第3話 生意気リリーの依頼
俺とシロハは町の入口へと歩いている。
「私、職業魔法使いにしたのだけど、魔法使えなかったわ」
シロハから驚きの発言。
「まぁ。俺に任せとけ」
俺の根拠のない自信。
そして、二人は町を出る。
兄を助けてほしいと依頼したリリーに貰った地図を見ながら、兄さんがいるという洞窟へ向かう。
道中は整備されているのか、魔物にも出くわさず、無事に洞窟に辿り着くことが出来た。
「ここにリリーの兄さんがいるのか」
「そうらしいわね」
俺たちは右の看板を目もくれずに洞窟の中に入った。
その看板には
──ゴブリンの里──
と書かれてあった。
洞窟の中はくらいが、壁の松明で足元の確認程度はできる。
「はぐれないそうにしろよ〜」
「はぐれも離れもするわけないわ」
「そうですか」
とりあえずリリーさんの兄さんの名前を呼ぼうと思ったのだが、兄さんの名前を聞き忘れてしまった。
「リリーさんのお兄さんいますかー?」
俺の声が、洞窟の中で響いている。
「リリーさんのお兄さんいますかー?」
シロハの声も洞窟の中に響く。
「いたら返事してくださーい」
「してくださーい」
俺の言った言葉の一部を繰り返す。
「返事が無いな」
「屍になってしまったらしいわね」
「まだ屍になったかは分からないだろ!」
俺の声が洞窟に響く。
「とりあえず奥にすすんでみようか」
「そうね」
シロハとともに暗い道を進む。
俺とシロハは何事を無く、洞窟の一番奥までたどり着いた。
「あら、行き止りね」
シロハの言葉通り行き止まりに来てしまった。
すると、足に何かが当たる感触がした。
「ん?」
下を見ると人が転がっていたのだ。
「うわぁ?!」
「?!」
俺は、転がっている人に驚き、白羽は俺の驚いた声に驚いて、二人は尻もちをついた。
「びっくりさせないでよ」
「ごめん、でもこれ」
そう、そこに倒れていたのはリリーの兄さんである。
「これは、リリーちゃんのお兄さんね」
「まだ息があるかもしれない。とりあえず外まで連れていくか」
「そうね」
俺はリリーの兄さんを左肩で抱え、元来た道を戻る。
「それにしても、魔物に全くわないわね」
「言われてみればそうだな」
洞窟の入口から行き止まりまで行き、折り返し、ここまで、約二十分、魔物には会っていない。というか、この世界に来てから一度も会ってない。
「この世界に本当に魔物なんているのかしら」
「変なフラグをたてるな」
すると、目の前から大量のゴブリンがフラグ回収をしにやってくる。
「ここのゴブリンはフラグ回収が早いな」
俺が独り言を言うと、シロハは杖を構えたが、魔法が使えないからか、杖を仕舞った。
「どうする?俺はこいつを抱えてるからこの量は相手に出来ないぞ」
「私がたおすわ」
「もしかして魔法が使えるのか?」
「素手よ、一応空手と柔道は黒帯だわ」
素手で大量のゴブリンと戦う気らしい。
「じゃあ俺も右手空いてるから手伝うぞ」
「そうね、お願いするわ」
四匹のゴブリンが一斉にシロハに飛びかかる。
シロハは、飛びかかってきた四匹のゴブリンを左足を上げ、左から右方向へと足をスライドさせ、順番に洞窟の壁へ蹴り飛ばし壁にぶつかったゴブリンは消滅する。
それに怒ったのか、次はゴブリンが二十匹程シロハに飛びかかったが、一人の敵の攻撃をさばくように、ゴブリンを一匹ずつさばいていく。
「お前魔法使いより、武闘家の方がいいんじゃないか?」
「嫌よ。せっかく異世界に来たんだから魔法を使いたいもの」
ゴブリン二十二匹の攻撃さばき、壁に飛ばされ、消滅した。
シロハに怯んだのか、ゴブリンが逃げていく。
「逃げていくわね」
「とりあえず外に出ようか」
「そうね、でもゴブリンって所詮この程度だったのね」
「またフラグをたてるな」
「あら、ごめんなさい」
すると、お次はゴブリンの親分がフラグ回収をしに来た。
「あのゴブリン、横綱みたいな体型してるけどお前相撲経験なんてあるのか?」
「あるわよ」
あるんかい。
そんな会話をしていると、ゴブリンの親分がこちらへ突進してくる。
それをシロハは、右に避け、親分の左腕を掴み背負い投げをする。
ゴブリンの親分は背中を思いっきり地面にぶつけ痛そうだ。
「リョウくん、頼むわ」
俺は右手で剣を取り出し、ゴブリンの親分の心臓目掛け、剣を突き刺した。
すると、ゴブリンの親分は消滅していった。
「魔物は倒すと消滅するのね」
「そこは触れない方がいい部分だろ」
俺は剣を仕舞い、出口へ歩き出す。その後ろをシロハが着いてくる。
出口へたどり着くと、赤い夕日が洞窟の中に差し込んでいた。俺とシロハはそのまま外に出て、肩に抱えていた人を降ろす。
「いきてますかー?」
シロハが声をかける。
「はっ」
すると死んでいたはずの人が生き返った。
「いつの間に眠っていたよ」
「洞窟の一番奥で眠っていたのか」
「そうなんだ、洞窟の一番奥まで行ったら疲れてしまって……それで今は何時だろう」
本人曰く洞窟の一番奥で眠っていたらしい。
「何時かは分からんが見ての通り夕方だ」
「わぁ、一晩も寝てしまっていたのか!」
リリーの兄さんは驚いた。
「いや、何時に来たのか分からんが、三日前に家を出たらしいぞ」
「なら三日も寝ていたのか!」
リリーの兄さんはもう一度驚いた。
「お前の妹、リリーに助けてきてくれと頼まれたんだ、一緒に来てもらうぞ」
「リリーに?!いつもは会話すらしないのに……」
「とりあえず日が暮れる前に町に帰りましょ」
「そうだな」
「そうだね」
シロハの言葉に俺とリリーの兄さんは頷いた。
「ちなみにそれの名前はハリー、よろしくな」
俺とシロハとハリーは町へ帰るため歩く。
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