第4話 魔剣と聖剣



魔剣と聖剣



「ふあぁ、良い朝だ〜」


思いっきり両手を広げて伸びをする。

鳥か魔物か分からないが、雀のような鳴き声が聞こえる。


「おはよ〜」


ハーツが目を擦りながら朝の挨拶をする。


「遅いじゃないか。俺はワクワクして早く起きたぜ! 」


謎のドヤ顔を決められた。


コンコン。

誰かが扉をノックした。


「入っても良い? 」


ヒナの声だ。


「おう。入っても良いぞ! 」


ゼクサスがそう返事をすると、


落ち着いたドレスを着たローズが入ってきた。紺色で変に着飾ってない美しいドレス。男チームは思わず見とれてしまう。

その後に続いてヒナが入ってきた。水色のワンピースを着ていて、白い前掛けをつけている。不思議の国のア●スですか。と尋ねてしまいそうな服装だが、銀髪ショートヘアのヒナが着こなすとそれはそれは美しい少女だ。まるでショートケーキの上に乗っているイチゴの輝き。


「・・・・・・・・・・・・」


ヒナとローズは何を言うのか気になっているようだが、男達はそれどころではない。時を止めてずっと見ていたいのだ。何故ならこんなにも美しい女人を拝めたことは無いからだ!


「・・・・・・綺麗だ〜〜」


ハーツが沈黙を破った。ハーツの心はとろけているようだ。

ヒナとローズは服装の感想を待っていたようで、とても嬉しそうだ。

グゥ〜。

俺の腹がなってしまった。


「ごめん。朝ごはん食べたい」


「あっ、今日魔聖おばばのところ行かなきゃ! 」


ヒナの一言で皆んな大慌て。魔聖おばばは、有名人だから、会いに来る人がたくさんいる。なので朝早くから魔聖おばばのところに行く予定だったのだ。一階のレストランで朝食を食べ、必要な荷物だけ持って急いで砂漠の月を出た。朝早いのにたくさんの人が歩いていた。目的は魔聖おばばだろう。


「ヒナ。スキルを使って魔聖おばばの場所を割り出してくれ」


ゼクサスが他の人に聞こえないように囁いた。


ヒナはすれ違う人々の感情を読み取り、魔聖おばばが高い確率でいるであろう場所を割り出した。


「この街の端にある広場にいる。皆んなついてきて」


ヒナを先頭に急いで広場に向かったが、既にそこにはたくさんの人が集まっていた。


「おやおや。こりゃまたたくさん集まったねぇ。運命の人を呼び出してほしい人達の中で一番面白い余興を我に見せてくれた者の運命の人を呼び出そう」


魔道具を使っているのだろう。皆んなによく聞こえるように声が拡張されている。魔聖おばばはパッと見は三十代あたりの女性に見える。髪は紫色だ。


「魔聖おばばは三百年生きてるの」


スキルを使ったのだろう。ヒナが教えてくれた。

たくさんの人が列を成し、演し物をして魔聖おばばを楽しませようとする。


「よっしゃ! 次は俺の番だ! 」


ゼクサスはそう言って魔剣イシェルヒィードを抜き、剣を振り、舞を踊ってた。凄く美しい動きだったがなんの反応も無しだった。


「次はオイラ〜」


ハーツは変顔した。


「・・・・・・・・・・・・」


その場が静まり返った。ある意味天才のようだ。


「俺の出番ってわけか、主人公の力を見せてやるぜ! 」


俺はテンションマックスで高らかに宣言する。


「必殺! パントマァァァイム! 」


俺の唯一の得意技を披露した。すると、


「面白い奴じゃな。お主は主人公と言ったな? 」


「あぁ。確かに言った」


俺は転生したんだぜ? 主人公に決まってるだろ。


「良いじゃろう。お主の運命を呼び出してやろう。主人公ならきっと凄い人物と出会うじゃろな」


魔剣おばばは顔に不敵な笑みを浮かべる。魔聖おばばに手招きされ、俺は近ずいていく。

魔聖おばばは最初に黒い剣を差し出した。


「さぁ持ってみよ。この魔剣は宿命の魔剣。この魔剣を持った者の宿命を共に背負うものを呼び出せる魔剣じゃ」


「ちょっと待て、魔剣は持ち主以外が持ったら危いんじゃないのか? 」


俺はゼクサスが教えてくれた魔剣と聖剣の話を思い出す。


「持ち主である我が持てと言うたのじゃ。安心せい」


俺は意を決して魔剣を握る。数秒たったが何も起こらない。


「なぁ、おばばさん。何も起きねぇよ? 」


俺がそう言った直後。一瞬だけ世界が白黒になった。その一瞬の間に声が響いた。


「俺と契約出来る奴を待っていた」


聞いただけでゾッとしてしまう声だった。

俺以外の人にも聞こえたのだろう。皆んな顔が真っ青だ。


「お主、悪魔を読んだな? 」


「は? 」


悪いけど俺も全く状況が理解できない。


「お主も聞こえたであろう。先程の声の主は契約、と言ったのだぞ。つまり、悪魔じゃよ」


「えーと、なんか悪いこと? 」


「あまりよろしくはないことじゃ。まぁ、悪魔と契約した者は多くおる。安心せい。それよりも静まり返ってしまったではないか」


ここに集まっている半分くらい人が俺に畏怖の目を向けている。


「よし。次じゃ、この聖剣を持て。運命の聖剣じゃ。お主の運命の人を呼び出し、近いうちに出会う事になるじゃろ」


その聖剣を握った途端に声が聞こえた。

今度は悪魔の声では無かった。驚くことにその声は俺の声だった。


「今度こそ一緒に笑いながら暮らすんだ! 」


俺の頭の中にそんな言葉が響き渡った。悲痛な、苦しそうな、希望をのせたような響きだった。

何故だろう。俺は急いで何かを、誰かを探さなければ! と思った。


「どうしたのじゃ、急に目を見開いて? 」


「いやっ、何でもない。ありがとうおばば」


「一ヶ月以内に運命の人に出会えるじゃろう」


その後、俺達は広場を離れて買い物に行った。

木漏れ日のように降りそそぐ陽の光に照らされる街 オアシンバ。美しいところだ。


「魔聖おばばやっぱすげぇな! 」


「おう。そうだな」


「悪魔呼んだんだねぇ〜」


「おい! やめてくれよハーツ。気にしてんだからその事! 」


男同士で騒がしくしていると、


「ねぇ。・・・・・・誰か一緒に買い物しよ、二人きりで」


ヒナが恥ずかしそうに俯いた。


「俺が一緒に行こう! 」


「いや、オイラが行こう! 乙女心分かるよ〜」


「いーや、俺が行こう! 」


俺達はヒナとのデート券に必死。俺達が、自分の方が良いだの色々言いあっていると、


「私はねぇ、ヒナちゃんのことが心配だから、護衛もできる人がいいと思う。つまりーゼクサス」


ローズが仲裁に入った。俺とハーツが自分も護衛できるし。と言おうとしたとき、


「ローズに賛成。ゼクサス一緒に行こうよ」


ヒナが首を傾けて、可愛らしくゼクサスを指名する。


「わ、わわわ、分かった、一緒に行こうな! 」


あまりにもヒナが可愛くてゼクサスは上手く返事が出来ない。

その後、俺達余り物チームで買い物に行ったが、俺はヒナとゼクサスが気になってしょうがない。別にヒナが安全なら良いけど、好きな女の子が自分以外の男と一緒にいるのは凄くモヤモヤする。俺は買い物を純粋に楽しめなかった。少し暗くなってきたので俺達は砂漠の月に戻ることにした。ローズは別室なので宿の廊下で別れを告げる。


「ふぅ〜。色々買っちゃったね〜」


ハーツはそう言うとベットにダイブする。


「そんなにヒナが気になるの〜」


ハーツはおちょくった口調で尋ねてきた。


「そんなに気になる訳じゃないけど、二人きりで何をして、何を見て笑いあっているのかなって思うんだ」


「まぁ、オイラもすっごく気になるんだけどね」


地上からもれてくる光はオレンジ色から、夜空の色に変わっていく。まだ二人は帰ってこない。


「あっ! そういえばゼクサスの野郎、俺の剣探しに行くって言ったよな! な〜にヒナとデートしてやがるぅぅぅぅ! 」


諸君は覚えているかな? ゼクサスは昨日の夜、明日俺の剣を探してくれる的なことを言ったのを。

俺が暴れていると、


「いえーい! ただいま! 今日はなんて良い日だろうか! 」


ゼクサスがキラキラした目で帰ってきた。


「ゼクサス。さぞかし楽しかったんだねぇ〜」


ハーツは手に剣を握る。


「幸せそうな顔じゃねぇか。なぁ、ゼクサス」


俺は手に分厚い本を持つ。


「二人とも待ってくれ! なんで殺気立ってんだよ! 」


「三分間だけ待ってやる」


俺は人生に一度は言いたかった言葉を一つ使う。


「ヒナと二人きりでいた事が羨ましいのか? 」


ゼクサスは言ってはいけないことを言ってしまった。この一言で俺とハーツは攻撃態勢にはいる。

さらば友よ。と心の中でゼクサスに別れを告げる。


「ご飯食べよ」


俺がゼクサスを本で殴ろうとした瞬間、部屋の扉からヒナの声が聞こえた。


「どうやら命拾いしたね〜。ゼクサス」


俺達は一階のレストランでディナータイムにはいった。店員さんが運んできたのはハンバーグと何の野菜か分からないサラダ。なんて美味しそうなんだろうか。


「いっただきまーす! 」


最初は腹が減っていたので、目の前の料理にガッツいていた。ふと視線を上げると、


「ふふっ」


ヒナが可愛らしく微笑んでいる。

ヒナの視線の先にはゼクサスがいる。


「二人きりで何してたんだ? 」


俺はそう言いながらハンバーグを口に頬張る。普通のトーンで喋っているが、本当はもっと詳しく聞きたい。だがしかし、俺はヲタクであり、陰キャという事実を忘れてはならない。

諸君もこんなことがあるのではないか、コミケとかアニメのストアなどに行ったときに、同じ小説、同じアニメのファンを見つけたとき、声をかけたいけどかけられない。そういったことが!


「剣聖会の会場とかの見学だよ」


ヒナがコロッと答える。


「何それ? 剣聖会って何かの集まりじゃないの? 」


「剣の腕を競う大会が各地であってな、それを見ていた人が剣聖会って名ずけた。別に意味は無い!」


ヒナに聞いたのにゼクサスが答えはじめた。


「優勝したら何が貰えるんだ? 」


「王国の騎士団に入れるんだ。騎士団に入るには試験を受けなきゃいけないんだがな、その試験は年に一回しかない。それに比べ、剣聖会は年に四回もある。それに、自分の剣の腕を証明することが出来る! 」


ゼクサスはハイテンションボーイになっている。つまり、興奮状態である。


「ところでゼクサス。なんで皆んな騎士団に入りたがるんだ? 」


「そりゃ、給料高いし、そして何より! 」


ゼクサスが腕を突き上げ、言葉を続けようとするが、


「かっこいいの! 」


ヒナの大きな声にさえぎられてしまった。

俺はヒナの声に驚いて、食べていたサラダが気管に入った。


「騎士団ってね、強いし、経済力もあってかっこいいの! 」


「なるほど。かっこいい・・・」


ヒナがこれほどまでに目を輝かせているのだ。俺が剣聖会で優勝したら・・・・・・。


「やめて。変な妄想しないで、シュウの変態! 」


「うっ、このチートスキルが! 俺だって年頃の男の子だ! 妄想ぐらいしたって良いじゃないか! 」


俺が己の無実を証明していると、


「ところでさぁ〜、剣聖会って明後日じゃない? 出場する人いるならさっさと練習した方がいいんじゃないかな〜」


「よし! 俺は出場するぜ! 」


「何を言ってるだゼクサス君! 優勝するのはこの私なのだよ! 」


そんな事で俺とゼクサスは剣聖会に出場する事にした。ちなみにハーツはボコボコされるのが嫌だということで出場しない。


「うおりゃぁぁぁ! 」


「あまい! 」


俺が全力で振り下ろした木刀をゼクサスは受け流し、俺が体勢を崩した瞬間、ゼクサスを体勢を低くして、俺の腹めがけて木刀を振るう。


「ぐはっ」


剣聖会で優勝するためにゼクサスと剣術の練習をしていた。

最初は木刀だからさほど痛くないと思っていたが、実際はめちゃくちゃ痛い。腹は青くなってしまう。


「大丈夫か? 休憩しようぜ」


「おう。そうさせてもらうよ」


倒れた俺に差し出されたゼクサスの手を握る。


「なぁ、剣聖会は木刀で戦うのか? 」


「そうだ。でも魔剣、聖剣の所持は許可されている」


「ふざけんなよ! 剣の腕を披露すんのになんで魔剣と聖剣ありなんだよ! 」


「魔剣、聖剣の特性は剣技の一部だからだ」


「納得いかねぇけど理解はした」


「今のシュウは魔剣も聖剣も無い。でも心に宿した剣がある。だから大丈夫だ! 」


「いや、心に剣宿してねぇよ。とりま、練習再開しよーぜ」


俺達はぶっ倒れるまで練習をし続けた。

練習に夢中で気づけば夜だった。買い物に行っていたハーツ、ローズ、ヒナが帰ってきたのでディナータイムにはいる。


「「飯じゃあぁぁぁ! 」」


俺とゼクサスは目の前に運ばれてきたステーキ、サラダ、スープにがっつく。


「大変だったんだねぇ〜」


「バカよね♪ 」


俺とゼクサスの耳にはハーツとローズの声は届かない。昼飯を食べずに練習していたのだ。

飯を食べ終わると、明日に備えて早めに寝ることにした。


「ねぇ、入っても良い? 」


ヒナが男子部屋の扉をノックする。


「どうしたんだ? 」


「ゼクサスもシュウも明日頑張ってね。私は二人とも応援するからね」


そう言い残すと、ささくさと部屋を出ていった。

部屋の明かりに照らされたヒナの顔はとても綺麗だった。


「よし! 明日お互い頑張ろうな! おやすみ」


「あぁ、おやすみ」



俺はこのときはまだ知らなかった。

魔聖おばばにより大きく運命が傾いたことを。そして、神を二人滅ぼした少年と少女が引き付けあっていることを。

その二人の運命を祝福しない神々がいることを。

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