七夕のパンダ

尾八原ジュージ

第1話 帰ってほしい

 綾瀬さんが6歳のとき、同居していた父方の祖母が亡くなった。

 おばあちゃん子だった彼女は、祖母がいなくなったことがとても寂しかった。


 祖母が亡くなってから1ヵ月ほどが経ったある日、小学校の図工の時間に、七夕飾りを作って飾ることになった。

 綾瀬さんは短冊に、「てんごくのおばあちゃんがかえってきますように」と書いた。


 七夕の夜、綾瀬さんがふと目を覚ますと、寝室の隅に人の形をした泥の固まりのようなものがじっと立っていた。

 彼女は布団にくるまって、「ごめんなさい、帰ってください」とずっと念じていた。得体のしれない泥人形は、目の当たりにするととても恐ろしかったそうだ。


「私、中学生になってから図書室で、ジェイコブズの『猿の手』って小説を読んだんですけど、そしたらこの夜のことをバーン! って思い出したんですよ。やっぱ、うかつに死者とか呼び出すもんじゃないなぁって思いましたよね」

 綾瀬さんはそんな風に話してくれた。


 ちなみに泥人形だが、端々から祖母が部屋着として愛用していた菊柄の浴衣が飛び出していたので、多分あれは本当におばあちゃんだったんじゃないかな、とのこと。

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