第17話 学会 004

 ガラムドの出生には、色々と諸説あると言われている。

 そもそも『喪失の時代』以前の歴史は正しい歴史だと今の世界に知れ渡っているかどうかが怪しい。人間が生きる年数よりも遥かに長い昔のことであるために、明確な証拠が見つからないためだ。

 ガラムドは、いつ何処で出現したかもはっきりとしていない。文献が殆ど残っていないためだ。残っていたとしても、彼女がいかに素晴らしい神であったかを示した物しか見つからず、学者達もガラムドをどう扱うかで意見が真っ二つに割れている。


「……ま、魔女がガラムド様の子孫だったなんて……」

「意外か? そもそも、ガラムドの子供が私達『魔女』の始祖だ。魔女の始まりはガラムドだが、人間の始祖はガラムドじゃない。……何故だか分かるか?」

「いえ、全く……。というか、その情報初耳ですよ。ほんとうにそうなんですか?」

「塔に書物があっただろう? そこには色々と古い書物が残っていてな。それこそ、喪失の時代以前のもある。……流石に創世記の時代はないが」

「それ、早く言ってくださいよ! ……兵士に取りに行かせるべきでしょうか」

「辞めておけ。あの塔は、主が居なくてもきちんと装置が作動する。……いや、私というストッパーがなくなった以上、歯止めが利かなくなっているかもしれないぞ?」

「それは困ります!」

「はっはっは、冗談だ。……で、学会ではどのようなことを発表するんだ?」

「簡単に話題をすり替えますね……。まあ、いいや。学会で発表するのはもう決まっていますよ、僕が発表する題材と言ったら『喪失の時代』しかありませんよ」

「そこまで言うってことは、何かしらの新情報でも見つかったのかね?」


 新情報と言えば、それこそあの大きな喋る箱ぐらいしか想像つかないリュージュだったが、


「流石にあの箱を発表はしませんよ。したら、世界が一変してしまう。……あれはしばらく放置しておいた方が良いでしょう。誰も入れることなく、いつか準備が整った段階で……発表した方が良いと思います。それが来るのはいつになるのか、誰にも分かりませんが」


 それは、その通りだった。

 幾ら今の時代において、あまり常識がないと言えるリュージュにとっても、あの箱の処理の仕方についてはボイドと同じ認識だった。


「あれの処理だけは、結構手間取りそうではあるな……。あの王様も言っていたが、戦争の火種になりかねないのだろう?」

「それは……そうですね。幾ら僕が戦争に疎くても、それぐらいは分かります。ただ、今の状態で戦争に持ち込もうという国が居るかどうかですが」

「?」

「長らく平和が続いていた時代ですよ。戦い方なんて忘れてしまったか、或いは実戦を経験したことのない兵士しか居ませんよ。……虎視眈々と他国を狙っている国が居るならば話は別ですが」

 

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