第15話 狂愛
食事を終えた李亜達は、再度店主の感謝を受け取りながら退店。蕎麦と天ぷらの感想を述べ合う李亜達は自転車に乗り、家に向かう。
1列になり暗くなった道路を走る。時折信号待ちになれば、その際は多少言葉を交わす。しかし一度走り始めれば、再び会話は途切れる。
そしてある程度家に近付いた時、先頭を走っていた藍蘭はブレーキをかけて停止した。
「どうし……ああ、そゆこと……」
路上に漂う独特な焦げ臭さに気付いた藍楼は、藍蘭が停止した理由を理解した。
「李亜、ここで待ってて」
「いつも言ってるけど、10分経っても戻らなかったら1人で逃げてね」
「分かってる。けど2人とも、ちゃんと勝ってよ」
「「当たり前でしょ!」」
藍蘭と藍楼は自転車と荷物、李亜を放置し、臭いの元を断つためにその場を離れた。
20m程歩いただろうか。独特な焦げ臭さはかなり強くなった。即ち、すぐ近くに鏡像がいる。
「藍蘭、あれ……」
「うん……最悪」
臭いが最も強い場所はゴミ捨て場。それだけならまだいいのだが、ゴミ捨て場にはひび割れた鏡。さらにゴミ捨て場と対面する形で街灯が立っており、街灯の真下にバイクが停まっている。
バイクのすぐ隣には、氷塊に頭部を潰された男性の死体が転がっている。そしてその死体を見下すように、殺された男性の鏡像が2人立っていた。
この男性は、街灯の下でバイクを停車。持ち運び用の地図を見ながら、これから向かう場所を決めていた。しかし寄り掛かっていたバイクのミラーと、対面するゴミ捨て場の鏡に映った鏡像が自立。2つの鏡からそれぞれ鏡像が生まれ、2人の鏡像が男性を殺した。
「氷属性……なら、苦戦を強いることはないね」
「だね」
鏡像は、自分達に歩み寄ってくる藍蘭と藍楼に気付き、死体を見た2人を始末するために手中で氷を生成。射程距離に藍蘭と藍楼が入ると同時に、2人の鏡像は氷を同時に投げた。
しかし氷は寸前で回避され、回避直後に加速した藍蘭と藍楼の蹴りを喰らい2人の鏡像は後方に倒れた。
鏡像が地面に激突すると同時に、藍蘭はバイクのミラー、藍楼はゴミ捨て場の鏡に手をかざし、自らの鏡像を武器へと変化させ鏡の外に出す。
鏡像はそれぞれ色の異なるナイフに変化。藍蘭の手には赤いナイフ、藍楼の手には青いナイフが握られ、2人はそれぞれ殺すべき個体に刃先を向ける。
「人が鏡像を従えているのか」
「厄介だな。折角鏡の外に出られたと思ったのに」
同時に立ち上がった鏡像は藍蘭と藍楼を睨み、本格的に攻撃をするため再度手中に氷を生成する。
「藍楼、さっさと終わらせよう」
「……なら、2人同時に殺そう」
藍楼は刃の表面に水を纏わせ、腕ごとナイフを振ることで表面の水を路面に投げつけた。
2人の鏡像は同時に氷塊を投げ、氷塊は猛スピードで藍蘭と藍楼に迫る。
「
藍楼がそう叫ぶと、先程路面の水を投げつけた箇所から大量の水が噴出した。噴出した水の壁は2つの氷塊を呑み込み、半楕円を描くような水流に乗せられた氷塊は鏡像へ向かい返された。
水の壁で威力を殺されたかに見えた氷塊だが、寧ろ水流のスピードが加わったことで加速。鏡像達の出せるスピードを超える加速した氷塊は、避けきれなかった鏡像の脚を潰す。
噴出した水の壁は、敵の攻撃を無力化することも、逆に威力を増大させ反射させることもできる。これが藍楼の力、水天逸壁である。
「氷を跳ね返しただと……!?」
「あ、脚がぁぁあ!」
脚が潰されたことで、鏡像の戦闘力は激減。加えて現状を受け入れきれない鏡像達の隙を突き、藍蘭は自らの力を使用した。
「
藍蘭は火を纏った自らのナイフを振り、振った際に刃から漏れた火が空中に停滞。火は徐々に鳥を模していき、空中で誕生した火の鳥は翼を羽ばたかせて鏡像へと向かっていく。
「っ! 来るな!!」
鏡像は氷の礫を放つが、火の鳥の温度に溶かされ空中で消失。
火の鳥は鏡像の身体に接触した直後、高温の火へと化し鏡像の身体を焼く。1番最初に焼いたのは喉だった。
喉を焼かれた鏡像達は声を出せず、迫り来る死に恐怖し涙を流す。
「簡単に人殺しておいて、自分が死ぬ時には涙を流す、か……」
「終わってるね、あんた」
藍蘭と藍楼の冷たい瞳に見下されながら、鏡像達は身体を焼かれていく。
屈辱。激痛。恐怖。狂気。絶望。鏡像達は心から湧き上がる負の感情に思考を支配されながら、全身が黒焦げになった。
ただでさえ焦げ臭さかったが、全身が焼かれた鏡像は尚臭かった。しかし死んだ鏡像は鏡の中に戻っていき、臭いを残したまま姿を消した。
「……さ、帰ろ帰ろ」
「だーね」
藍蘭と藍楼は鏡に向かってナイフを投げ、待たせている李亜の元へ向かった。
◇◇◇
仲の良い姉弟。それは今も昔も変わらない。しかし仲の良さは両親や近所の人間が思っている以上に異常で、「仲が良い」という言葉では片付けられない程深くなっている。
「李亜~、今日はナース服にしてみたんだけど……可愛いかな?」
「うん、可愛いよ。2人ともね」
「やり~。やっぱこの服選んで正解だった」
夕食前に購入したナース服を纏い、藍蘭と藍楼は両サイドから李亜に密着する。
ナース服の丈は短く、ショーツも見えている。しかしこれは、藍蘭と藍楼の計画的犯行である。
「じゃあ……診察、始めちゃおっか……」
「李亜くーん、まずは……脱ぎ脱ぎしよっか……」
藍蘭と藍楼が小学校を卒業する頃、霞家姉弟は両親から衝撃的なことを聞かされた。
藍蘭と藍楼と李亜は、異父姉弟であると。
その後3人は、現状に至る経緯を長々と聞かされ、姉弟であっても本当の姉弟ではないと知った。まだ幼かった3人にとって、その話は衝撃的すぎた。
しかし、それから3人は誰も予想し得なかった関係へと縺れていく。
母親は一緒でも父親が異なる。即ち本当の姉弟ではない。そう理解した途端、3人は互いを姉弟ではなく男と女として意識し始めた。つい数日前まで姉弟として暮らしていた3人が、互いに性の対象として見るようになるのは簡単だった。
中学生になり、本格的に性への興味が湧き始める藍蘭と藍楼は、当時小学生の李亜を教材とすることでクラス内でもいち早く性を理解した。無論、李亜は李亜で2人の姉を教材とすることで、早すぎる性知識を得ることとなる。
そして両親が旅に出て、時折家を空けるようになってからは、3人の関係はさらに深くなった。
ディープキスは常習。自慰のサポートも茶飯事。余程溜まっている時は、避妊具を使用した上でセックスもする。最早3人の関係は姉弟ではなく、愛人である。
しかし3人の関係は誰にも教えていない。
関係を悟られぬよう、目立つところでの行為は決してしない。異父兄弟であることも話さず、本当の姉弟として世間では通す。
こうして3人は、誰も知らないところで愛を深めている。そして3人は、自分達以外を決して愛さない。
偏愛、否、寧ろ狂愛と言っても過言ではないのだろう。
「あらあら李亜くん、こんなところが熱膨張してるじゃない」
「大変、すぐに冷ましてあげないと。ねえ李亜くん……私のお口と……」
「私のお口……」
「「どっちで冷まして欲しい?」」
李亜は戦士ではない。しかし鏡像を前にして李亜は生きている。なぜなら、藍蘭と藍楼が李亜を守っているからだ。
それ故か、性の時間の主導権は藍蘭と藍楼にある。
しかし李亜は文句を言わない。それを理解しているからこそ、2人の姉は主導権を握っている。
よって今夜も、双子のナースに看病される入院患者というシチュエーションにより、患者役の李亜に主導権は与えられなかった。
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