第10話 因子崩壊
そもそも、この戦いは最初からおかしかったのだ。全力のカテゴリー4にたとえふたりが出し惜しみせず全力で襲いかかっても、おいそれと勝てるものではない。本来はそれほどに隔絶した実力差があるのだ。
それでもふたりが
「でも、クロン。ここからどうするの? 残り半分を破壊するためにさっきと同じ作戦で行ってもいいけど、私はもうそこまで早くは動けない。しかも相手のスピードは上がってるかもしれない。さっきと同じ手は通じないわよ」
「うーん、そうなんだよね。僕ももうそろそろヤバいし、ラビに動いてあいつを引きつけてもらうか……。でもなぁ」
睨み合うだけで時間は刻一刻と過ぎてゆく。ラビの感じる痛みは引く様子はまったくなく、クロンのタイムリミットがいたずらに近づいていくだけだ。
「とにかく、牽制しながら動いてみるしかない。ラビは可能な限り僕に合わせて欲しい。もしきついなら、近づかずに遠くから牽制してもらいたい。できる?」
「やってみる」
するとラビは剣を捨て、狼から離れて駆け回る。
クロンは思考する。ラビがただ剣を捨てて動き回っているだけとは考えにくい。ならば自分はそれをサポートするように注意を惹きつけるだけだ。
クロンは一足跳びに
(しまった! 誘われた!)
クロンは誘い込まれたことを悟るも、それを自身の攻撃で相殺しようと試みた。
「ッ!」
クロンは勢いよく体を回転させ、その威力を乗せた蹴りを
しかし、
クロンは直感する。どうあがいても避けることができない。しかしそこへ遠方からなにかが勢いよく飛来し、
『ギャアアアアアアアアアア!』
「……へへ、当たったわ」
火球が、搔き消える。ラビが苦しそうな顔をしながらも、ドヤ顔でクロンと
急所を攻撃され、目に見えて傷を抱えた
「きゃあっ!」
ラビはそれをかわすも、走り回り石を集めたのでもう限界だったのだろう、火球を完全に避けきることができず、地面へと転がる。
「う、うぅ……」
もう動けないのだろう。これ以上はどうしようもない。クロンはラビへ攻撃の手が向かないように
「ラビ!!」
そして、その想定は正解であった。地に伏したラビを、衝撃を与えないように回収し、火球の衝撃が及ばない範囲へと飛ぶがその勢いを相殺をしきれず、転げる。そこに
(この火球を避けるのは無理だ。それに避けたところでもう間に合わない。なら、これしかない!)
クロンの鬼気迫る行動に、
「まだ、まだ、まだ間に合う!!」
クロンと火球が衝突し、黒く染まりかけた世界を今一度照らしだす。
——勝った。
「まだ、安心するのは、早いよ」
バカな。不可能だ。火球に突っ込んできて無事なはずはない。そう
「危なかった。左腕は犠牲にしたけど、それだけで済んだ。思ったよりも威力がなかった。きっと、君自身が抵抗したんだね。最後の最後に、自分に。テイムされている自分に抵抗して、僕を救ってくれた。礼を言うよ。だから、礼をもらったなら返さなきゃだよね」
やめろ! それを壊すな!
「もう時間がない。だからこれが、今の僕にできること」
そうクロンが宣言すると、クロンの握りしめた拳の先に、不自然に光が集約されていく。
「最後だから、出し惜しみはやめるよ。これが僕が最後にできる全力だ。——
クロンは自身の右拳と、その先端に集約され増幅されたエネルギー弾を
「ははは、はは。ちゃんと、残りハンブン、壊したよ。だから、襲わないで欲しいな。よろし……くね……」
クロンはそう消え入るように囁くと、その場へと倒れこみ、そのまま気を失った。
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