紙、俺が勝手に略し、ステータスカードを受け取る。



 リョウさん


 Lv.16


 物攻 +610000

 物防 +560000

 魔攻 +540000

 魔防 +520000

『職業』 剣士

『魔法』鑑定不能

『スキル』

 無知の自覚 統率力 幸運児 音速 マジックセンス 鋼の拳 根性



 魔法鑑定不能ってどういうことだ?

 まぁいいか。

「んじゃまたな」

「またねリョウくん!」

 俺はイースと別れシロハの元へ向かう。

「お疲れ様……ってほど疲れなかった感じね」

「まぁな」

 俺が5億ゴールド、シロハが3000万ゴールド持ち闘技場を後にする。



 0ゴールドからいきなり5億3000万ゴールドって普通やばいよな。

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