第2話 リア充防止作戦

 塩沢さんは高校生のとき、男しかいないワンダーフォーゲル部の部長を務めていた。


 ある年の7月7日、部員たちと部室でだべっていると、だんだん「七夕はけしからんイベントだ」という話になってきた。

「織姫と彦星って、今夜会えたらやるんですかね!?」

「そりゃもー、やりまくるでしょ! 1年ぶりだよ1年ぶり」

 当時、ワンゲル部に彼女持ちの部員はひとりもいなかった。むさ苦しい部員たちはとうとう、「ふたりの逢瀬を邪魔してやろう」と決めた。


 部室にはちょうど、救護訓練に使った三角巾がたくさんあった。塩沢さんたちはそれを1枚とって正方形に切り、ティッシュを丸めてテルテル坊主を作った。そして出来上がったそいつを窓辺に、逆さに吊るしておいた。

 普通のものとは反対に「雨を降らせる」と言われる、逆テルテル坊主の完成である。

「よーし、がんばって雨降らせよ!」

「リア充ざまぁ」

「俺ら虚しいなー」

 などと言いながら、彼らはゲラゲラ笑い合った。

 その後、塩沢さんたちは三角巾のテルテル坊主を、逆さまに吊るしたまま部室の鍵を閉め、下校した。

 その日は元々天気が悪かったが、夜になると本当に雨が降り始め、真夜中過ぎまで続いた。


 次の日、塩沢さんがワンゲル部の部室に入ると、窓辺に吊るしておいたテルテル坊主が壊れていた。

 紐でくくったすぐ下を、刃物かなにかでスパッと切り取られ、首なしの胴体だけがぶら下がっていた。首は部室のゴミ箱に捨てられていた。

 のっぺらぼうだった首には、顔が描かれていた。たどたどしいものだったが、何となく自分に似ている、と塩沢さんは思った。

「でも前日、俺は確かに部室の戸締りをして、鍵を職員室に戻してから帰ったんだよ。生徒が鍵を借りたら記録が残るし、先生たちがそんなくだらないことするとも思えないし」

 結局、事件は謎のままに終わったという。


 ちなみに塩沢さんは今年32歳になったが、年齢=彼女いない歴を更新中で、未だに童貞だそうだ。

 本人は、七夕の逢瀬を邪魔した祟りだと言っている。

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