橙の報復

第0話 プロローグ

 木漏れ日の満ちる街道を一人歩く。空は快晴。夏だというのに風も涼しく、木の葉の擦れる音とセミの音が調和して、あまり騒がしく感じられない。ここは都会だというのに山に囲まれていて空気がおいしい。自然とともに進化する都市、それがここ中京都のキャッチコピーだ。自然に恵まれているうえに、商業施設や娯楽施設もあり、老若男女問わずあこがれる場所だ。そこに住んでいるとなると恵まれているなと頭で理解できるが、呪われた僕は感じられなかった。


「はあ…」


僕はよくため息をする。決して憂いているのではない。よく列車が止まるときに空気のなんか出すだろう?あれだ。

僕には呪いがかけられている。その呪いの負荷で、結構疲れやすくなった。

全てのことにやる気が起きない。こうやって歩くのも精いっぱいだ。そのうえ今日が初登校日である。

学校名、私立零ヶ崎学園。通称ゼロ校。中高一貫。

この変な名前の学園は中京都でトップの施設を誇る学園だ。近くにアミューズメント施設もあり、人気高い学園だ。そんな素晴らしい学園はもちろん偏差値も高く学費もそこそこ高い。

そう聞くとまるで僕が途中から乱入するエリート生のように思えるが、前の学校での成績は中の中だ。編入試験があるかはわからないが、一般試験を受けたとしたら、おそらく補欠にも入らなかっただろう。しかし、自分がその学校に通うことができたのは恩人である叔母がこの学園に入らせてくれたのだ。どういったルートでかは知らないが、面談を数分受けただけだった。

叔母には感謝してもしきれない。まだ呪いのことを話していないが、事情を聞かずに優しく向か入れてくれたのだ。その親切に答えるためにも、勉強についていけるかわからないが、この学園で精いっぱい頑張ろうと思う。

とはいえ転校の知らせを昨日知った。教科書とともに生徒証と制服が届いてきた。なので、ここがどんな学校なのか正直わからない。


「…」


それにしても、周りに生徒らしき人が見当たらない。時間はあっているのだが。


「…まさか」


僕は腕時計を見た。誕生日に親からもらったアナログ時計である。世間はデジタルという先端技術の世界に入ったにもかかわらず、いまだアナログが存在し、流通しているというのは、何たる矛盾なのだろうと思ったことがある。デジタル化によって、アナログよりも正確で効率よくなり、人類の社会はどんどん過ごしやすくなった。しかし、人類は効率よりも単純さ、正確よりも自然を求めるようになり、結果として旧型を美化する。デジタル化という技術の進歩にあやかり、自らを進化させるべきではないかと訴えたい。

まあ、デジタル時計よりもアナログ時計が好きなんだけどね。この時までは。

というのも、思ったより時間が1時間も早く過ぎていたのだ。


「…やばくね」


このことに関して二つ理由が浮かんだ。

時間が飛ばされたのか。あるいは呪いのせいか。

一つ目に関して、まずこれはないだろう。ありえないというより、できないのである。僕もよくわからないんだけど、時間のサーバ?がなんとかかんとか。

とにかく、するにはものすごく難しい。

二つ目に関しては可能性としてあるが、目的が分からない。どういうことなのかは時間がないので後で話そう。もう、時計の針を読み間違えたという結論に至った。

もうアナログ時計は信用しない。そう思いながら僕は急いで目の前の坂道を走った。

その先に待っている学園生活が、運命を呪われた自分を少しでも癒してくれることを祈って。

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