第11話 デートプランについて考えるカップル。
ブラウン管の画面の中で、二人の男女が雪の町を眺めていた。
夜の街に降り注ぐ雪は美しく、非常に幻想的。
昔のゲームであるためCGは粗いが、それでも見入る場面だった。
「いやー、いいシーンだね」
作中屈指の名シーンに、
「これ、主人公に一番好感度の高いキャラとデートするってイベントらしいぞ」
俺もこのゲームは初見プレイだが、このシーンは有名なのでたまたま知っていた。
「へー。じゃあ他のキャラとデートするってパターンもあるんだ」
「みたいだな」
一人でプレイしているのなら、こういうのを周回したくもなるが、RPG初心者の結朱にそれは酷だろう。
大人しく一周目だけで我慢しておこう。
「ねえ、デートといえば、私たちの次のデートをどうするかについても話したいんだけど」
と、デートシーンが終わるなり、結朱がゲームの手を止めてそんな話題を切り出した。
「俺たちの? どうした急に」
「いや、付き合ってるんだし、定期的にしておきたいなと」
まあ、偽物のカップルとはいえ、周囲へのアピールとしてそういうのは必要か。
「いいぞ。どこか行きたいところはあるか?」
訊ねると、結朱は少し顎に手を当ててから答える。
「そうだなあ……映画とかどう?」
「お、いいな。ちょうど有名なホラー映画の新作が公開するらしいし」
「却下! やっぱり違う場所がいいです!」
軽い冗談だったのだが、すごい本気の顔でアウト判定を食らってしまった。
「ということで、やっぱりプラネタリウムとかどうでしょう。確かこの近くにあるっていうし、友達がデートで使ったって言ってたから」
結朱が出してきた第二案に、俺も素直に頷いた。
「賛成。あの暗闇とナレーションは、すごい安眠効果があるって聞いたし、楽しみだ」
「寝るな! 薄暗い空間で彼女と二人っきりなんだよ? どさくさに紛れて手を繋いだりとか、そういう下心を持ちなさいよ! それがマナー!」
「まさか下心の所持がマナーになる時代が来るとはな……」
時代の進化は俺の想像を超えているようだ。
「まったく……
結朱はすっかりご機嫌斜めになって、俺にデートプランの考案を丸投げしてきた。
仕方なく、俺も真剣に考えることに。
「んー……やっぱり、邪魔が入らないところで二人っきりになりたいな」
「そうだね。途中で友達とかと会っちゃうと、結構面倒だったりするし」
「あと、お互いが好きなことができるのがいいと思うんだ。どっちかが退屈だって思わないように」
「おお! 期待してなかったけど、いい感じのアイディアが出そう!」
俺が条件を絞っていくと、結朱も乗り気な様子できらきらと目を輝かせる。
「しかも、二人で協力して何かできたら最高じゃないか? こう、仲が深まる感じがして」
「うんうん! それで、具体的にはどういうプランになるの?」
前のめりになる結朱に、俺は少しもったいぶってから結論を告げる。
「この全てが当てはまるのは……部室でRPGをやること!」
「なんでよ!? いきなり日常に回帰したね!?」
「いや、条件を絞って考えていったら、自然とこうなったっていうか」
つまりここでだらだらとゲームをやるのが、俺たちにとって最適解ということだ。
「却下です! もっと非日常感を演出して?」
「そうは言うけどな、今の条件に当てはまるデートプランなんて、なかなか見つからないぞ。俺たち、まるで趣味が違うんだし」
いわゆるカーストトップの結朱と、普通にぼっちな俺じゃそもそも接点がない。
お互いの事情で付き合うようになるまで、一対一で話したことはほぼないレベルである。
「そうだけど……それを差し引いても大和君はちょっと非協力的すぎると思います。せめて考える努力くらいはしてほしい」
結朱は唇を尖らせて俺を非難すると、自分のスマホを取り出した。
「もう、二人で考えてても埒が開かないから、ネットでよさそうなプランを検索しよっか」
「ま、そっちのほうが早いかもな」
俺も賛成して、結朱のスマホ画面を覗き込もうとする。
が、彼女のスマホはいつまで経っても起動しない。
「あ……充電忘れてた。大和君のスマホ貸して」
「了解」
友達が多い結朱はスマホの使用頻度も高いせいか、たまにこういう事態が起きる。
代わりに、俺のスマホを取り出した。
ブラウザを起動すると、休み時間に見ていたゲームのホームページが開く。
「ほんとゲームばっかりやってるね、大和君。その情熱を少しは私に注いでほしいんだけど」
拗ねたような口調の結朱。
「善処します……ん?」
ふと、ゲームのホームページの下部に、広告が表示されているのに気付いた。
その名も『カップルでおすすめのスポット八選!』とかいうもの。
「なあ、これちょうどいいんじゃないか?」
結朱にその広告を示してみると、彼女もそれに食いついた。
「ほんとだ、ちょうどいいね。すごい偶然……いや、ちょっと待って。大和君、それ貸して」
何を思ったのか、結朱は唐突に俺の手からスマホを奪った。
それから、何か検索ワードを入れる。
横から覗いてみると、それは『少女漫画 新刊』とかいう、このタイミングで検索する意味が分からないワードだった。
「おい、人に文句つけておきながら、なにを検索してんだよ」
「んー、ちょっと気になることがあって」
俺の非難もどこ吹く風で、結朱は新刊情報が書かれたサイトを開いた。
「やっぱり」
その途端、何か確信を得たように満面の笑みを浮かべた。
……なんかすごい嫌な予感がする。
「な、なんだよ」
「大和君、ここ見て。この広告」
結朱の指差した先を見れば、そこには『デートにおすすめ! メンズファッション』という、少女漫画にはおよそ関係のない広告が出ていた。
「これがどうしたって?」
首を傾げる俺に、結朱は犯人を追い詰める名探偵のようなドヤ顔で告げた。
「大和君、ターゲッティング広告って知ってる? スマホの持ち主が今までに見たサイトとか、検索ワードからデータを取って、その人が興味をありそうな広告を表示するってシステムなんだけど」
「………………」
無言のまま、だらだらと汗をかく俺。
しかし、そんな俺を見ても結朱の解説は止まらない。
「つまり、ゲームのサイトをよく見てる人にはゲームの広告が多く表示されるし、少女漫画のサイトをよく見る人には少女漫画の広告が表示される。で、大和君のスマホにはデート関連の広告が多く表示されてる。この意味、分かるかな?」
「…………さあ? 僕には普通の広告に見えますので」
苦し紛れに絞り出した俺の言葉を聞いて、結朱の機嫌が最高潮に達した。
「これはつまり! 大和君は全然デートに興味がない振りをしておきながら、影では私とのデートについてすっごい調べまくっていたツンデレさんということだよ!」
「ぬぐぅ……!」
ビシッと指差して断言され、俺は完全に言葉を失った。
「いやあ、大和君は本当に素直じゃないね? いつも素直じゃないけど、今回は特に素直じゃなかったね?」
勝者の余裕か、すごい満ち足りた表情で俺の頭を撫でてくる結朱。腹立つ!
「ごめんね、大和君。私とデートをするためにこんなにも影で努力してくれてたのに、非協力的とか言っちゃって。本当は私の何倍もデートしたい欲に溢れてたのにね?」
「言い方! いや別にそんなでもないからな!? ちょっと検索しただけで……」
ああ、くそ! 自分が赤くなってるのが分かる。
「まあ、そういうことにしておきましょう! デートプランの話し合いももういらないね? これだけ大和君が頑張ってくれてるんだから、一任するのが彼女としてのマナー! 楽しみにしてるよ、大和君」
語尾に音符マークでも付きそうなほど、弾んだ口調で言ってくる結朱。
「…………ご期待に添えるよう努力します」
打つ手をなくした俺は、事実上の降参をするのであった。
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