第15話 学会 002

 学会が行われるのは、今から一週間後――リーガル城大聖堂にて執り行われることとなった。


「何処にも出かけなくて良いのは良いかもしれないが……、やっぱり遠出しておきたいものだな。世界を見ることが出来ない」

「それはいつだって出来る話じゃないですか。……今は学会に向けて準備をしないといけませんが。僕もあんまりそれ以外に注力することが出来ないので……少し申し訳ない気分ではあります」

「申し訳ない? 何故だ。私は別にそれに対して嫌悪感を抱いた覚えはないぞ。学会というのも、この世界にきちんと向き合うならば必要なプロセスと言えるだろうしな。……それに」

「それに?」

「この世界の魔法……いや、それだけではない。様々な分野について、知りたいと思うようになった。それはきっと……私がこの世界で暮らしていこうと思うようになったから、かもしれないな」

「良い世界ですよ、この世界は」


 ボイドの言葉に、リュージュは鼻で笑う。


「……分かっているよ」


 その言葉は、ボイドにしか聞こえることはなかった。



   ◇◇◇



「『荒野の魔女』?」

「……簡単に言えば、武装集団(ゲリラ)だ。ハイダルク北方にある遺跡のことは覚えているだろう?」

「覚えているも何も、そこで調査をしたばかりだが」

「そこで襲ってきた相手……死んでしまったが、調査をした結果、やはりそいつも『荒野の魔女』の一員であることが判明した」

「……『荒野の魔女』は何を目的として活動しているんだ?」


 リュージュはつまらなそうな表情を浮かべて、そう言った。


「これは君にも充分関係のある話なのだが……まあ良い。『荒野の魔女』は魔女の復活を求めている。そして、それを元に魔女が最高権力者となった新しい世界を望んでいる」

「……くだらない」


 はっきり言って、くだらなかった。

 今の世界ですら、国王が権力を握っていても、世界は安定していない。

 いや、普通の人間からすれば、平和な世界というのは安定した世界そのものであるのかもしれない。

 もし、そんな世界でまったく政治の知識を持ち合わせていない魔女が、権力を握るとしたら――結果は火を見るより明らかだ。


「『荒野の魔女』はずっと魔女の再興を願っていた。魔女の噂も聞き寄せていたらしく、君が住処としていたあの塔にも登ったことがあるらしい。だが、断念した」

「子供ですら登り切れたのに?」

「罠が張り巡らされていたと聞いたぞ?」

「……ああ。あれは、あくまでダミーだからね。もっとウエイトが高いのは……私がその人物を呼び寄せるに値するかどうか。私に被害を加えないと判断すれば、招きますよ」

「今まで招いていなかったのは?」

「何でしょうね……気まぐれかも?」

「気まぐれでどれぐらいの時間人と交流してこなかったのか……。いやはや、魔女というのは人間の常識には囚われない存在ですな」

「……価値観が変わった、というところでしょう」

「価値観?」


 国王の言葉に、リュージュは頷く。


「人と魔女、交流して発展していく時代がやって来たということですよ」

 

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