第5話 カップルでのテスト勉強。
「ねえ
いつも通りの放課後の文芸部室で、不意に
「ああ、そういやもうすぐ中間テストか。いいよ、分かった」
確かにゲームをやっている場合じゃないかもしれない。
俺はテレビと繋ごうとしていたゲーム機を片付けると、鞄からノートと教科書を取り出して、結朱と共に机に向き合った。
「よし、一緒にいい点取ろうね。まずは国語の勉強からかな。私がしっかり鍛えてあげるから頑張って!」
「……んん? おい、なんで俺がお前に勉強教わる立場になってるんだ?」
妙な流れになっていることに気付いた俺が問い質すと、結朱は不思議そうに首を傾げた。
「え、だって大和君って人の気持ちが分からないタイプの人間でしょ? だから国語は苦手かなって」
「ナチュラルにすげえ侮辱をかましてくるね、お前は!」
よくそんな評価の男と付き合えてるな。
「えー、じゃあ得意なの?」
「まあ……そんなに得意ではないけど」
「ほら」
何故か得意げな結朱だった。
「とにかく、そんな大和君のために私が勉強を教えてあげるね!」
「……そりゃどーも」
この評価を撤回することを諦めた俺は、
それを合意と見たらしく、結朱は問題集を開くと、そこに書いてある問題文を読み上げてきた。
「じゃあ、次のことわざの意味を答えなさい。『目から
「鱗……ああ、コンタクトレンズの比喩か。それが落ちたってことは、今まではっきりと見えていたものが、急に見えなくなったという意味だな」
「不正解! よくそんなピンポイントで間違えられるね!?」
「む、マジか。次頼む」
いきなり出鼻を
「次、『枯れ木も山の
「枯れた木材は
「不正解! そんなアウトドア知識を語ることわざなんかないよ! 次、『他山の石』!」
「山にある自然の石を使ってかまどを作ると、キャンプがより一層楽しくなる」
「キャンプから離れてくれない!? これは他人のどんな行動でも、自分を磨くのに役立つって意味の言葉だから!」
「へー、そうだったのか。目から鱗だわ」
「今、目から鱗って言葉を正しく使ったよね!?」
「さあな。それより、次の問題を頼む」
さらりと流して出題を促すと、結朱はまだ釈然としないように首を傾げながらも、問題集に目を落とした。
「なんか納得いかないけど……じゃあ、『
「海キャンプで――」
「違う! もうこの時点で違う! 完全にバーベキュー用の海老で鯛を釣って食べようとしてるじゃん!」
「なんかキャンプ行きたくなってきたな。テスト終わったら行こうか、結朱」
「行かないよ!? なに自分で出したキャンプってワードにメンタルを引っ張られてるのさ! 大体、インドア派の大和君がキャンプとか行っても何の作業もできないでしょ!」
失礼なことを言い出す結朱に、俺はやれやれと肩を
「なんだ、知らないのか? たとえ役に立たないものでも、いないよりはいた方がいいんだぞ」
「知ってるよ! それがまさに枯れ木も山の賑わいの意味だからね!」
「それに人気者の結朱がいれば、キャンプに詳しい奴も自然と付いてくるだろうからな。俺は結朱を誘うという簡単な行動をするだけで、大きな成果を上げられる」
「それも海老で鯛を釣るの意味だよ! なにこのさっきから続く時間差の正解!」
結朱の駄目出しに、俺は思わず顔をしかめた。
「やっぱ国語は難しいな……全然当たらないわ」
「100点だよ! ただやっぱり人の気持ちが分からない人間だと思う!」
国語の点数にかかわらず、人間として赤点と認定されてしまう俺であった。
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