第3話 砂漠の街 オアシンバ


砂漠の街 オアシンバ



俺達の目の前には砂漠が広がっていた。

不思議な光景だった。何が不思議かというと、森が段々と枯れて砂漠になっているのではなく、急に砂漠が広がっているのだ。

まぁ異世界だもんな。


「てかゼクサス、お前さっきのセリフ王都についた時に言うやつじゃねーか! 」


砂漠に俺の声が響いていた。

それからしばらく歩いていたゆくと、


「なんだこれ・・・・・・」


俺達の目の前の地面には大型トラック三台ほどの大きな穴があり、そのまわりに人一人分の穴が沢山あいていた。砂漠にしてはおかしな光景だった。


「シュウは異世界人だもんねぇ〜」


ハーツがそう言いながら大きな穴に近ずいていく。そして振り返って俺に手招きをする。


「俺は高所恐怖症だから近ずかねぇよ! 穴がデカすぎて深いのがすぐ分かるんだよ! 」


俺が断固拒否って顔をしていると、


「シュウ、高いところ嫌い? 一緒に冒険出来ないね」


ヒナにそう言われてしまっては行くしかない! だってヒロインと冒険しないとかカス主人公やんけ!

そんな事でハーツの隣まで歩いく。


「オイラに怒んないでね〜」


ハーツはそう言い終わると俺の背中を思いっきり両手で押して俺を穴の中へ突き落とした。


「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ! 」


俺は誓った今度ハーツと会う時は俺はお前を殺すと。

落ちる感覚は不思議で意外と面白いものだ。パラシュート背負ってたらの話だけどね!

段々と下に落ちていくにつれ明るくなっていく、下に何かいる。その何かを見ようと怖い中必死で目に意識を集中していると、あともう少しで地面だった。


「いぃぃぃやぁぁぁぁ! 俺せっかく異世界来れたのに女の子とイチャイチャ出来ずに死ぬのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! クソがぁぁぁ! ・・・・・・って、あれ? 俺なんで浮いてんの? 」


地面から1メートルくらいの高さのところで俺の身体光の粒子を纏い、しばらくの間宙に浮いていた。そしてゆっくりと地面に降ろされていく。


「ようこそ。ここがオアシンバでございます」


「うあっ、びっくりしたぁ〜。こんにちは〜」


急に赤髪のお婆さんが声をかけてきた。八百屋さんの優しい婆さんみたいな印象だ。


「ところでなんで俺は浮いてたんですか? 浮遊魔法なんて存在しないはずですが」


「あら、お客さんはフライストーンという魔法石を聞いた事がないのかい? 」


「すみません。えーと、記憶喪失になっちゃいまして魔法とかの事は覚えてないんです」


異世界から来たとか言ったら間違いなく変な目で見られてしまう。何故なら主人公は異世界人だと仲間以外には話さないからね。


「それはまた可哀想にねぇ、こんな婆さんでも良かったら説明しましょうかい? 」


「お願いします」


婆さんが優しい顔で聞くもんだから嘘ついた罪悪感しかねぇじゃねぇか。諸君は分かってくれるだろ、俺は優しいって。


「魔法石は、人が使えないような魔法の力を秘めている不思議な石でねぇ、人が魔力を少し送ると魔法石は発動する。ちなみに、魔法石を埋め込んだ道具は魔法具と呼ばれとるんだよ。フライストーンはソナタがちょうど立っておるところに埋め込んでいて、あたしが魔力を送って落ちてきたものを浮かせていたんです。だいたい分かったかねぇ? 」


「はい。分かりました。ありがとうございます! 」


俺がそう言い終わると、


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! 死なないとしても怖ぇぇぇぇ! 」


ゼクサスが泣きながら降ってきた。それに続いてハーツとローズ、ヒナが落ちてくる。ヒナだけスカートなので、俺とゼクサスは必死でパンツを見ようとするが、もちろん中が見えないように両手でしっかりスカートを閉じていた。ゼクサスが諦めた瞬間、ヒナがフライストーンによりふわっと浮いた瞬間にヒナの手がスカートから離れ、純白の生地が見えた。


「うぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!女神が俺に微笑んだぁぁぁ! 」


俺が嬉しすぎて両手でガッツポーズを決めていたら、ゆっくりと降りてきたヒナがこちらに小走りしてきておもいっきりビンタを決める。


「グハァッ! 」


俺は穴の壁まで吹っ飛んでいく。


「ヒナのパンツ見たでしょ! 最低! 変態! 大っ嫌い! 」


ヒナは目に涙を浮かべて、真っ赤になって怒っている。俺が必死になってヒナに謝っていると、


「ね〜、ヒナさぁ〜。いつから一人称ヒナ、にしたの〜? 」


ハーツが弱みにつけ込むするようにニヤニヤしながらヒナに尋ねる。

確かにヒナは今まで一人称は私だったはず。


「うっ、そんなこと今関係ないもん! ヒナは私って言うもん! 」


察した。なんだろう、何かを察した。多分ヒナは怒ったり、本気で感情的になると一人称がヒナになるようだ。とりま可愛い。

諸君の中にぶりっ子みたいで嫌いと言う奴が一人でもいるなら俺は聞きたい。本当の自分を隠している子が、本当の姿を見せたとき諸君らは可愛いと思えないのか? 仮にぶりっ子だとして、それを隠していたらぶりっ子じゃない! 異論がある奴はヲタク達でぶっ倒す!


「実はねぇ、ヒナちゃんは〜」


ローズがヒナの頭を撫でながら続ける。


「大人の女性って感じを出したくてヒナって言うのをやめたのよねぇ〜♪ 」


「ローズさん! それは言わない約束でしょ! 」


男チームは何を思ったのか固まっていた。

俺には分かる。多分ハーツとゼクサスも同じ事を考えている、ヒナ可愛いと。


「ヒナ、好きだ・・・・・・」


皆んながゼクサスに驚きの視線を向ける。

今なんと? ゼクサスの野郎今なんて言った!


「・・・・・・・・・ゼクサス、やっちまったね〜」


ハーツが頭に手を当てる。


「ごらぁ! 先に言うんじゃねぇぇぇぇ! 」


俺は両手で頭を抱えて叫ぶ。

諸君は知っているか? 先に好きだって伝えた奴がその女子と付き合うというこの世のルールを、あとから好きだと言った奴は所詮、勇気の無い奴にしか見えないのだ。さらに、え〜後から言われても嬉しさ半減〜。みたいなことになっちゃうよぉ!

クソッ! 先に言われてしまった。


「えと、その、なんて言うか・・・ゼクサス本気だよね。なんで今なの? 」


ヒナは顔を真っ赤に染めて混乱している。その慌て方は嬉しかった時の反応じゃん!


「あ、あれだ! 仲間として好きって事だ! スキルは使うなよ! 別に嘘じゃないから! ははっはははは! 」


ダメだこいつ壊れた。流石に嘘やんけ。


「あの〜、お客さん。早くここからどいてもらっても良いですか? 次の冒険者が来てしまうので」


先程のお婆さんが申し訳なさそうに頼んできた。


「申し訳ない! よし! 皆んな先に進むぞ! 」


ゼクサスはさっさと歩いていく。相当気まずかったのだろう。

しばらく穴の中を歩いて行くと賑やかな声が聞こえはじめた。


「うぉー」


俺は驚嘆の声をもらす。

目の前には大きな街があるのだから。よく思い出してほしい、ここは穴の中、つまり地下だ。

粘土作りの建物がたくさん並んでいる。とにかく人が多い。冒険者や旅行者がよく来るのか、道が商店街みたいになっている。


「なぁ皆んな、せっかく砂漠の街 オアシンバに来たんだぜ! 何日か観光していこーぜ! 」


「オイラ、ゼクサスに賛成〜」


「私も〜」


「嬉しい! ヒナ、じゃなくて私も〜」


「大賛成! 」


ゼクサスが皆んなの意見をまとめ、四日間観光していくことになった。


「ヒナ〜、私達は別で服でも見に行かない? 」


「ローズさんは服選び上手ですもんね! 」


せっかくの観光なのに男だけかよ!

「俺らは武器と宿探しだな! 」


人混みはあまり好きじゃないが、色んな種族がいるのでこの街の人混みは案外悪くないものだ。色んな種族と言ったが、獣人、人の割合多め、獣の割合多め。ドワーフ、筋肉質な小さい種族。そしてここにはいないがエルフもいるらしい。あと悪魔も。


「へぇー。色んな形や色の剣があるんだな」


刃まで赤い剣など、ザ・異世界みたいな剣が沢山並べられている。


「おっちゃんこれおいくらだい? 」


「銅貨五百八十だよ」


「よし買った! ハーツの剣ボロボロだからな! 」


銅貨一枚で百円相当だ。銀貨一枚は銅貨千枚、金貨は銀貨千枚。そういう感じの金額設定の世界だ。俺はラッキーだと思う。何故なら、この世界と元の世界の言葉が同じこと、食べ物が似ていること、文字が多少似ていること。運が良いのかな? そんなことを考えているとゼクサスが急に話を振ってきた。


「シュウは剣に興味無いって言ってたよな? 」


「そんな事はない。エクスカリバーとか伝説の剣なら興味あるぜ! 」


かっこつけて決め顔をして親指を立てる。


「ね〜、ゼクサス。シュウはなんで剣への興味うすいのかな? 」


「ん〜・・・。そうだ! 魔剣と聖剣のこと教えたっけ? 」


何だそれ。魔剣と聖剣って異世界かっこいい武器あるあるじゃん。興味津々!


「教えてくれてねぇーよ! 」


ゼクサスが急に周りに視線を向ける。そして、


「その話は後だ。先に宿を探そう! 」


何だ? 周りに刺客でもいるのだろうと察し、俺たち男チームは宿を探し始めた。


「ここもダメだ。空いてる部屋がねぇ。よし! 次だ! 」


もうあれこれ八件の宿をまわっている。全部満室だった。ハーツと俺はやる気無し。

九件目に砂漠の月という宿屋に入った。


「すみません。部屋空いてますか? 」


「二部屋なら空いてますよ。一泊のみですか? 」


「三泊です! 」


「かしこまりました。それでは案内します」


この宿屋は一階がレストランになっており、上の階は全て宿になっている。外見は少しボロかったが建物の中は綺麗だし、しっかり整備されていた。


「ふい〜。やっと休憩出来るよ〜」


ハーツは部屋に入ると真っ先にベッドにダイブする。俺たちは荷物を片付けた後、剣の話の続きをした。


「ゼクサス。さっきの魔剣と聖剣の話だけどさ、途中でやめたろ? 刺客でも来ているのか? 」


「お前何言ってんだ? 話をやめたのは剣に詳しくない奴をパーティーに入れてると悪い噂がつかねぇためだ。誰もお前が異世界から来たなんて信じねぇからな! 」


「かえって恥ずかしいだろバカ! 変な勘違いしたじゃねぇか! 」


俺は頭の中で切腹した。恥ずかしかったから。


「まぁ落ち着けや。今から剣の説明するからちゃんと聞けよ! まず、聖剣は持ち主の持てる力を最大限に引き出すことが出来る。その聖剣が選んだ人しか持つことさえできない。そして持ち主の身体能力と精神力を少しづつ底上げする。次は魔剣だ。魔剣は持ち主を飲み込み、絶大な力を与える。魔剣の力に呑み込まれる奴は精神が狂う。だが、魔剣の力を自らの力として持てるものはより強くなっていく。だいたい分かったか? 」


「なるほど、魔剣も聖剣も半端な奴じゃ使えねぇってことか」


「その通りだ! どうだ? 興味湧いてきたか? 」


「当たり前じゃないか! 」


「よし! 明日魔剣と聖剣見に行こーぜ! 」


「えっ。魔剣とかってその辺で売ってんの? 」


落ち着け、まさか魔剣や聖剣がその辺の店に売っているわけがねぇ。だって伝説の武器だろ?


「売ってるよ〜ん」


急にハーツが会話に入ってきた。


「えーと、伝説の武器じゃないの? そんな簡単に手に入るもんなんだ」


「魔剣でも聖剣でも特に強い剣は武器商人でもギルドでもとれないから店じゃ売ってないよ。それに持ち主が強ければ魔剣も聖剣も強くなる。剣は成長するんだよ」


「なるほど。そういう感じか〜」


うんうんと頷いていたゼクサスが急に顔色を変えて言った。


「おい! そういえばヒナ達に宿の場所教えてねぇぞ! 」


やらかした〜。通信魔法みたいな魔法無いしこの世界。こんな大きな街でどうやって探すんだよ!


「あの〜すみません。声拡張魔道具でヒナとローズって人をこの宿に呼んでください」


ハーツが宿屋の従業員にヒナ達をここに呼ぶように頼んだ。その数分後、


《ヒナ様、ローズ様パーティーの方々が砂漠の月という宿屋でお待ちしております。》


すっげぇ大きな声がこの街に響いた。不思議と大きな声なのに耳が痛くない。魔法の効果だろう。

しばらくしてヒナとローズが合流した。


「おぉ! 遅かったじゃねぇかよ! 男しかいなくて退屈だったんだぜ! 」


ゼクサスが寂しかったアピールをしていたのを無視して、


「そんなことよりも、魔聖おばばいたのよ! ねぇ〜ヒナちゃん♪」


「良いでしょ〜」


「本当か!?この街にいるのか! 」


「よし。明日皆んなで行こ〜」


待て待て。魔聖おばばって誰やねん。

俺が話についていけてないのをスキルで理解したヒナが、


「魔聖おばばはね、この世に数人しかいない魔剣と聖剣の双剣使いなの! 運命の人を呼び出したり出来る人なの。気分上がってきちゃった♪ 」


ヒナが可愛くジャンプする。だが、今はそれどころではない! 運命の人を呼び出すだと!?という事はヒナが俺を運命の相手だと分かる日が来るのか!

嬉しすぎて俺は両手でガッツポーズをする。


「ねぇゼクサス。シュウに魔剣見せた? 」


? ゼクサスの野郎魔剣持ってんのか?


「悪ぃなシュウ。見せるの忘れてたぜ! 」


そう言ってゼクサスは右手を前に伸ばす。


「こい! 魔剣 イシェルヒィード! 」


するとゼクサスの影が動き出し、その影から真っ黒い剣が現れた。その魔剣を右手で抜くと、黒いオーラがゼクサスの右腕を覆った。


「これが俺の魔剣 イシェルヒィードだ! 」


ゼクサスが普段使っている剣とは違い、見るからに強い剣だった。


「良いだろ! イシェルヒィードの特性は俺が怒れば怒るほど俺の力を上昇させる! 」


「なんてかっこいいんだろう」


俺は、羨ましくて目から血が出るかと思った。

ゼクサスが魔剣を見せてくれた後、ヒナとローズは自分達の部屋に行き、俺達も寝ることにした。


「なぁゼクサス。お前のスキル、人と仲良くなれる。だったよな、そのスキルなら商売とかしてた方が楽じゃないのか? 」


俺は天井を見ながら言った。


「仕方ねぇんだよ。ギルドが、冒険者がかっけぇって思っちまったんだから。俺は小さい頃に森で迷子になって、泣いていた時にイシェルヒィードが寄り添うように現れたんだ。ふとその剣を握りたくなって、握ったんだ。すると剣のオーラが俺の体を覆って山を下りだした。それで俺は家に帰ることが出来たんだ。俺は一生この魔剣 イシェルヒィードを大切にしよう。そう思った。それでこのイシェルヒィードと冒険したくなった。ただそれだけの理由さ」


ゼクサスは遠くを見つめるような目で教えてくれた。


「魔剣って凄! 」


「そうだろう? 明日、魔聖おばばに会えたら帰りにシュウの剣でも買いに行くか! 」


「おう。ありがとな」


窓から見える景色は最高だった。

この街は地下にあるけど、地上に空いた穴から木漏れ日のように月明かりが降りそそぐ。美しい景色だった。

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