第19話 学会 006
喪失の時代の再現。
平和ボケしている国民からしてみれば、それだけは避けておきたい事例でもあるだろう。
しかしながら、それはあくまでも政治に不満を持っていなければ、の話だ。
政治に不満を持っているならば、行動しなければ何も始まらない。
だとしても、今この世界で行動出来る人間が大多数を占めているかと言われると――答えは直ぐに出せないだろう。
「……喪失の時代を実現してしまったら、世界はどうなってしまうんだ?」
「分かりませんね。それこそ、神のみぞ知るといったところではないでしょうか。……だとしても、神という存在は人間に対して何も考えていないようなスタンスであることは確かですけれど」
人間とは、神に最も近い存在である――それは学者の誰かが言っていたことだった。
要するに、神が最初に人間を作った時、神は人間をそこまで優秀な存在であると解釈していなかった。
「……知恵の木の実を食べてしまったから、人間は知恵を付けることが出来た。と、同時に人間は楽園から追放された。それがどうなったかは分かりきった話でも何でもない訳だが……、ただ一言だけ言えるとするならば、もしも人間が知恵の木の実を食べることなく生き続けていたのならば、今日の繁栄を実現することは不可能だっただろう、ということだ。そして、神はそれを理解していた」
「理解していた? 知恵の木の実を食べる可能性がありながら、それをみすみす見逃していた……と言いたいんですか?」
「普通に考えてみれば分かる話だ。もし知恵の木の実が、ほんとうに人間から食べられるのを恐れているなら、人間を近づかせない何かしらの対策を講じていてもおかしくはないだろう? にもかかわらず神は、近づかないことだけを言って、後は人間に委ねた。神は考えていたのよ、人間が次のフェーズに進めるか否か、試して良いかどうかを」
「……つまり、神がそれすらも予測していた、と? だとしたら人間が楽園を追放されたのも……」
「既定路線、といって差し支えないでしょうね。はっきり言って、楽園という存在そのものが人間にとって良い場所であったとしても、神はそれを望まなかった。神としてみれば、永遠にその世界を監視していく立場なのだから、暇になりたくはなかったのでしょう」
「それって……ひどく人間みたいな考え方じゃないですか?」
「案外そうやって回っていったのかもしれないわよ」
リュージュの言葉は言い得て妙だった。
しかしながら、それを学者として提言したならば、きっと学会で笑いものにされるのは間違いなかった。
「……ま、要するに神は人間の世界なんてどうでも良いと思っているのかもしれないわね、って話。この世界の監視をエンターテイメントの何かだと思っていて、エンターテイメントに欠けていたら何かしらのアクションは起こすかもしれないけれど、それをしなければしないで良いと思っているのかもしれない。その結果、人間や世界が滅ぶことになろうとも、化神からしてみればそんなことはどうだって良いと思っているでしょう。だって神は世界を作った存在よ。また別の世界を作れば良いと思っているに違いないわね」
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