第33話 属性
連続して放たれる銃弾は、さながら真横に降る雨。その雨は夢奏の透明な銃弾と始の青い銃弾で作られており、恭矢に向かって降るその様子はとても美しい。
正面からその雨を見れば、美しさのあまり人は恐怖すら感じ、痛みを感じる間もなく身体中に弾痕を空けられ息絶える。市販の傘では決して防げない。
正面から雨を眺める恭矢は、雨を防ぐべく傘を真横に差す。
土で作られた硬く高密度な傘。
氷で作られた冷たく分厚い傘。
風で作られた不可視の傘。
3つの傘は銃弾の雨から恭矢を守り、未だに傷一つ負わせていない。
夢奏の銃弾は、属性で作られた傘達を消滅させる。しかし1発につき1つの属性能力しか消すことができないため、1つの傘が消されてもまた後ろから新たな傘を差せば攻撃を防げ続ける。
しかし恭矢は防御に徹している訳ではなく、傘の後ろから、或いは傘と傘が入れ替わる合間に恭矢の攻撃が加わる。しかし実際に攻撃をするのは恭矢ではなく、恭矢が作り出した獣達。
水を纏い、頭が8つに分かれた巨大な蛇。
雷を纏い、体の毛が抜かれた兎。
火を纏い、足が3本生えた烏。
始は恭矢の作った3体の獣を見た時、瞬時に
しかし恭矢の趣味を知らず、且つ神話について非常に疎い夢奏は、3体のモデルとなった存在に気付いていない。
特に稻羽之素菟に関しては存在すら知らない夢奏は、毛の無い兎を見て単純に「気持ち悪い」「怖い」としか思えなかった。
全ての属性がぶつかり合い、目の前で生まれる様々な色が散っていく。その様子はまるで、空中に咲き儚く夜闇に消えていく花火。そして目の前で咲いた花火が夢奏の力で消えていく度、夢奏の脳内に忌々しく美しさの欠片も無い最悪の記憶が蘇る。
(……あ、そうか……)
火、水、氷、雷、風、土。6つある鏡像の属性だが、話を聞いただけでは気付かなかった。何故ならそれらの属性は、ゲームやアニメなどではよくある話。現実離れした話が現実に現れ、その話が二次元に登場する話と多少似ていても、恐らく現代人は案外簡単に受け入れる。
しかし夢奏は気付いた。鏡像が持つ属性は、二次元に登場する話がベースになっている訳では無いのだと。
(私のトラウマが、そのまま鏡像の属性になったんだ……)
戦いの根源であり鏡像の根源である夢奏は、存在自体が異端。オリジナルの個体且つ異端が故、属性という概念を持たなかった。しかし夢奏を中心として鏡像が複数体生まれた時、鏡像という存在は異端ではなくなった。異端ではなくなったため、鏡の世界は鏡像というイメージを固定した。
鏡像が生まれた際、オリジナルの個体である夢奏の記憶の一端を一方的に受け取り、その記憶の中に痛々しく刻まれたトラウマを自らの力へと変換。
腹に押し付けられたタバコの火は火属性。
溺れさせられた風呂場の水は水属性。
投げつけられた氷は氷属性。
空を駆け轟く雷は雷属性。
皮膚を刺すが如く吹き荒ぶ風は風属性。
空腹に耐えかね食した土は土属性。
さらに鏡像が現れた際に漂う焦げ臭さは、火事で家族が焼け死んだ時の臭い。脳内に焼き付いた臭いというトラウマが、鏡像にも影響した。
属性を手に入れ、且つ自己意識を抱いたとは言え、鏡像は人を襲うという考えすらなく持つ力を持ち腐れていた。しかしそこへ現れたのが恭矢。恭矢を中心に人間への悪意が広がり、鏡像は自己意識の次に悪意を抱く。そして悪意を抱けば鏡像はただの怪物へと変貌した。
夢奏のトラウマが鏡像に力を与え、恭矢の悪意が鏡像に戦意を与えた。実質、戦いを引き起こしたのは恭矢であるが、これまで多くの人を殺してきた鏡像の力は全て夢奏のトラウマから生まれた産物。
ゲームでもアニメでもない、夢奏のトラウマである。
(トラウマ……なら、私が壊せばいい。鏡に映った私から生まれた力なら、私の手で砕けばいい)
全属性を使う恭矢は、言わば夢奏のトラウマを集約させた塊。即ち、夢奏は自らのトラウマを具現化させた怪物と戦っている。
今更トラウマを消すことなどできない。仮に消せたとしても、恭矢の力を消せる訳でもない。
しかし夢奏の中には、恭矢を殺したいという気持ちが湧き上がっていた。
(今の私は、鏡の中の自分としか話せなかったあの頃みたいに弱くない。
無属性の力は属性の破壊。それを夢奏本人で例えるなら、トラウマを壊す力。
属性を持たない根源として生まれた鏡像の夢奏だが、戦いを知り、戦いを生き残るために、夢奏の思いを利用した。
身体に残った家庭内暴力の傷痕を消したい。記憶に深く刻まれた家庭内暴力の記憶を消したい。そんな思いは鏡像の夢奏に力を与え、トラウマから生まれた属性という概念を打ち壊す力を得た。
火を壊す火炎爆散。
水を壊す水流爆散。
氷を壊す氷塊爆散。
雷を壊す雷鳴爆散。
風を壊す狂風爆散。
土を壊す土壌爆散。
人類を削減へと導く鏡像も、鏡像を殺すため自らの鏡像を利用する戦士も、共に属性能力を使用する。即ち、属性は両勢力にとって必要不可欠な力。
しかし属性を破壊する夢奏は、両勢力にとって天敵。夢奏自身は戦士として鏡像と戦っているものの、状況次第では戦士の攻撃を妨げ鏡像側を助けることとなる。即ち、無属性の力を得た夢奏は期せずして中立の立場にいる。
尤も、戦士である璃乃が恭矢に騙された時点で、夢奏は中立であることを余儀なくされたが。
「属性で作られた動物なんて、私の力で砕く!」
恭矢が作り出した雷の兎に銃口を向け、夢奏は無属性の銃弾を放った。
「雷鳴爆散!」
銃口から放たれた透明な銃弾は、軌道を妨げられることなく一直線に兎へと向かい、兎の身体を貫いた直後に体表を覆う雷属性の力を消した。
しかし身体を撃たれた兎は息絶えることなく、まるで痛みなど感じていないかのように夢奏の方へ猛進する。
「っ! 夢奏!」
兎の猛進に気付いた始は、咄嗟に銃口を恭矢から兎へと移し発砲。兎は銃弾を避け、銃弾は地面に接触。接触直後に銃弾は弾けたが、弾けた銃弾は氷の針へと変化し斜め後ろから兎の身体を突き刺した。
兎は断末魔を上げる間もなく全身が凍結し、5秒未満で兎の身体は砕け散った。
「稻羽之素菟はやられた、か……けど兎は1匹1匹の力が弱いから量産できる」
恭矢の背後から、再び兎が現れた。しかし今度は1匹だけではなく6匹。最初の1匹を殺された怒りなのだろうか、6匹の兎は先程の兎よりも少し凶暴に見える。
「おい、今の一体なんだ? 稻羽之素菟は雷属性に見えたけど……夢奏の力を食らっても生きてた」
「……獣達は1つの属性で作られてるとでも思ったか? 残念! こいつらは属性に属性を纏わせた、言わば多属性の獣だ!」
「属性に属性を……ああ、そういうことか」
兎は雷属性の力を身体に纏っていたが、あくまでも纏っていただけであるため、夢奏の雷鳴爆散では体表を覆う雷属性の力しか壊せなかった。
兎の身体を構成しているのは、雷属性ではなく土属性。兎を1匹殺すには、雷鳴爆散で体表の雷属性を壊した後、土壌爆散で兎本体を構成する土属性を壊さなければならない。つまり、1匹殺すだけでも2度の攻撃が必要であり、且つ回避される前に命中させる必要がある。
無属性とは言え、能力を使っていない状態での銃弾は属性を壊せない。属性を壊すには、各属性に対応した能力を使わなければならない。無属性の弱点を理解している恭矢は、既に夢奏との戦闘における戦い方を見つけていた。
「量産って言ったな……八咫烏と八岐大蛇も量産できるのか?」
「八咫烏は量産できるけど、八岐大蛇は量産できない。その代わり、八岐大蛇は強いぞ」
八岐大蛇は未だ、攻撃の意思を見せていない。なぜなら鏡像同様に自己意識を持つ八岐大蛇は、まだ自分が攻撃に出る状況ではないと判断している。言わば稻羽之素菟が先鋒、八咫烏が中堅、八岐大蛇が大将のような立場である。
「そうか……なら!」
「……っ!」
恭矢が気付いた時、始が生成した6本の氷塊は既に恭矢と獣を囲んでいた。
「包囲氷結!」
始は1本の氷塊に銃弾を当て、直後に氷塊から複数本の
(さすがに八咫烏達は守れないな……)
氷柱は全て八咫烏と稻羽之素菟の身体を突き刺したが、恭矢と八岐大蛇は属性能力による障壁で守られ無傷。氷柱に刺された個体達は一瞬で全身が凍り、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「俺は恭矢と違って1つの属性しか使えないし、夢奏と違って特殊な力も使えない。けど、俺は夢奏以上に戦いを経験してきた。油断してると凍死するぞ」
恭矢は無属性である夢奏との戦い方を重視し過ぎたあまり、氷属性である始との戦いを甘く見ていた。
確かに、他属性を破壊できる無属性の力は強力だが、恭矢の作った獣に対しては有利とは言えない。しかし単純に、体表の能力を突き抜け本体を直接凍らせれば、複数属性を掛け合わせた獣と言えど一撃で死亡する。
並の戦士であれば、他属性の獣を恐れ、どう戦えばいいのかを模索する。だが模索する暇など戦場には存在しないため、結局は劣勢に立たされる。
しかし戦闘経験が豊富である始は瞬時に獣の弱点を突き止め、それを実行に移した。属性を1つしか持っていないが故に始を甘く見ていた恭矢だったが、兎と烏が一斉に殺されたため始を見る目がさらに険しくなった。
「……確かに、油断は禁物だ。けどまだ、俺には八岐大蛇が残ってる。コイツは俺の最高傑作……始と言えど苦戦は免れない」
「……始、あの蛇殺したら、すぐに私に加勢してくれる?」
「1人で大丈夫か?」
「なんとかしてみせる。それにあんな気持ちの悪い蛇、始だったらすぐに殺せる」
始は僅かながら口元に笑みを浮かべ、八岐大蛇と睨み合いながら徐々に夢奏から離れた。
「……へえ、姫川1人で俺に勝つ気なのか」
「勘違いしないで。務君は私と始の2人で殺す。私は、始が戻ってくるまで可能な限り務君を消耗させるだけ」
「消耗か……はたして、始が来るまで生きてられるかな」
夢奏には無属性の力がある。とは言え、恭矢は夢奏の弱点を理解しており、夢奏自身恭矢に勝つ可能性はあまり高くないと自覚している。
しかし始と2人であれば、苦戦を経て恭矢を殺せるかもしれない。そうなれば夢奏のとる行動はただ1つ。始が八岐大蛇を殺し、加勢するのを待つ。
「私が務君に殺されるよりも先に、始はあの蛇を殺してくれる。だから、私は死なない」
「……なら、試してみるか」
恭矢は自らの背後にボウリングの玉と殆ど同じサイズの火球を出現させ、夢奏へと投げる。
夢奏は猛スピードで近付く火球に銃口を向け、火炎爆散を発動。銃口から放たれた銃弾は火球を撃ったが、火の中から加速を続ける氷塊が出現。しかし先程の兎から学んだ夢奏は、氷塊を確認した瞬間に氷塊爆散を発動。銃弾は氷塊に接触し、氷塊は消滅した。
「……甘いな」
「っ!?」
その時、夢奏の肩の肉を何かが抉った。
氷塊は消滅させ、氷塊が纏っていた火も消滅させた。恭矢が2発目を発したようにも見えない。
(まさか……氷の中に風があったの……?)
属性に属性を纏わせる恭矢は、先程のように氷に火を纏わせることが可能。故に、風に氷を纏わせることも可能。
恭矢は火球を放ったが、本命は火の中に隠れた氷塊……のように見えたが、実際の本命は氷塊の中。銃弾サイズに圧縮された風の塊だった。目で見えない風の銃弾の威力は凄まじく、人肉や骨などは容易く抉る。
「今の1発で分かったか? 俺が本気を出せば、お前なんて一瞬で潰せる!」
一方。
八岐大蛇と対戦する始は、予想以上に消耗していた。
戦っている最中に気付いたが、他属性を掛け合わせた烏や兎に対し、八岐大蛇は水属性のみで構成されている。しかし「水」と言っても、八岐大蛇を構成する水は真水ではない。
通常、水属性にとって氷属性の力は相性が悪い。なぜなら、氷属性の力により水が凍らされてしまう。しかし八岐大蛇が纏う水は、状況次第で質や温度が変化する。
始が包囲氷結や氷栗逸態で攻撃を試みるも、八岐大蛇が現在纏っているのは熱湯。氷は簡単に溶け、溶けた氷は水になり八岐大蛇の身体に吸収される。
さらに驚くべきは、水質の変化。八岐大蛇が発した液体が僅かだが腕に付着した。すると付着した部分に滑りが生じ、徐々に痛みを感じ始める。八岐大蛇が発したのはただの水ではなく、水酸化ナトリウムのようなアルカリ性の液体。もしもその液体を全身に浴びていれば、今頃始は全身に痛みを感じ戦闘不能に陥っていただろう。
氷もまともに効かず、液体に触れれば痛みを伴う。勝つ方法を模索しつつ、八岐大蛇の攻撃を可能な限り回避。頭と身体を同時に動かし、一瞬たりとも気を抜けない状態。正直始は、ここまで消耗する戦いになるとは思っていなかった。
(夢奏が戦ってたら勝ってたか……いや、八岐大蛇が吐き出す水が夢奏の銃弾を相殺させる。夢奏が戦ったところで戦況は変わらない)
実際、夢奏の1発1発を確実に落としていけば、無属性の力を受けることなく八岐大蛇はノーダメージで戦いを進められる。とは言え、代わりに始が恭矢と戦っていたとしても、あまり長くはもたない。
(考えろ! 一瞬も思考を止めるな、一瞬も動きを止めるな!)
8つの頭から吐き出される水の攻撃は勢いを増し、いつの間にか始は避けることしかできなくなっていた。反撃も、反撃の方法も思いつかず、ただ避けるだけの自分に失望していたところ、遂に始が避けられないタイミングでアルカリ性の攻撃が吐き出された。
終わった。自分は蛇に負けた。そう感じた始は、無意識に銃を握る手の力を緩めた。
「っ!!」
しかし、始に向けて放たれた攻撃は手前数十センチで消滅。否、突如目の前に現れた水の壁に阻まれ、そのまま壁と融合した。
さらに水の壁の向こう側では、八岐大蛇が叫んでいた。叫ぶ直前に水が瞬間的に蒸発するような音が聞こえたが、水に視界を阻まれていた始は状況を把握できなかった。
「なーんか焦げ臭いと思ったら……こんな所で戦いが起きてた」
工場内に響く声と足音に、夢奏達は一斉に動きを止めた。
「あれ、始君……なるほど、状況は察した」
工場内に現れたのは、偶然近くを通りかかった霞姉妹。そして八岐大蛇の攻撃から始を守ったのは、藍楼の水天逸壁。
「始君、お姉さん達のこと覚えてる?」
「えっと……確か、藍蘭さんと藍楼さん、ですよね?」
以前、摩耶を向かいに行った際に、始は霞姉妹の顔を漠然と覚えていた。その後摩耶経由で、2人が戦士であることを知った。
「大正解。それで確認なんだけど、あの子とあの蛇を殺せばいいんだよね。その女の子は……夢奏ちゃん、かな?」
摩耶と交流する中で、霞姉妹は夢奏の存在を知った。実際に会うのはこれが初めてではあるが、摩耶から聞いていたイメージに近い容姿であったためすぐに夢奏であると分かった?
「……お二人が摩耶の友人であり、且つ仲間であると信じてお願いがあります。あの蛇と……あのクソ野郎をぶっ殺すのを手伝ってください」
霞姉妹は年上であるため、始は最低限喋り方には気を使っている。しかし気を使っているにも関わらず、恭矢に対してだが「クソ野郎」挙句「ぶっ殺す」という暴言を吐いたことに、霞姉妹は思わず失笑した。
「クソ野郎って……酷いな。今まで始にそんな扱いされたことないから結構ショックだ」
案外本気で落ち込んでいる恭矢だが、始はそんな恭矢の戯言には耳を貸さなかった。
「……藍楼さん、水出してくれませんか?」
「え? わ、分かった」
藍楼は水天逸壁を発動し、再度水の壁を生成。直後、始は水の壁の前に立ち、何を思ったか銃の先端を水の壁に接触させた。咄嗟に藍楼は水の勢いを下げようとしたが、始の「このままで」という言葉を受け水圧をそのまま保った。
(始……何考えてるんだ? お前のことだ、理由もなく奇行に走る程イカレてないはず……早いうちに潰しておくか)
恭矢の意思に呼応し、八岐大蛇は再び球状に圧縮したアルカリ性の液体を放った。液体は真っ直ぐ始に向かい、攻撃に気付いた夢奏は銃口を液体に向け発砲。しかしタイミングが合わず、寸前のところで無効化できなかった。
「始!」
夢奏の叫びが工場内に響き、始は自身に向かって飛来する液体を睨んだ。
夢奏の声に反応した藍楼が始と液体の間に水の壁を出現させたが、水の壁が液体を飲み込むよりも早く、始は液体の照準から外れていた。
「はぁ!」
始は八岐大蛇に向かい疾走。本来、銃で戦う始は、鏡像とあまり距離を詰めない。距離を詰めれば相手の射程に入り、且つ銃の利点を活かすことができないためである。
しかし始は走った。走り、八岐大蛇との距離を縮めた。
「……っ! あれは……!」
「え!?」
夢奏と恭矢はほぼ同時に気付いた。走る始の手に握られた銃の先端から何かが生えている。とは言え始は動いているため、それが何かは確認できない。
真っ直ぐ向かってくる始に対し、八岐大蛇は水を吐き出し攻撃をする。しかし始は攻撃を全て回避し、八岐大蛇との距離を詰めることに集中している。
そして始と八岐大蛇の距離が2メートル未満になった時、始は銃を握ったまま腕を強く振った。
「
始がそう叫んだ時、恭矢は始の銃の先端から伸びているものの正体、そしてその役割を理解した。
始の銃の先端からは、氷で作られた刃が伸びている。刃の温度は極めて低く、止まっていれば冷気が目で見える。即興且つ氷で作られているため刃の形は若干歪であるが、攻撃はできる。
故に、氷の刃は八岐大蛇の首を1本切り落とせた。
八岐大蛇は怪獣のような奇声を上げ、痛みに身を捩る。そして自信作の首を切り落とされたことで、恭矢は劣勢に立たされたことを一瞬で悟った。
始は藍楼が生成した水を凍らせ、銃の先端に氷の刃を作った。1発1発が小さい銃弾では、体表の熱湯に遮られ八岐大蛇の身体に届かない。しかし銃弾ではなく刃であれば、八岐大蛇の身体に届かせることができると判断した。
加えて神話好きの恭矢は、八岐大蛇が十拳剣により切り殺されたことを知らないはずがない。そんな恭矢が作った八岐大蛇であれば、十拳剣さえあれば殺せるかもしれない。故に始は銃殺を諦め、古事記にある通り剣での戦いへと移った。
十拳氷剣は、始ができる範囲で可能な限り温度が下げられている。故に体表の水の温度が多少高かろうと、八岐大蛇の水では最早刃を模した氷を溶かすことなどできない。
言わば十拳氷剣は、八岐大蛇を殺すために作り出された武器。須佐之男命に代わり、始が使うためだけに生まれた武器。
「待ってろ恭矢……この蛇ぶっ殺したら、次はお前の番だ!」
十拳氷剣の鋒を恭矢に向け、始は八岐大蛇と恭矢の討伐を確信した。
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