第18話 学会 005
平和というのも、長く続くのは悩みモノである。
実際、平和が続いてしまったら、戦争のやり方なんてものは忘れてしまうのがセオリーだ。過去の記録だろうが、記憶だろうが、何処かの歴史には戦争の記録は残っているかもしれないが、いざそれを再現しようとしたって出来るものではない。
「……私は戦争に関わったことはないが、戦争は何も生み出さない。それは過去の歴史も学んでいることだ。違うか?」
「僕だって戦争に触れたことはありませんけれど……、しかし、戦争が何も生み出さないのは半分正解で半分不正解ですね。戦争によって生まれるビジネスもないことはないです。例えば兵器開発なんて最たるものじゃないですか? 魔法が一般化しているとはいえ、戦争に使える程強力な魔法を使える存在は限られている。ならば、より普遍的に使えるものとして用意されるものが……」
「重火器とか、そういう類いの代物って訳? ……それにしてもよく考えるわね、人間って。どんなものでもビジネスチャンス? があると思っているんだから。ただじゃ転ばないとでも言えば良いのだろうけれど……」
「一応言っておきますけれど」
ボイドはリュージュを指さして、
「あなたは、世界にとって脅威にもなるし救世主にもなるんですよ」
「…………私が?」
「あなたは魔女。それも世界で唯一存在している魔女です。かつては魔女も沢山居たのでしょうけれど、それも今は昔。この時代で魔女として活動しているのはあなただけなんですから。そんなあなたが、どんな手の内を持っているか分からないのに、平和を謳っていられるかどうか? それが鍵になる訳です。ですから、恐らくハイダルクとしても、魔女の存在は隠しておきたいはず」
「……私はそんなに価値のある存在だとは認識していないけれどねえ」
「それが困るんですよ、それが。……魔女というのは、どんな知識を持っているか、どんな魔法を使えるか、どんな手段を講じてくるか分からない。それどころじゃない。魔女という存在そのものを殺せるかどうかすら問題になっている。魔女というのは、人間の寿命を遥かに凌駕する寿命を持っている訳ですから、生命力も強いに決まっています。それが、本人が否定したことであったにしても。そして、それを否定するために……様々な攻撃を行ってくることでしょう。ただし、表向きでは交流を保ったままで」
「何故だ?」
「……国民が長らく平和を味わっていた訳ですよ? それが、為政者の独断で戦争状態にもつれ込んだらどうなります? 国民の味わっていた平和は音を立てて崩れ去る訳です。そうなると、上手く国民をコントロール出来れば良いかもしれませんが、出来なかった場合、その不満は何処に行くと思いますか?」
「……為政者か。つまり、クーデターが起きる可能性がある、と?」
「クーデターが起きてしまえば、成功すれば政権は交代するでしょう。そしてその政権は平和を味わっていた国民から生まれる訳ですから、戦争は終結に向かうと思います。けれど、それはあくまで可能性の一つ。実際はそんなことなんて起きずに戦争が長期化すると予測しています。それを一番心配しているのは、僕達学者なんですよ。もしかしたら、『喪失の時代』の二の舞が起きるんじゃないか、ってね」
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