第七話 裏路地と裏切り
「シュウ! 起きろーー!」
ゼクサスの大声で、目が覚める。
覚めてしまった。と、言った方が適切かな。
「シュウ大丈夫〜?」
ハーツが首をかしげながら言う。
「え? 別に何でもないよ。おはようハーツ、ゼクサス」
「いやいや、大丈夫じゃねぇだろ。 シュウ、お前泣いてるぞ」
ゼクサスに言われて初めて、俺の頬を涙が流れているのに気がついた。
「あっ、オイラ分かった。怖い夢見て泣いちゃったんだ〜」
ハーツがおちょくってくる。いつもなら俺がハーツに怒って鬼ごっこになるのだが、今日は違った。
俺は、花畑での、あの出来事が夢だとは思えない。
「えっ? 図星だった? ごめんね」
何か深刻なことがあったと察したのか、ハーツは謝罪をする。
「謝んなよ気持ち悪ぃ、それより、朝飯食おぜ」
俺達男子チームは女子部屋へ行き、ヒナとローズを連れて朝食を食べに食堂へ向かう。
それにしてもさっきのは本当に夢だったのだろうか、いや、きっと違う。あの時感じた、表しようのない気持ち、あれは間違いなく、本物の感情だった。それに、あの場所、あの木を俺は間違いなく知っている。
なんでこんなに気持ちが焦るんだ?
「・・・分かると良いね。その人が誰か」
ヒナが、心に寄り添うように言ってくれたが、
「ただの夢だよ」
俺は笑って誤魔化しかた。ヒナには誤魔化しがきかないことを承知の上で。
「うひょぉぉ! 美味そうだ! 」
「嘘だぁぁぁ! 生魚じゃねぇーか! 」
豪華な魚料理にゼクサスは目を輝かせる。その横で、俺は生魚に絶望している。なぜなら、生魚嫌いだからだ。
諸君のほとんどは寿司とか大好きだろう。ということは、生魚が好きということだ。なんで生魚嫌いなんだよ、とか言いたいと思うが、俺はあの血なまぐさい生魚が食えねぇんだよ!
そうです、俺が回転寿司に行っても、かっぱ巻きとか納豆巻き、玉子しか食べてない系の奴です。
俺が、自分が食べれそうなものを探していると、
「おいーー! 魚料理なのになんで焼き魚ないんですかぁ! 唯一許せる魚料理すら無いというのかぁぁぁ! 」
諸君、考えてもみたまえ。ホテルやレストランに行って魚料理が出たとする。その料理の一品には焼き魚系の料理があるはずだ。
もしや、
この世界の人々は魚を焼くという行為をしないのか?
俺がそんな事を考えていたら、
「またシュウが諸君とか言ってるし。変なの〜」
くっ、ハートが痛い。
厨二病って言われてるみたいな気分になるぜ。
「ヒナよ、いちいち言わないでおくれ」
俺達が食事を終えようとした時、
「すみません。少しお話しても良いでしょうか? 」
花柄の半袖に、白の短パンを履いたチンピラ顔の男が喋りかけてきた。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「自分はツゥエイっていいます」
ツゥエイが自己紹介をした時、ヒナは一瞬戸惑っていた。だが、すぐにいつも通りの大人しい表情に戻る。
「どうしたんだヒナ?」
「後でお話してあげるね」
唇に指を当てて答えるヒナが可愛すぎてポカーンとしてしまう。
そんな俺の思考を読み取り、ヒナが恥ずかしさのあまり、ムスッとする。
「で、オイラ達になんのようだい?」
ハーツは、この男が怪しいのか、目を細めながら問う。
「あっ、失礼しました。実は、僕の友達が悪い人達に捕まっちゃって・・・・・・助けてほしいんです!」
よっしゃー! 主人公イベント発生したぜーーー!
「こら! 困っている人がいるのに喜ばないの」
ヒナがツゥエイに聞こえないように注意する。
「装備を見たところ、冒険者つまり、ギルドの方々ですよね。お願いします! どうか友達を助けてください!」
ツゥエイが深々と頭を下げる。彼は、その目に涙を浮かべている。
「・・・・・・なぁ皆んな」
ゼクサスが決意の目を向ける。
「オイラも同じ考えだよ〜」
「ん。私も」
「私も同じ考えよ」
俺は、ほとんどの人が苦手だが、困っている人を助けないほど腐った人間じゃねぇ。
「分かってるよゼクサス。ほっとけないよな」
「悪いな皆んな、祭りは明日だから今日のうちに観光したかったのに。ツゥエイさん、その友達の居場所は分かりますか?」
ツゥエイは飛びっきりの笑顔をつくり、
「分かります! 案内します。本当にありがとうございます!」
案内を始めた。
俺達はツゥエイの後に続き、その友達とやらの居場所を目指す。
街は、明日の祭りに向けて大忙し。たくさんの屋台が並んでいる。その屋台の中に、
なっ! 嘘だろ、射的あるやん。
異世界の祭りに射的があることに驚いていると、重大なことに気が付く。
「そういえば俺達、飯食い終わってねぇ気がする。朝飯は結構大切なタイプなのに・・・・・・くそ」
ツゥエイがすぐに道案内を始めたので、飯を完食することはできなかったのだ。
完食すると言っても、俺は野菜しか食べてないけどな。
少なすぎた朝食に、俺が少し落ち込んでいると、
「んっ」
ヒナが俺の袖をクイッと引っ張る。
「どうしたんだ?」
「耳貸して」
ヒナの口の高さに耳をもっていく。
「さっきの話なんだけどね、このツゥエイって人、スキルを使っても感情が読めないの」
耳傍で発せられるヒナの一言一言が俺の脳を溶かしていく。
やばい、可愛い子がこんな近くに・・・・・・ぶひぃ。
「もう、ちゃんと聞いてるの?」
「あっ、あぁ悪い。なんだっけ?」
「あの人スキル使っても感情が読めないの」
「えっ? そんなことがあるのか?」
「あるわけないよ! だから少しだけ怪しいなって思ってるの」
俺とヒナが近ずいて話をしていると、
「シュウちょっと来い!」
「なんだよゼクサス」
「ヒナとコショコショ話してるじゃあねぇ! 別に羨ましい訳じゃないけど、いい気分じゃねぇから!」
ゼクサスよ、何を言っているのか分からぬ。それに、めっちゃくちゃ嫉妬してるやん! 羨ましいってことがダダ漏れだぜ。
「皆さん、俺の友達の所まであともう少しです」
俺達は、大通りを抜けて、入り交じった道を進み、暗い裏路地まで来ている。
「えっ、なんか怖くね。俺、裏路地でいじめられた事あるんだげど」
陰キャヲタクな俺は、よく学校のいじめっ子に学校や、人目につかない裏路地でいじめられていた。
嫌な思い出が頭の中に再生される。
諸君よ、裏路地にいじめっ子や、人がいなくても裏路地に入ってはいけない! 俺は裏路地でボッコボコにされた思い出があるからな。
「ここです! ここにいる友達助けてください!」
そこは、石造りの建物で、手入れされてないところを見ると、多分廃屋である。
「こんな綺麗な街に、こんな所があるなんてな」
その廃屋の屋根には、たくさんの穴があり、壁を蔦が覆っている。
周りの建物が影をつくっているので、思ったより暗い。
「よし! 突撃しよう!」
ゼクサスはそう言うと、作戦無しに建物に入っていく。
「オイラ達も行くよ!」
俺達もゼクサスの後に続いていく。
中に入ると、そこには椅子に縛り付けられている男と、棍棒を持った男が三人いた。
「あぁん! 誰だてめぇらは!」
「俺の名はゼ」
「ハーハッハッハ! 俺のはシュウ! 貴様らを月に代わってお仕置する男だぁぁぁ!」
ゼクサスの言葉を遮り、俺は親指を自分に向けてそう叫ぶ。
かっこよく決まったぁ。
「やんのか、てめぇらぁぁぁ!」
棍棒三人衆がガニ股で近ずいてくる。
「喧嘩するならやめときな、俺達はそこまで甘くねぇんだわさ。《最後の灯火》って聞いた事あるよな? それがここの金髪だぜ」
かっこつけてそう言ったが、言ってるとこは虎の尾を狩る狐だ。
「さぁ! やってやるぜ!」
俺が剣を抜いた時だった。ゼクサスが頭から血を流して倒れた。
ゼクサスの後ろの人物を見た瞬間に、黒い触手のようなものが俺の背後から体を縛り上げる。
「グアッ!」
俺の声に続くように、皆んなが短い悲鳴をあげる。
棍棒三人衆のうちの一人が背中から黒い触手のようなものを伸ばして、俺達を縛っている。
「おやおや、《最後の灯火》もこんなもんか。くくくっ、笑えるねぇ」
倒れたゼクサスを、ツゥエイは踏み付けながら笑っている。
「《最後の灯火》も俺のスキルの前では雑魚だなぁ。ちなみに俺のスキルはな、俺の感情や思考は絶対に読まれず、俺の気を捉えるとこも出来ねぇ」
最低野郎じゃねぇか! クソが!
ツゥエイの手には棍棒が握られている。
「悪いねぇ、ここにいるのは全員俺の仲間さ」
「てぇめぇぇぇぇ! 裏切りやがったな!」
「裏切る? まぁ、確かにそうだな、裏切った。で? それがどうかした?」
ツゥエイが仲間にゼクサスも縛るように命令する。
「それにしても、可愛いねぇ。ヒナとローズって言ったけ? 」
ツゥエイはそう言うと俺とハーツ、ゼクサスを見て口を開く。
「君達にいいものを見せてあげるよ。女の遊び方をね」
ツゥエイは不敵な笑みを浮かべながら、仲間達と縛られて動けないでいるヒナとローズへ、距離を詰めていく。
「さぁ! 祭りの始まりだぁぁぁぁ!」
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