第20話 学会 007

「リュージュさん……、あなたはいったい何処まで知っているんですか?」


 ボイドの問いに、リュージュは笑みを浮かべる。


「……何処まででしょうね?」


 その言葉には、何処までも含みを持たせたように感じられた。



   ◇◇◇



 学会への準備は、当然ながら魔女は関与しない。

 魔女は、外界の知識を蓄えるために――正確には古い知識をアップデートするために――図書館の蔵書を隅から隅まで読み進めていった。


「ところで、一つ気になったことがあるのですが」


 ――ただし、そこには学者も常に帯同している。

 というのも、ボイドはいつも自室に引きこもって研究しているのかと言われるとそうではなく、主に図書館で蔵書を読み漁りながら、研究の一助としているのだ。


「何だ? 気になったことは直ぐ解き明かした方が良いだろう。……言ってみろ、答えられる範囲で答えてやる」

「どうして魔女は消えてしまったんですか? 確か、多くの魔女は存在を消してしまったと言われていますが……」

「魔女というのはどうして魔女と呼ばれていると思う? 魔法を使えるからだ。魔力を持っているからだよ、一般人と比べてね……。だが、その魔女も魔女としての力を失う場面が訪れる。要するに、魔女は消えたのではない。魔女としての力を失っただけに過ぎないのよ」

「魔女としての力を……? いったいどういう場面なんですか」

「破瓜」

「は……っ!」


 ボイドはそれを聞いて顔を赤らめる。


「はははっ。流石の学者様にもこの話題は早かったかな?」

「早いとか遅いとかの問題じゃないですよ! その……何というか、不潔じゃないですか!」

「不潔と来たか。残念ながら、性交渉は人間がその血を未来へと紡ぐためには大事なプロセスだったりするのだけれどね。……まあ、それも含めて学者様には分からないのかもしれないが」

「分からないこともありますよ、それぐらい。……で、どうしてその……破瓜で……魔女の力を失ってしまうのですか」

「魔法を使うには、どのようなエネルギーを使うか、分かっているだろう?」

「記憶エネルギーです。人間の記憶を使うことで、そのエネルギーとすることが出来る。尤も、それを使い過ぎることで……文字通り『記憶喪失』になってしまう訳ですけれど」

「その通り。しかしながら、記憶エネルギーを使うとなったら、記憶を沢山蓄えた方がエネルギーを蓄えていると思わないか? まあ、記憶というものをエネルギーに変えること自体が得意不得意とある訳だけれど……」

「でも、その解釈で行けば、人間よりも長生きしている魔女がエネルギーを蓄えているということになりますよね?」

「その通り。それに、普通の魔術師はどう頑張ったって記憶量をゼロには出来ない。……そういう風に働くんだよ、ストッパーが」

「ストッパーと聞くと便利なものに見えますけれど……、そんな簡単なんですか?」

「簡単よ。それを解除出来る人間も居ると言えば居るけれど……、まあ、そんなのは預言の勇者ぐらいじゃないと出来ないでしょうね」


 何処か遠い目で向こうを見つめるリュージュ。

 それはまるでかつてそのような存在を見たことがあるような、そんな感じにも思わせた。


「……ところで、質問の答えが終わっていないようなのですけれど」

「あー、そういえば言っていなかったっけ? まあ、簡単に言うと、性交渉をすると記憶が保てなくなるのよね。だからエネルギーが減ってしまうの。ひどい場合だと、全くエネルギーに出来なくなってしまって、魔法そのものが使えなくなってしまう」

 

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