第5話 憤怒の灯火


憤怒の灯火



「よっしゃー! 今日は主人公様の最高にかっけぇところを皆んなに見せつけてやるぜーー! 」


苦情が来そうなほど大きな声をだす。


「うるぅぅせーー! お前朝から大声出すなよ! 」


ゼクサスが俺の大声で目を覚ます。


「うがぁぁぁぁぁぁ! オイラを起こすなーー! 」


さらにハーツまで起きてしまった。

朝から男子チームの部屋では大乱闘が始まる。


「お客様、他のお客様もいらっしゃるのでお静かにお願いします」


従業員に三人へ向かって殺気が送られてくる。

ローズとヒナが朝ごはんを食べようと俺達の部屋に来た。一階のレストランで腹ごしらえをして、剣聖会の会場に向かう。


「ここが会場か、なんかコロッセオみたいだな」


「ん? コロッセオって何だ? 」


「あぁ、気にしないでくれゼクサス。元の世界にこの会場に似ているところがあったな〜って」


俺とゼクサスは受け付けを済まし、木刀を受け取り、控え室で自分の番を待つ。

参加者は240人いる。トーナメント制になっている。俺は四回戦目でゼクサスとあたることになっている。


「九十番の方と九十一番の方は試合会場に出て下さい」


「よし! 行ってくるぜ! 」


「頑張れよ、ゼクサス」


ゼクサスは九十一番で、俺は九十九番だった。

俺はゼクサスを応援するために一度、観客席にいるヒナ達のところに行った。


「場所取りありがと」


「あっ九十九番だ〜」


「うるせぇよ! 名前で呼べよ! 」


「あっ、ゼクサスの登場だよ」


ゼクサスの登場に歓声が湧いた。

何故だろう、ゼクサスが有名な気がする。


「有名かどうかはまだ内緒だよ」


ヒナが人差し指を口元にあてながら言う。


いよいよゼクサスの試合が始まった。

相手は大柄な男で、筋肉もりもりって感じだ。

ゼクサスの相手が木刀を下段に構え、一瞬で十メートルほどの距離を詰める。その直後、大きな音ともに砂埃が会場を覆った。観客全員が目を凝らす。

砂埃がはれる。そこには剣を掲げるゼクサスと、地面に横たわる相手の選手がいた。

展開が呆気なかった気がするが勝利したのだから良いだろう。


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」


歓声が湧いた。

結果はゼクサスの圧勝だ。俺は自分の試合のために

控え室に向かった。そして俺の番が回ってきた。

通路を通り、観客の前に姿を現す。

俺の相手は赤髪のイケメン野郎。クール気取りのクソ野郎って匂いがぷんぷんする。


「善い戦いになると良いですね」


俺の相手はそう言うと木刀を構える。


「あぁ、そうだな。けど俺は、ゼクサスと戦うから負けねぇよ」


互いの目を見つめあう。初めの合図と同時に俺は木刀を振りかぶって思いっきり下ろす。


「喰らえぇぇぇぇ! 」


「甘いですねっ! 」


相手は俺のがら空きになっている腹部めがけて木刀を振る。


「フェイントだ、馬鹿野郎! 」


俺は木刀を振りかぶって思いっきり斬るフリをしたのだ。

ゼクサスとの練習でゼクサスにやられた時に編み出したのだよ!

俺は木刀を真下に突き刺した、狙いは俺の腹部を斬ろうとしている相手の頭だ。

これで俺は勝つはずだった、


「ぐあっ! 」


俺が木刀を真下に突き刺した瞬間に、相手は俺の視界から消えた。直後、俺の背中に激痛が走った。


「どうしましたか? この私に負けないのではないのですか? 」


立ち上がろうとするのだが、苦しくて立ち上がれない。


「良いフェイントでしたが、それは実践では使えませんね。貴方は遅すぎる」


「黙れ! 何だてめぇは、ハイスペック男子が実はゴミクズ野郎だったみてぇな設定じゃねぇか」


「何を仰っているのか知りませんが、弱者は惨めに蹲っているものです。そして貴方は弱者ですよ」


そう言い終わると、俺めがけて木刀を振り下ろした。


「あっ、やっと起きたよ〜。シュウ、オイラが分かる? 」


「分かるよ。てかこの部屋何? 」


「ここは治療室だよ。それよりも、シュウが気絶してる間にゼクサスは準決勝までいってるよ。もちろんシュウの仇はとったよ」


「そうか、準決勝はあとどのくらいで始まるんだ? 」


「多分だけど今から」


俺とハーツは急いで席に向かい、ゼクサスの試合を見る。席に座ると、ヒナとローズが怪我の心配をしてくれた。女の子に心配された事がないので感激している。


「貴方様はゼクサス様ですね? 私はシルクと申します。二年前のゼクサス様の試合を拝見しております。とても綺麗な太刀筋でした。」


「そうだ、俺がゼクサスだ! そういうお前は《漆黒の刃》シルクだろ」


「その通りでございます。《憤怒の灯火》ゼクサス様とこうしてお手合わせ出来ること、光栄でございます」


準決勝からは、選手同士の会話が観客に聞こえるようになっている。

何だこのやり取り? 《憤怒の灯火》ってなんだよ。

俺が疑問に思っているとヒナが口を開いた。


「二年前におきた大事件で、この大陸が氷で覆われたとき、多くの剣士やギルドが多くの人々を氷から守っていたの。だけど、王都から離れた田舎には優れた剣士、ギルドがいなくてね、そこに住む人々はただ死を待つだけだった。そんな時、たった一人の男が迫りくる大きな氷の波に立ち向かった。その男の人は、氷から逃げる途中で両親を亡くした。」


話の途中で準決勝が始まった。

試合開始の合図とほぼ同時に二人の姿がブレた。

ヒナは試合から目を離さずに話を続ける。


「その男は片手にイシェルヒードと呼ばれる魔剣を持っていた。イシェルヒードは男の家族を失った怒りに反応し、憤怒の炎を強く燃やす。その炎は黒い炎だった。そして男はたった一人で二千三百人の命を救った。救われた人々は、あの男こそ最後の炎、灯火だと謳い、《憤怒の灯火》と異名をつけた。その男は今も、憤怒の灯火を燃やし続けているの」


「ゼクサスがその男なのか?」


「ん」


ヒナは静かに答えてくれた。

闘技場のあちこちで木刀同士がぶつかり、衝撃波を放つ。二人が木刀を振るたびに感性が湧く。


「さすがですね。ゼクサス様」


「様付けはやめてほしいな! 」


「そうですか、ではゼクサスさんと呼びましょう。なぜにゼクサスさんは剣聖会に出場なさるのですか? ゼクサスさんは既に地方の剣聖会で一度勝利を掴んでいるはずですが」


「俺にも分かんねぇ! 仲間が剣聖会で剣を振るうなら、俺も一緒に仲間と剣を振るいたかった! それに、一番の理由は、好きな人を守るのために強さだけじゃなく、かっこよさも必要だからだ! 」


「なるほど、そういう理由でしたか。」


ここでシルクは一旦距離をとる。


「いい提案があります。お互い本気の一撃で決着をつけるのはどうでしょうか? 」


「そいつは楽しみだ! 頼むぜイシェルヒード、俺に力をかしてくれ。」


「魔剣を抜けないと本気とは言えませんが、ゼクサスさんのお力、楽しみにございます」


二人が睨み合うと会場は静まり返った。ただならぬものを俺にも感じる。空気が重たい。

ゼクサスが空に小石を投げる。その小石が二人の間に落ちた瞬間、


「はぁぁぁぁぁぁ!! 」


「せやぁぁぁぁぁ!!」


シルクは漆黒に包まれ、凄まじい速度でゼクサスに迫る。

ゼクサスは真っ赤な炎に包まれ、地面をえぐりながらシルクに迫る。

二人が衝突しあった途端、大きな衝撃波がうまれ、会場全体が砂埃に覆われる。


「ケホッケホッ。どっちが勝ったの? 」


ヒナの質問に誰も答えられない。


砂埃が徐々にはれると、そこに立っていたのは、


「しょ、勝者はっ、シルクーーーー! 」


勝者のコールが歓声を呼ぶ。


「ゼクサスさん、いい勝負でした」


「何言ってんだシルク、お前の圧勝だったよ」


「そんな、ゼクサスさんが魔剣を抜いていたら結果は変わっていたかもしれませんよ」


「シルク、ありがとう。いい試合だった! 」


倒れていたゼクサスにシルクは手を差しだす。ゼクサスはその手をとり、互いに称えあっていた。

その後、シルクは決勝でも勝ち、見事優勝した。

試合が終わり、俺達が宿に帰ろうとした時、


「ゼクサスさん、今日はありがとうございました」


シルクが後ろから声をかけてきた。そして、握手を求めるように手を差しだす。


「俺の方こそ感謝したいぜ! ありがとう! 」


シルクは、俺達が見えなくなるまで手を振った。

ゼクサスかっけぇー。と思っていてある事実に気がつく。あれ? 主人公って俺だよね、ゼクサスの方がよっぽど主人公してんじゃん!

俺がそんなことを考えていると、


「あっ! 宿に泊まるのって、今日の朝で最後だったじゃないの! 」


ローズの言葉に全員の思考を停止させる。

俺達は急いで砂漠の月に帰って、荷物をまとめ、オアシンバをあとにした。


「なぁゼクサス、王都にはもう少しなのか? 」


「いや、まだまだだぜ! これからだ! この後は近道のために海を渡る! 」


諸君、すまんが俺もこの国の形も知らない。どんな大陸でどんな国なのか全く分からん。


「ねぇ、シュウは前からちょくちょく心の中で諸君とか言ってるけど誰とおしゃべりしてるの? 」


「主人公ってのは必ず誰かに観られてんだよ。アニヲタって集団が俺の思考を読み取り、共感しているのだ! そんな人達に語りかけない主人公はいない! わ〜はっはっ! 」


ヒナは若干ひき気味だ。ついでに聞いていた皆んなもひいている。


「あっ! 海だぁぁぁ! 海が見えるぞーー! 」


ゼクサスは海を見つけた途端に走り出した。


「なっ! オイラが一番乗りだぞぉぉ! 」


俺の目の前に広がっていた景色は、美しい海と大きな街。

街の建物はレンガ造りで、屋根はオレンジ色の瓦みたいなもので統一されている。


「この街はなんて言う名前なんだ? 」


「海の街、シャペル。この街に来たくて王都や地方からも大勢の人が来るのよ。ねぇ〜ヒナちゃん」


「ん」


ローズがヒナの頭を撫でながら答えた。

そんな会話をしながらゆっくりと街へ行き、先に走り出していたゼクサスとハーツに追いついた。


「三泊させてほしい! 」


騒がしい奴がいるなと思っていたら、ゼクサスが大声で宿の従業員と話していた。今回は運良く部屋は空いていたようだ。ヒナとローズがゼクサスを褒めている間に、俺はハーツを見つけた。


「ハーツ、何してんだよ? 海来たのに泳がねぇのか? 」


「ふっふっふっふー。シュウ君よ、何を勘違いしているのだね。オイラは泳がなくてもいいのだよ。なぜならば・・・・・・・・・ヒナとローズの水着姿を見るために水着を買ってあげるのだぁぁぁぁぁぁ! 」


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 流石っすハーツ先生ぇぇぇえ! 」


という訳で俺とハーツは必死で水着を探してる。


「おいぃぃぃぃ! ハーツ何選んでんだよ! その水着じゃあ、狙いすぎだろ! 紐じゃねぇかよその水着! 」


ハーツが手に取っていたのは、体を隠す面積が少ない水着だ。いや、水着というよりも紐だ。

諸君、安心してくれたまえ。俺は女の人にプレゼントしたことは無いが水着のセンスならある。なぜなら、アニメで可愛い水着を見まくったからな!


「シュウーー! それ貝殻じゃん! 水着じゃねぇぇから! 」


俺がせっかくいいの選んだのにハーツに却下された。

諸君、貝殻は色々攻めすぎかもしれないがな、ヒナには少しお子様な感じなのに色があるっていう設定で攻めたかったんだ俺は! さらに、ローズは圧倒的なボディラインを持ち合わせているので貝殻が映える! 二人で同じ水着なら着るがわの人も少し着やすいのではないだろうか!

ハーツと一緒に水着を探していたら、すっかり辺りが暗くなってきた。


「やっと見つけた! お前ら早く来いよ! 宿でヒナとローズが待ってんだからよ! 」


ゼクサスに引きずられながら俺とハーツは店を出る。

俺達が泊まる宿は、真珠憩いという名の宿で、温泉付きの高級感溢れる宿だ。

俺達が部屋に入ると、


「おかえりなさい」


浴衣を着たヒナがいた。線が細く、触れたら消えてしまいそうなほどに美しかった。


「ローズさんならまだ温泉に入ってるよ」


「ん? あ、あぁ、そそそ、そうか」


ゼクサスの野郎、またヒナに見とれやがって!


「オイラ・・・明日死ぬのかな? 」


ハーツ感動中であります。

正直、俺も明日死ぬかもしれん。なぜなら、俺のどタイプの女の子が浴衣みたいなの着てんだぜ! 人生の運全部使い切った気がする。


「あら、やっと帰ってきたのね」


ローズも浴衣姿。

あぁ、神よ、ありがとう。地上に女神を創造したであろう神に手を合わす。


「そういえば、明後日この街でお祭りがあるみたいなよ」


「へ〜。なんの祭りなんだ? コミケとか? 」


「こみ、け? 多分シュウが考えてるのではないと思うわ。シャペルのお祭りは、この街を守っているとされる聖剣に感謝を伝える祭りなのよ」


「その聖剣って持ち主いるのか? 」


「いないわよ。」


「よし! 俺がその聖剣抜いたるわぁぁぁ! 」


俺はその場でキメ顔ガッツポーズをすると、ヒナが何かを思い出したように、


「そういえばね、そのお祭りの最後には聖剣を抜いてみてもいいみたい。誰も抜いたことないらしいけどね」


「大丈夫だよ、ヒナ。シュウは主人公なんだからね〜」


「ハーツてめぇ、バカにしてんな! 」


しばらくの間、俺達はわちゃわちゃしていた。


「明日、皆んなで海泳がない? 」


ヒナの一言で男全員の動きが止まった。

諸君、状況を一緒に整理しよう。銀髪ショートの可愛い系美少女と、ふんわりロングの大人の色気プンプンの綺麗系美女。この二人と一緒に海に行けるということは、必然的に水着姿を拝めるということなりぃぃぃぃ!

女の子とあまり喋ったことがない俺からしたら大事件である。


「いやらしいこと考えてるでしょ! 変態! どうせ男なんて、私なんかよりも綺麗で可愛い大人の女性の方が好きなんでしょ! ふん! 」


ヒナが頬を膨らませて怒っている。


「・・・・・・・・・」


え〜と、諸君、俺が何を思っているかもうお分かりだろう。可愛い子がちゃっかりヤキモチ妬いて怒っているのだ! とてつもなく可愛い!

ということを考えていると、ヒナの顔がどんどん赤くなっていく。

多分皆んな同じ俺と同じことを考えていたのだろう。その考えをヒナはスキルで読み取ってしまったて、かえって恥ずかしくなってしまったのだろう。


「もういい、おやすみ」


「おやすみ〜」


ヒナとローズは女子部屋へと行ってしまった。

俺達男子チームは、明日の楽園ことが頭から離れないので、一言も発することなく毛布をかぶり寝につく。


▪▪▪▪


俺はこの時に気付くべきだった。

何故、異世界なのに言葉が同じなのか。

何故、異世界なのに日本の文字と同じなのか。

何故、異世界なのに植物や動物の名前、料理名などが同じなのか。


俺がこの世界に来た時から既に、残酷な運命は動き出していた。

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