第1話 紫の噂
「永井市の怪奇伝説の一つ、紫の幽霊少女をこの目で見ることだ!」
昼休み、市立小玉高校のオカルト研究会の部室の中、僕、新城日向はきめ顔でそう言った。
「いや、全然きまってないんだけど・・・」
失笑しているこのイケメンは山崎大悟。2年生の先輩だ。
「少年心どうたらこうたらいって、結局その夢って少年心とあまり関係ないようなきがするけどなあ」
「いやいや、関係ありますよ!僕は純粋な希望を持つ少年心を・・・」
「仮に少年心を持ったとして、それにしてはしょうもない夢のような気がするけど」
「・・・オカ研の部長がそれ言わないでくださいよ」
まあ、自分でも前置きが少しオーバーすぎたような気もするけど。
「・・・ってあれ?僕、心の中でという設定だったはずだったんですけど」
「うん、プロローグでしょ?全部口に出てたよ」
悶絶。にっこり笑う部長のイケメンさに思わずキュン、というより羞恥心のほうがまさって悶絶してしまった。
「あ、あわ・・・・っ」
「そんな急に冷静になって頬ひっぱらないでほしいな。びっくりしたよ」
そうか、これは夢ではないのか。
本当に夢を語ってしまうとは恥ずかしくっておなかがすいてしまう。
「そこは空腹が勝つんだね・・・」
もぐもぐタイムで紛らわそうとしているとき、誰かが部室に入ってきた。
「遅れてすみません!体育長引いてしまったので遅れてしまいました」
弁当箱のはいった袋と水筒をもってきたのは石崎加奈。僕と同級生だ。
「あ、ひゅーが君だ!やっほ!」
「や、やっほ・・・」
加奈はなぜか僕に親しく接してくれる。いまだに慣れない。
僕に気があるということは100%あり得ないとして、やはり同じクラスだからだろうか。そういえばクラスで最初に話した人って加奈だったような。
「紫の幽霊少女、見つかると良いね!」
「え、聞こえてたの!」
あれからまあまあ時間たってたんだけどなあ。ということは。
「うん、そのときカナ階段にいたんだけど、聞こえてたよ!」
結構とどいてんじゃん。隣の人にも聞かれたかもしれない。
この後、どんな顔すればいいか。
「まあ、でもうちオカ研だし、そんなこと言っても許容範囲には含まれるんじゃないかな」
ということはオカ研は、周りからそういう目で見られているということになってしまうが。
オカルト研究会は確かにほかの部活と比べて異質なところではあるが、オカルトな都市伝説を調べつつ、その地域の文化や社会を調べるという、いわゆる「ちゃんとしたこと」も活動内容に入っている。そのため先生たちには特徴的であるが正常な部活、という風に見られている。部員が僕を含めて3人しかいないのに部活公認されているのはそういうことだ。
「ということで、日向君には特別任務をあたえる」
部長が食べ終えたであろう弁当を片付けて、僕の方に指をさして宣言した。
「え、どういうこと?」
「その紫の幽霊少女について取材するんだよ」
突然言われて、口に入れた卵焼きがのどに入らない。
「で、でもそれって難しくないですか?永井市って意外と広いし、存在が噂されててもどこに出現するかわからないし」
「それがね!東峰神社じゃないかっていわれているの」
加奈が誇らしげにスマホのマップを見せてきた。
どうやら友達の友達の友達から聞いたらしい。さすが女子のネットワークは半端じゃない。
東峰神社、名前だけは聞いたことあるが一度も足を運んだことがない。
調べてみると、自分の通学路と反対方向にあった。
家から徒歩30分と少し遠いところではあるが。
「徒歩30分で行けると考えると、自分の夢ってしょうもないですね」
「まだそこにいるとは決まっていないからね。本当にいるかもしれないし、いないかもしれない。それに」
部長の手がは僕の肩に置かれる。
「もしかなっても、また新しい夢をさがせばいいだろ」
たまに見られる部長のイケメンな笑顔にはジェラシーを感じるところがあるが、でも今回はとても励みになった。
オカルト研究会という妄想にみちた部活をつくった少年の口から出た、夢を何度でも探すこと。夢をかなえたとしても、その探求心や好奇心を捨てたりはしない。
純粋な希望を持った少年心が大事だといったけど、それを言う資格は僕より、部長がふさわしいのかもしれない。
「そうですね。絶対見つけてみせますよ。紫の幽霊少女」
ばかばかしく見えても、夢をあきらめないで進むことは、これからも大事にしよう。
例え絶望に陥ったとしても。
HRが終わり、部室から借りたデジカメをもっていざ出陣としたとき、加奈から声をかけられた。
「実は帰り道、途中まで同じ道なんだよ!」
それは何ともラッキーなことで。でも普段の帰り道は逆方向だから、OKもらっても一緒に帰れないんだよなあ。
「・・・一緒に歩くの?」
「うん、そのつもりだけど。今日は用事があるから神社によらないで、家にかえるけどね」
え、まじで!他の同級生の美少女には申し訳ないけど、ワタシクシ、加奈たんが一番かわいいと思っているから!
一生、女の子と歩くなんてイベントおきないとおもっていたけど、なんか変なタイミングで起きた!やった!葉っぱ一枚で踊りたいよ~。
おっと、まさかこんな変態紳士の思考が口に出ているんじゃ・・・
「どうしたの、急に口をふさいじゃって。もしかして、一緒に帰るの嫌かな」
「いや、いやいやいやいや、否!だいこうふ・・・じゃなくて大歓迎だよ」
大歓迎という言葉もおかしいような。
「そっか!よかったあ~。じゃあ一緒に帰ろ!」
校門をでて、僕はそこでいつも右にまがっていたが今回は加奈と一緒に左にまがった。なんかいけないところに入ったような気分だ。入ったことないけど!
表情にあらわれないように喜びをかみしめながら、横にいる加奈をみた。
加奈も僕の顔を見ていて、目が合ってしまった。
「どあふぉ!」
「あははは!どうしたの、いきなり変な声出して!ふふふ!」
「い、いや~。どうして、そんなに楽しそうなのかな?」
加奈はまた笑った。
「だって、ひゅーが君とクラスも部活も同じだったのに、帰り道は逆だから一緒にかえれないじゃん。いつかこうして二人で帰れたらなあとずっと思ってたの」
もういっそ引っ越そうかしら。
加奈は男女問わずフレンドリーな性格だから、異性というよりは友達でという意味だと思うが、それでも誰かに一緒にかえりたいと思われるのは、とても気分がいい。
僕も加奈のように、楽しくなろう。
「ひゅーが君?どうしたの、そんなに目を見開いて。そんな形相でみられると、ちょっと怖いかも」
この光景をわが長期記憶に記録し、ディスクにおとして新城家の家宝にせねば。
僕と加奈は一緒に
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