第32話 歪なオリエストラ

「本当にこんなとこに人間いるワケぇ? ゼータ、嘘ついてないよね?」


「ついてないよー。ボクが飛ばされた場所がスタートなんだからしょうがないでしょ。もっとずーっと歩いた先に街があるらしいよ」


「ホホホ、とりあえずそれを信じて歩こうかの。たまには老体に鞭打って運動せんと」


「まだまだ現役ですし、そこまで歳も取ってらっしゃらないでしょう、シャオロンさん」


 リィズ、ゼータ、シャオロン、ジェイドの4人は転送先の英雄平原からオリエストラへ向けて歩き出していた。ここはオリエストラから見て北西も北西、英雄平原とロートシュルス山脈の境目である。オリエストラの逆を向けば山が連なり、もはや人が手ぶらで踏み込む場所ではない。


 オリエストラの周囲は英雄平原、ドライアド大樹海、そして沿岸部を除けば、そこから先はすべて山が連なる魔境だ。凶悪な獣が多数湧いているため冒険者でも安易に踏み込もうとはしない。海側も沖合の水棲の獣を躱しながら外に出るには難しく、それゆえに『オリエストラは人が唯一住める場所』と言われている。オリエストラは、人類が押し込められた鳥かごなのだ。


 人類は、山向こうの外の世界を知らない。一説によれば巨大な大陸があり、その極東にオリエストラは位置していると言われているが、それは誰も確認したことがない。


「しかし、これはまた広大な平原ですな。このような場所、我らの国には残っていましたかな?」


「残ってないと思うー! だって、ここ100年開発開発開発でロクに自然残さなかったんでしょ? 『賢者の石』がしっかり供給されてれば別だったけど!」


 リィズはシャオロンの考えがわからない。残っていようがいまいが関係ない。なにに引っかかっているのだろうか。するとジェイドが話に加わってくる。


「100年前から突如石が民間に供給されなくなって、そのせいで装置システムや国自体の開発に躍起になってなんとか動くようになったわけですから。装置システムがうまく開発できてなければ今頃人類は滅んでいたかもしれませんね」


「だいたい生命をちゃんと転送できるようになるまで時間かかりすぎ〜。100年以上前には有機物自体は送れてたし、ここからうちらの方に再転送するプログラムだって構築できてたんでしょ?」


「できてたが、生命となるとまた別なんじゃよ」


 4人は小難しい話をしながらオリエストラへ向け歩を進める。するとゼータがなにかを発見したのか、声をあげた。


「あっ! あそこ人間いるよ!」


「おお! 本当に人間がいるとは!」


 人間がいた。どうやら獣と戦っているようだ。それをしばらく遠目に眺めていると、冒険者が獣を倒しきったのか手に持った武器をしまい、その場に落ちた石を拾う。それを見たジェイドとシャオロンは戦慄する。


「バカな!? なぜ石が落ちるのじゃ!?」


「ありえないですよ! 装置システムの影響下であるなら石はそのまま組織まで転送されるはず! ゼータ、なぜ報告しなかったのです!」


 ふたりは動揺しながらゼータに詰め寄る。ゼータはそこまで重要なことなのかを驚き一歩後ずさりながら答える。


「い、や、そんなに重要なことだと思わなくて……獣は倒したら石を落とすって習ったから……」


「ゼータぁ、肝心なところ聞き逃してるよー。賢者の石は落ちたらあたしたちの・・・・・・地球に転送される。生命の大岩をこっちに転送する時に、一緒にそのための衛星も飛ばしてる」


 ゼータを除いた3人は思考する。では、ここはどこなのかと。


「このままだと答えは出ませんね。とりあえずそのオリエストラという都市へ行くことが先決かと愚考します」


「そのようじゃの。文明レベルによるが、おそらく図書館か、王政の場合は城に書庫の類があるはず。我ら4人での強襲は厳しい場合もあるが、下調べは必要じゃ。今後の遠征任務にも関わってくる」


「でもー、これじゃ調査任務ついでに石集めるのもキツくない? 時間かかるしー、転送されないならコレの容量開けておかないと、みたいな?」


「ふーむ、計画を練りなおす必要があるかもしれませんね」


 遠くにいた冒険者が離れていくのを見届け、4人はオリエストラへと歩みを進める。時間に制限があるため、少し速度を上げて走る。先ほど獣と戦っていた冒険者たちはその4人に気づくも、特に気にも留めず、さらに英雄平原奥へと向かっていくのであった。


 ◆◆◆


「な、なんじゃこれは……!?」


 4人は数時間英雄平原を小走りに、オリエストラへと向かった。道中何度か獣と出くわすも、特に苦戦せず倒し、その石はしっかり回収している。そうして歩きづめでようやくたどり着いた場所を見て、4人は自分の目を疑った。そこには広範囲に渡り台地のように地形が形成されており、その上にはどうやら都市が存在しているようだった。


 台地自体かなりの高さがあり、まだ遠くにいた4人にはその全貌はまったく見えない。この上に人間が住んでいる、それだけは理解でき、どうやら等間隔に出入り口のようなものが見える。そこからエレベーターのようなものが外界へと伸び、都市内部と接続している。


「これは、また……すごいですね……。人類絶滅論さえあったのに、これは……」


 4人は恐る恐る一番近いゲートへと近づいていく。クロンたちも利用したゲート【X】だ。しかし、そこでも4人は驚くことになる。


「カ、カタカナ……!? なんで!?」


 リィズが驚愕する。彼女は人種で言えば日本人なため、日本語を読むことが可能だ。鈴木、という至極日本人的な名字を気に入っていないためリィズだけで通しているが。


 そんな彼女が驚いたのがオリエストラのゲートの表記であった。


 『ゲート』とカタカナで表記されていたのだ。


「益々意味がわかりませんね。獣に荒らし回られてる前提だとしてもあのような広範囲に渡る平原など、日本には存在しません」


「ワシも聞いたことないのぉ……。だいたいここが我々の地球でいう『日本』だとして、このような広大な台地に都市など建築されていない。そもそも日本ならば装置システムが石を自動的に組織へ転送しているはずじゃ。前回の遠征では転送されたわけじゃろ? ジェイド」


「ええ、されましたよ。それはもうそっくりそのまま」


「頭痛くなってきたよ……」


「一応翻訳機トランスレーターオンにしておいたほうがいいんじゃなーい? 持ってきてるんでしょー?」


「確かに、そうじゃな」


 4人はどこの国の人間が出てきてもいいように端末を操作し翻訳機トランスレーター機能をオンにする。そのままエレベーターへと乗り込み、ゲート【X】内部へと消えていった。

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