第1話 紫は転校生になる

 中京都人気首位をとる私立零ヶ崎学園。坂を上がって見渡すその学校のその広さは一般の高校とは比べ物にならない。学園内のたくさんのグラウンドがあり、ちびっ子から大人まで使っている。様々な建物がそびえたつが「零」の漢字のマークが輝いている建物が中高一貫の校舎だ。現実とはかけ離れているような景色ではあったが、そんなことなど全然目に止められなかった僕は、3時間目が始まる前に、たくさんの人

の前に立っていた。


「えー、たまたま担任の私が次の授業なので、ここで少しHRを行いたいと思います。では自己紹介を。」


クラスの生徒の目線はまるで異様なものを見ているかのようだ。それもそうだ。初日遅刻する転校生とか、只者ではない感じがするよな。くそ、ちゃんと再確認すればこんな事態を防げたのに。ふと見ると、皆が自分を見ている中、一人だけにらんでいる女の子がいた。長い髪を後ろで一つにまとめて垂らしており、体格的にスポーツ系の

ように見える。何か彼女の気にさわったことをしてしまったのだろうか。


「おーい、聞こえるかー」


「えっ?あ、はい!えっとー、はい?」


「自己紹介」


「あ、ああ、なるほど」


見とれていたのか、怖気づいたのかわからないがその少女のことが気になっていて、気づかなかった。先生には申し訳ないが、その代わりクラスの雰囲気が少し和やかになった気がする。

「新城日向です。新しい城に日に向かうです。よろしくお願いします」

そして僕は、晴れて零ヶ埼高校1年β組の一員となった。この新しい世界でうまくやっていけるだろう。しかし、僕には呪いがある。学校が変わったからといって、呪いが解かれるわけではない。でも、実際そんなことは些細なことだった。僕をにらんだ彼女と一緒のクラスになった時にはもう災いは起きていたということをこの時僕は知らなかった。


「よお、日向だっけ、俺の名はタケル。よろしく!」


やあ名前からあつくるしい君、


「よろしく…」


「えへ、かわいい。私レナだよ。よろしく」


か、かわ、落ち着け、あれは彼女の通常モードだ。そ、それぐらいわかっている。


「よろしく…」


「あ、遅刻した転校生君じゃん。マジウケるwおーい、こいつ遅刻した転校生!」


いいじゃない、転校生が遅刻したって。人集めるな。ていうか僕には新城日向という

名前があるんだ。次名前で呼ばなかったら恨んでやる。


「名前何だっけ」


あら、かわいい女の子。え、恨み?そんなの言った覚えはない。


「…新城日向」


「へえ、いい名前だね。ひゅうが、か…」


なあに、なあにその点点は。なんでそこで止めちゃうの?意識しちゃうでしょ!

「ごめん、名前聞いてもいいかい?」


男か、死ね。恨みのついでに教えてやる。


「新城日向」


「へえ、ひゅうが…か。…いい名前だね」


なあに、なんでもじもじしているのかしら。普通に言って!意識しちゃうでしょ!


「なあ、名前なんだっけ?」


ねえ、なんでそんなに名前ばっかきくの?最近の流行の曲とか調べたよ!別の話でもいいじゃない!つうかお前さっきのウケるやつだな。さっき聞いただろ!


「新城日向」


「日向?果物じゃんウケるw」


ああ、僕も思ったよ。初めて出会ったときはなにか親近感を感じたよ。つうかウケるな。

そんな感じで昼休みの転校生イベントの真っただ中であったが、一人こちらにきたとき、雰囲気がかわった。


「新城日向君かしら」


さっき自分をにらんでいた女の子だ。先ほどとおなじようにこちらをにらんでいる。さっきまで近くにいたクラスメイト達が一歩下がっていく。この女の子から何かとてつもないオーラを感じる。たとえるなら、そう鬼だ。


「そうですけど」


「ご飯は食べた?」


「いえ、まだですけど…」


「そう、お弁当持ってでいいから、ちょっと時間いいかしら」


いきなりなんだと断れる雰囲気ではなかった。


「わかりました」


ふと回りを見ると、あのウケるの男子ですら笑っていない。一体何をされるのだろう。僕は不満より不安を大きく感じた。

彼女が連れてきたのは、クラスの教室から少し歩いて、無機質のドアの前だった。彼女は、ポケットから鍵をだして開けて、中に入れと言われた。中は真ん中に教室のより少し広い机といすが一つずつ置いてあった。内装は白い壁に灰色の床と天井という何とも淋しい感じであった。僕をいすにすわらせてから、彼女は話し始めた。


「いきなりですまない。私の名前は秋原刹利。風紀委員をやっているものだ」


なんかそんな感じしてた。


「いくつか質問したいので、呼ばせてもらった。まあ、風紀委員の一連の仕事のよう

なものだ。あまり硬くならなくていい。ご飯食べながらでも答えてくれ」


急にやさしい口調になったけど、殺気がたっていてご飯を口にするどころではなかった。ちなみにご飯はコンビニと焼きそばパンだ。


「まず最初の質問だが」


そう言うと彼女は手品師のようにどこからか長い棒を取り出した。

いや、あれはどこかで見たことがあるような。


「お前は誰だ」


といい終わらないうちに目の前に金属の長い線が現れた。

あれは、刀だ。

そう思い、声を上げようとしたが、すでにその刀は首の横にあった。

死んだ。目をつむろうとしても、一瞬の出来事におどろき目をつむれなかった。刀がまだ首の近くにある。例の車にひかれるときにスローモーションに見えるというやつか。そんな考えごとをし終えてもまだ、そこに刀はあった。いや、動いていない。首から目に見えないほどの距離に刀が止まっていたのだ。


「…!?」


「…反応なしか」


そういい終わると刀が首から離れ鞘の中に入れられた。鞘に入りきったとき起きる音で、初めて声を出すことができた


「う、うわああああ!」


「ふむ、普通だな」


「何が普通だよ。異常だろ。なんで急に刀で斬られるんだよ!」


「すまない。自分もあまり好ましくないのだが、最近ニュースになっていてな。」

「ニュースって?まさか…」


「緑魔会」


最近新型の病原体が発見された。感染すると物理の法則を狂わせ、体が変異したり特殊能力を持つようになる。そして狂暴化する。医学会はこれを「GOBLIN」となずけ、秘密裏で対策に力を入れた。これがただのウイルスであればいいのだが、その大いなる力から、そのウイルスを崇拝する「緑魔会」という秘密結社ができたらしい。不可思議な事件がたびたび起きており、実在するのではとテレビの番組でよく取り上げられる。


「あの事件以来、今まで都市伝説であった緑魔会は実在し、噂通り凶悪な組織であるということがわかった。より一層厳しくならなくてはいけないのだ」


その対策として彼女は僕を斬ろうとしたのか。


「…別に刀使わなくてもいいだろ」


「この方法が手っ取り早い。あえて殺気をだし警戒しているうえで反応できるレベルで抜刀する。相手が緑魔会なら何かしら防衛していただろう」


逆に反応できないレベルで斬ることもできるというのか。ぎりぎりに寸止めさせるといい、こいつはまさに化け物だ。


「まあ今回のことで、お前はそちら側ではないことが分かった。もう戻っていい」


彼女はそう淡白にいうと、そのまま出て行った。

一人取り残されてしまった僕はあの殺気から解放され安堵したと同時に、ふと彼女から感じたことが殺気だけではなかったことにきがついた。何なのかは知らない。しかし、それは自分のこの呪いと関係があるのではないかと思ったりもした。



帰り道、呪いの影響でへとへとになりながらも昼休みにあったあの出来事を思い返してみた。彼女のこと、緑魔会のこと、そして呪いのことを。


「なあ、何か感じることなかったか?」


誰もいないところにそうつぶやいた。はたから見たらひとりごとをぶつぶつ言っているやつだが、ちゃんと話相手がいるのだ。


「…」


「おい、なんも返事してくれなかったらそれこそヤバいやつじゃないか」


ちょっと声が大きくなってしまったので、あたりに人がいないか確認した。

ここで僕の呪いについて話そう。


「…昨日、『独り言をしてるやつみたいにみられるから話しかけるな』って言った…」


「そうだっけ?まあ状況が変わったんだ。相談にのってくれ」


もちろん、近くに人はいない。自分の頭の中に聞こえる少女の声だ。僕は悪霊に憑かれている。

これが僕にかかっている呪いだ。それも紫怨っていう名前がある。

いつも脳内に少女ボイスが来るなんて幸せじゃないか。

ぼくも後から考えてそう思ったこともある。だが、憑かれると結構疲れる。彼女の説明だとどうやら僕の脳のストレージに彼女の存在分が入っているらしく、その分だけ脳が動くため疲れやすいと。そのおかげでまともに集中することができない。今日の授業もノートとるだけで精いっぱいだ。初日なので、なんとか眠らないようにできたけど、いつまでもつかわからない。

僕は別に好きで紫怨を脳内に住まわせているわけではない。

実は悪霊とはある契約を結んでいる。僕からは、僕の身を守ること。転校する前、僕は命の危機にさらされた。絶体絶命の時、彼女と出会い、契約を結んだのだ。


「でも、おかしいなあ。さっき命の危険が迫っていたんだけど…」


「私からは、オーガ・プロトコルのもとに協力すること」


「おい、それは僕の脳内小説に書こうとしたことだろ。役割を奪うな。あと、話を逸らすな!」


はっと我に返り、周囲を見渡した。どうやら周りに人はほとんどいなかった。ほとんど、ということはつまり人が1,2人いたということだが、まあ、見た目が小学生だったし、あんまりかかわりはないので問題はないだろう。

で……なんだっけ。あ、そうそう、僕のタイプは和服系の小学生で貧乳の…


「おい、それはお前のことだろ」


「私の紹介に、不足な情報」


「脳内に流すな。実際現れば、自動的に脳内小説に書き込まれるんだから」


「…」


何も反応がなかった。最近紫苑は視覚化されない。そう、姿を見ることができるのだ。ぜひ、みんなに紹介したいのだが、現れてくれないので何とも言えない。恥ずかしいのかなと思いきや、どうやら、さっき彼女が言った「オーガ・プロトコル」っというのに関係がある、らしい。実は僕もそれが何かわからない。


「詳細を説明することは情報不十分より不可」


じゃあ、お互い様だね!あはは。

はあ…。一体こいつの正体はなんだか。一生悪霊につきまとわれるのか。


「幸せでないより」


「プライバシーがただ漏れで、意外とストレス溜まりますけど」


「昨日は和服系の少女だった」


「やめて!いわれるだけで恥ずかしい!」


彼女が消滅する方法があるのだろうか。塩かけるとか祓ってもらうとか。まあ、やってみたけどね。

元凶であったあの事件。それは僕にとって後悔極まりない事件だった。あの時、僕が動かなければこんなことにならなかったのかもしれない。僕の身勝手さが、あの事件を起こした。この呪いはその罰なのかもしれない。


「まあ、そう思うと、罰にしては軽すぎるかもな」


「…罰」


「気悪くしたか?」


「…別に」


過去を変えることはできない。でも、それを償わなきゃいけないと思う。具体的にはまだ考えられていないけど、思いつくまで生きなくては、生かされなくては。


「罰とは言えないかも」


辛辣だな。でもそうかもしれない。

前向きになれる道が見えなく、思いつめる中、ふと彼女の答えが、償いのことなのか、彼女に憑かれたことなのか、どちらを言ったのだろうと、疑問に思った。

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