第六話 ずっと一緒に



ずっと一緒に



「ん、ここはどこだ? 俺は一体何をしてる?」


様々な色の花が辺り一面に広がっている。

終わりが見えない花畑。赤、青、黄色、様々な色の花が咲き誇っている。

なぜだろう、とても懐かしい感じがする。


「そうだ、俺は海の街シャペルに来てたんだ。おーい。ゼクサスー、ハーツー、ヒナー、ローズー。どこにいるんだよーー!」


皆んながいないので、探すために歩き始める。

なんだろう、すごく落ち着く。そして、俺はここを覚えている。元の世界で子供の頃に見たことがある場所なのだろうか?


「にしても良いとこだな」


空は青く澄んでいる。雲は風に乗り、形を変えながら動いていく。

少し歩くと、目の前に小高い丘があった。丘の上には、小さな木がはえていた。辺りには、花しかなく、小さな木でも、とても目立っていた。


「ったく、目立つ割にはどこにでもある普通の木だな」


その木の影に入ると、


「私は、この木が好きなの。どこにでもあるのに木なのに。やっぱり変だね、私」


なんだ今の声は、誰の声だ!

頭の中に響いてくる。


「くっ・・・・・・」


頭に鋭い痛みが走る。

鈴のような、優しくて温かい声。

俺はこの声を覚えている。誰の声だ、誰の、誰の、誰の誰の誰の誰の、


「誰の声なんだよぉぉ! 」



その声を聞くと、心の中から色んなものが溢れてくる。喜び、悲しみ、そしてどんな言葉も似合わない感情がどんどん溢れてしまう。この、懐かしくて温かい声に。


(やっぱり変だね、私)


その言葉を何度も何度も頭の中で再生する。


君は決して変じゃない!

会ったこともないのに分かる。変じゃないと断言出来る!

人と意見が少し違うだけで、他の人よりも、周りの命を大切にしてるだけで、自分の事がどこか許せない。そんな君が俺は大好きなんだ!


そうだ、この声は、

ずっと一緒にいたかった、ずっと一緒にいられると思ってたあの人の・・・・・・くそっ! 思い出せない。


大切な人なのに、顔も思い出せない!


「くっ!」


思い出せそうなのに、頭にノイズが走って邪魔をする。


「私のためにたくさん傷付いて、なんでそこまでしてくれるの? 分からないよ」


また聞こえてくる。


「綺麗な剣筋だから、―――はきっといい人だよ」


「私にくれるの? すっごく嬉しい」


「なんでかな? 涙が止まらないよ」


「世界と共に滅んでしまっても、私はまた―――に会いに行くよ。」


「ごめんね。先に天国にいくことになるけど、この世界を―――に任せたよ。・・・・・・任せるばっかでごめんね。ほんとにごめんね」


声だけがずっと響く。どんな状況で、どんな場所で言っているのかさえ分からない。


「なんなんだよ! 誰なんだよ!」


泣き叫ぶ俺に、最後にその声はこう言った。


「愛してるよ」


なんだ、この感情は。俺はずっとその言葉を待っていたのか? その言葉を聞くために。


たった一言、その一言の響きが、言葉が、俺の中の自己嫌悪の塊を溶かしていく。


涙がポロポロと零れていく。

俺は一体誰なんだ。この声の持ち主は俺にとって、どのくらい大切な存在なんだよ。

俺が泣き崩れていたその時、


「狂った世界なんかぶち壊して、今度こそずっとずっと一緒に暮らすんだ!」


自分と全く同じ声が響いた。そして、俺の声はこう言った。


「この木に誓うよ。俺は一生君の笑顔を守るよ。だから・・・・・・ずっと俺のそばにいてほしい」


と。


俺の声に君は、たくさんの涙を零して、嬉しそうに笑った。


なぜだろう、何も思い出せないのに確かに君が、さっきの声の主が笑ってくれたことがハッキリと分かる。


しばらくすると、声は聞こえなくなり、頭痛とノイズもおさまった。


俺は改めて、この一本の木を見つめる。


「やっぱ、何も思い出せねぇな」


俺はしばらくこの花畑を歩き回った。


爽やかな風が吹き抜け、花の香りを拾い上げる。

澄んだ空には、雲が千切れたりくっついたりを繰り返している。


ずっとこの場所にいたい。


俺は花畑に寝転び、眠りにつく。


君にもう一度会えますように。


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