第2話 王都を目指して



王都を目指して




王都を目指して



緑色に光を放つ森の中。

俺は魔物狩りを沢山して剣の使い方が分かってきた。そして現在、魔物狩りナウ。ゼクサスは家が欲しくて空き物件を調べている。


「シュウ。ボケーッとしないの」


「へーい」


俺たちはゴブリンと戦っている。緑色で、鼻が長いキモイやつ。


「いっくわよー!」


ローズが大声をだしながらゴブリンとの距離を詰める。ゴブリンが斧を振りかぶった瞬間、素早く脇の下を抜け、背中に回り込み小型ナイフで切り裂いた。


「今回は私の手柄ねぇ」


皆んなが手柄を取られて悔しそうにしていると、


「おーい! 空き家が見つかったぞーー!」


ゼクサスが俺達の方に走ってきた。


「聞いて驚くなよ、それはな・・・・・・王都の中にある! 出発は明日の早朝だぁぁぁ!」


皆んなが凄く興奮しているなか、シュウはよく分からんといった顔をしていた。


「王都はね、オシャレで最先端。有名な人もいるの。皆んなの憧れなの、私すっごく興奮しちゃう」


頬を少し赤色に染めて言うので、可愛すぎてこっちまで赤くなる。可愛いなぁと思っていると、何故かヒナが恥ずかしそうに顔を赤くした。

? まぁいっか。そんな事より、


「ゼクサス、何で明日何だよ? もう少し金貯めてから行こーぜ」


「王都に行くにはここからだと山脈を越えなくてはいけない。その山脈はトカゲ山脈と言う」


ネーミングセンスが無いにも程がある。


「トカゲ山脈はリザードマンの巣がある。ざっと五万匹はいるだろう!」


げっ! リザードマンってスケルトンナイトとほぼ同じ強さなんでしょ。それが五万匹って絶望やん。俺は青ざめた顔をした。それを待ってましたの顔でゼクサスは話を続ける。


「だが安心しろ! この時期は奴らは大人しい。何故なら奴らの大好物の虫が大量に飛んでくる。俺たち人間には目もくれない」


「という事は!!今がチャンスじゃないか!」


「その通りだシュウ! 分かったら宿に戻って明日の支度をしとけ、朝は早いからな!」


てな事で今、宿屋に戻り、寝ようとしていた。


「うーん。なんか寝られねぇ」


俺は王都へ行くワクワクが止まらない。何故だか分かるか諸君! 王都といえば、ヒロインと愛し合う定番の都市ではないか! これはスローライフ確定かもしれない。そんな期待の性で寝れなくなっていたので夜風に吹かれる事にした。俺が部屋を出て、廊下に目をやると、別の部屋からヒナが出てきた。


「よう。何で起きてんだ?」


俺は片手を上げてヒナに声をかけた。


「私は王都が楽しみで眠れないから夜風にあたるの。シュウも王都が楽しみなの?」


ヒナが小首を傾ける。やばい、可愛い。


「当たり前だろ。王都といえば天国じゃないか」


君と暮らすためさ。なんて言えない。

月は、ぼやけることなく俺達を照らしている。


「ねぇ。屋根の上に行かない? 月が綺麗だから」


俺たちは二人並んで屋根の上、月を見上げてる。ロマンチックな展開だ。そんな事を考えながらヒナを見た。

綺麗だ。月明かりに照らされてヒナの顔はより一層美しくなる。何でだろうか、凄くその顔に見とれてキスしたくなってしまう。


「・・・・・・・・・」


どんどんヒナが顔を赤くする。恥ずかしすぎて目がうるうるしている。


「ごめんねシュウ。こんな事言いたくないんだけどね、私のスキルは人の考えてる事が分かっちゃうの。悪気は無いの」


マジかぁぁぁ。撃沈。恥ずかしいなコレ。皆のスキルをちゃんと把握するべきだったと反省する。


「なぁ、ヒナ。俺らのパーティーに攻撃出来るスキル持った人いないの?」


ヒナはそんな事か、みたいな顔をして答えた。


「いないよ」


マジか!! えっ? 俺らのパーティー雑魚くね!?


「そんな事ない。私達強いもん」


ちょっとムキになるのが可愛い。頬を膨らませて、ちょっと赤くなるのが、


「恥ずかしいからやめて。それに、ローズさんのスキルは爆破。凄くでかい爆破なの。大っきいの!」


さらに可愛い。自慢げに人の事を話すのが堪らない。癒されたし、寝るとしよう。


「まぁいいや。明日早いって言ってたから寝ようぜ」


「ん」


とは言ったもののなかなか寝る事が出来ない。とりま目でも瞑っているか。



「・・・・・・て、早くお・・・・」


誰かが俺の頭を叩いている。まだ外は暗いのに俺を早く起こそうとしている。もっと寝てたいと言おうとしたが、


「オイラの仕事だぁぁぁ!」


ハーツの声と同時に俺の腹に押し潰す様な痛みが走った。


「ゴラァ! なにしやがんだよ!」


俺は完全に目が覚めた。激おこ状態で。


「あらぁ、起きたじゃない」


ローズが俺のベットの淵に腰掛けている。部屋の中をよく見渡すと皆んなが俺の部屋に集まっている。


「あれ? 皆んな俺の部屋で何してんの?」


「お前起きるの遅せぇぞ! 明日の朝ははえぇって言ったろ!」


いやいやいや、外すっげー暗いけど!? 修学旅行初日の朝ですかお前らは! まぁいい、問題は誰が俺を攻撃したのか? それだけじゃ!


「誰が俺の腹に攻撃を仕掛けやがった!」


ヒナがそっと手をあげた。そして、


「私はただ、シュウの荷物を持ってあげようとしたの、そしたら、ハーツがオイラの仕事だぁぁぁって荷物を取ろうとしたからビックリしてハーツを吹っ飛ばしちゃったの。・・・私、悪い子?」


泣きそうな顔で弁解しないでくれよ、


「許すしかないじゃないか。ヒナは悪くないよ、全部ハーツのせいなんだね、任せてくれ」


「待ってくれよシュウ。オイラは吹っ飛ばされただけだから悪くない」


部屋から逃げるように出ていったハーツを全速力で追いかけて行った。

そんな事で俺たちの旅は始まった。

トカゲ山脈につくには三日間かかる。三日間は毎日早起きしてスライムを倒し、スケルトンも倒しす。魔物を沢山倒し、やっとの思いでトカゲ山脈に到着した。

今はだいたい午前三時くらい。リザードマンが大量にいるトカゲ山脈を見上げ、


「ここがトカゲ山脈か〜。普通だな」


「うん。普通だね」


「普通だな!」


男チームはそれぞれの感想を口にした。俺たちは早すぎる朝食を食べた。丸くて少し硬いパンとハム、赤い木の実。りんごに似ている。


「全員気を引き締めろ! リザードマンはリザードマン。俺らに興味がなくとも襲ってくるやつがいるかもしれない!」


「「「了解!」」」


「オイラも了解♪」


トカゲ山脈に道はなく、自分たちで安全なルートを探すしかない。休憩するには頂上付近の広いところに行く必要がある。今いるところは目的地の四分の一の高さくらいのところだ。


「あら。綺麗じゃない」


ローズの言葉に全員の足が止まる。


「わぁ、凄く綺麗です」


そしてヒナの声でゼクサス、ハーツ、そしてシュウが後ろを振り向く。

皆んなの視線の先では朝日が昇っていた。オレンジ色の光に照らされて、空が青くなり、雲が燃えている。下の方に見える村や平地を美しく照らしていた。夢のような景色だった。俺はヒナに、朝日が綺麗だねと声をかけようとして言葉が詰まる。


「わー」


ヒナが息を飲むように声をもらす。朝日に照らされたその少女はとても美しく、まるで女神のようだった。今はスキルを発動してないのだろう。こちらの気持ちに気付かずにいる。


「綺麗だな」


ゼクサスが珍しく弱々した声で囁いた。他の皆んなは聞こえないような小さな小さな声だった、俺にしか聞こえない小さな声。ゼクサスが小さな声で喋るなんて珍しい事もあるもんだなと思っていてふと気付く、ゼクサスの視線の先にはヒナがいた。ヒナを見つめるゼクサスの瞳は真っ直ぐで、とても綺麗だった。多分ゼクサスはヒナの事が好きなのかもしれない。何だろう、ムカムカしてくる。不思議な感覚を覚えてしまった。


「さて、速く登ろー。オイラ疲れてきちゃった」


ハーツの言葉で目的を思い出し、また山登りが始まった。休憩場所はまだまだ遠い。


「私もうダメ。疲れてきちゃった」


ローズがもう弱音を吐く。それもそうだ、この辺りは岩がゴツゴツしているうえに、表面の石を踏むたびに石が転がり足を滑らせてしまうので、転んで怪我をしないように集中しないといけない。そのため、精神的にも身体的にも疲れてしまう。


「うわっ!」


ヒナの声が左後ろから聞こえた。俺たちは、ゼクサスを先頭に、右側にハーツ、左側にローズ、少し遅れて俺がついて行き、俺の左後ろにヒナがいる構成で歩いていた。俺たちは一瞬で後ろを振り向く。

ヒナがゆっくりと崖下に落ちていく。俺は全速力で走るが、俺の動きも、世界の動きもゆっくりと流れている。今から自分に身体強化魔法をかけても間に合わない。シュウは諦めているような絶望的な顔をしていた。

もうダメだ、間に合わない。俺は前からそうだった、怖っている人がいるときずっと何も出来なかった。そして今も誰かを助けられない。

シュウはもう諦めていた。その横をゼクサスがありえない速度で走り抜ける。その瞳には何の曇りも無く、何の考えも無い。純粋に何かを守ろうとする目だった。


「ヒナァァァぁぁぁあ!」


ゼクサスは、喉を奮わせ叫ぶ。そして崖下に落ちかけていたヒナの手をしっかりと強く掴んで、自身も落ちないように片足を軸に回転してヒナを助けた。

俺は安心感と悔しさに呑まれた。ヒナが助かって良かったという安心感。自分にはヒナを助ける事すら出来なかった悔しさ、ゼクサスの絶対に諦めない心。それが自分には持てなかった事。しばらくの間俺は黙って皆んなの後に続く。

そんなシュウの側にヒョッとヒナが現れた。


「辛そうで、悔しそうで良かった。私が死にそうだったのに目の前で諦めるんだもん。それに・・・」


俺を罵るのか、当たり前だよな。諦めたんだから。


「悔しい思いをできたから、次また誰かが危ないとき、今度は全力で助けられるね」


そう言い切るとヒナは、初めて歯を見せて微笑んだ。内気な子が見せる笑顔は何とも優しい笑顔だった。


「おい、お前ら後ろでなーにお喋りしてんだっつの! ヒナなんか久々に笑顔でよ!」


ゼクサスがなんか嫉妬してる気がして可愛く見えてきた。ゼクサスも分かってるんだろうな、自分の心がヒナには伝わっていることが。そんな事を考えてるうちに休憩場所である頂上付近の広ろい平地に到着していた。


「オイラお腹ペコペコさぁ〜」


「あぁ、俺もだよ」


男チームが寝転んでいる間に女チームが食事を作り始めた。諸君は料理手伝えって思うかもしれない。だが一人でも手伝い始めると全員が手伝うことになる。それが意味することは女の人達だけで作ってくれる料理ではなくなってしまう。男が作った飯は求めていない。俺はな!


「皆んな疲れてるだろうからさぁ〜、オイラも手伝おうか? 」


シュウとゼクサスは目を合わせて頷き合う。ハーツを後でボコボコにしようと。


「ハーツありがと」


「あらぁ、ハーツはやっぱり優しいのね。他の二人と違って」


「何言ってやがる! 俺は手伝おうと思っていたぞ!」


ゼクサスの野郎すぐにそっち側にいくんじゃねぇよ。


「俺は魔物が来ないように警備してるつもりなんだよね」


「シュウ。やっぱり男の子」


ヒナに男の子って言われて俺がニヤーっとしていると、ゼクサスから刺すような視線が飛んでくる。


「・・・ゼクサスも手伝うの偉い」


「ぅ」


ゼクサスは照れすぎて俯いたが、俺に視線を向けてからドヤ顔をかましてきた。どうやら完全に宣戦布告されているようだ。

皆んなで昼食を食べ終わり。今度は山を下っていく。


「下り坂は楽で良いねぇ〜」


「私も同じ考え〜。長い旅だったわよね」


ハーツとローズの気の抜けた喋り方に何だか落ち着く。なんだかリザードマンに襲われる可能性ももう無いみたいな会話だな。

旅が終わったかのようなときに言うセリフだ。


「おい! なんだか後ろから嫌な感じがするぞ! たく、お前ら俺の悪口でも・・・・・・」


ゼクサスがそう言って後方の俺達を振り返り言葉を途中で止める。顔は真っ青になり、涙目になっている。


「ゼクサス。どうしたの? 私達の後ろに何かいるの?」


ヒナがゼクサスの視線を追う。


「何アレ?」


「何かしら?」


俺達のずっと後ろに砂埃が舞っている。


「オイラ達の方に待ってきてるね。最悪すぎ〜」


ハーツが何ともないように言った瞬間、


「ありゃ、虫だ! 虫の群れだぁぁぁあ!」


ゼクサスはそう叫ぶと走り出した。


「あ〜、ゼクサスは虫が苦手なんだ。魔物や対人は強いんだけどねぇ」


「えっ、マジで! ハーツ本当か、あのイケメン野郎の弱点は虫なのか?」


「うん。そだよ」


よし勝った。絶対勝った。ヒナは俺のヒロイン決定だぜ。ゼクサスとヒナを巡って勝負するとき虫を用意しよう。

俺はは小さくガッツポーズをする。それを見ていたヒナが、


「シュウ最低。人の弱いところを突くなんて」


最低と言われて崩れ落ちる。


「やばいよ〜! オイラ達の方に虫が来るってことは・・・・・・」


ドドドド! ドドドド!!

大地が揺れ始め虫の群れを追うように赤い塊がこちら側に近ずいてくる。


「あらヤダ! リザードマンじゃないの!」


赤い塊はリザードマンの群れだったのだ。シュウ達は我先に走り出した。


「いやーーー! 来ないでぇー!」


シュウがまるでおネエのような声で叫ぶ。

皆んなは走り続ける。気が付くと先に逃げていたゼクサスに追い付いて山から二キロ程離れた森の中に疲れて倒れこんでいた。ゼクサスは前方を見てボケーッとしていた。

数秒後、手前の草木を掻き分けこう言った。


「やっとついたぜ、ここがあの・・・・・・」


俺達の先に広がっていたのは大きな砂漠地帯だった。

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