腕試し


 迷宮討伐隊の案内で、2つ目のダンジョンの10階層まで最短で来る事が出来た。


「ありがとうペイン兄ちゃん」

「おうっ! ミカをよろしくな」


 迷宮討伐隊に同道してる護民官のペインとは、ここでお別れ。


「あんまり危ないことさせんじゃねえぞ」


 迷宮討伐隊の本隊、ペインの親父さん率いる最深部の攻略をしてる大隊が地上に戻るから、それと入れ替わりで70階層に作られた拠点の防衛の為と、攻略最下層からの撤退戦の予備兵力として向かうらしい。


 護民官のペインがついて行くのは、たとえ軍人でもレグダに住む市民で、一人一人が護民官の護るべき対象の民だからなんだと。


 最深部を攻略してる大隊には、ルピナスさんの父親、ペインの義父が同道してるらしい。


「そんな事言うなら村に預けるなよ、大変だったんだからな」


「はははっ、わりぃわりぃ。んじゃな」


 俺達4人、トム、シャロン、ミカ、俺の4人は、階層主を倒さないと先に進めないから、ここでお別れ。


「ライにい、さっさと倒して次の階層に進むんだろ?」


 トムは早く階層主のジャイアントボアと戦いたいらしい、ジャイアントボアくらいじゃ、今のミカでも余裕なんだろうけどな……


「遠距離から一方的にぶちのめしてやれ、トム、シャロン、お前達は手伝うなよ」


 ここに来た理由はミカの腕試しだからな。

 ミカの頭をわしゃわしゃしながら、どうすれば良いか助言したんだけど……


「髪型が崩れるから触らないで」


 ミカがプンスカ怒りつつ背負った弓を構えて、少し遠くに見える、地面を鼻で掘ってるジャイアントボアに向かっていった。


「キングボアと比べたら、あんなのまるで赤ちゃんだわ」


 ボソッっとミカが呟いた一言、その通りだと思う。


 村の周りで出てくるボアってのは、キングボアと呼ばれる、小さくても5mくらいはあるデカいイノシシで、ジャイアントボアなんて名前の階層主は、大きくても2mくらい。


「さっさと30階層まで進んで森魔狼の皮が欲しいな」


 一応だけど、目的は30階層の階層主、森魔狼の大規模な群れなんだ。ちびっ子3人は森魔狼の皮を手に入れて鎧を作ってもらいたいらしい。


「危なくなったら助けに行けよ」

「大丈夫よライにい、私達がどれだけシゴいたと思ってるの」


 確かに、村での特訓は見ててヒヤヒヤする事ばっかりだったし、それに、妹からもとんでもない弓を貰ってたミカ。


「魔力をお腹の下の方で練って……背中を通して……腕に回す……」


 妹から「グッと溜めて、ボワっと通して、グワンって流すの」なんて、訳の分からない説明をされて、それでも真面目に覚えようと努力したミカ。


 銀級位の弓士じゃ扱えないくらいの弓を、今じゃ軽々と引くことが出来るようになってる。

たぶん才能があったんだろうな……


「てかアイおばちゃんもやり過ぎだよな、初めての弟子だからって天魔弓あげちゃうとかさ」


 アイリーンから貰った弓を構えて、魔力で作り出した矢をつがえるミカを見て、俺もやり過ぎだと思う。


「あれって魔将軍を仕留めた弓よね」


 勇者と魔王の戦った時代、人魔大戦期に六魔将と呼ばれた魔族の将軍の1人を仕留めた由緒正しき名弓で、村の倉庫でホコリ被ってたやつなんだけど……


『良い物を使いなさい、私の教え子がしょぼい木の弓なんてありえないわ』


 勇者パーティーの弓士が使ってた弓で、勇者マニア垂涎の品。出す所に出せば、相当な値段の付きそうな弓を、どうせ誰も使わないからとミカに持たせたアイリーン、村の大人も「引けるなら持って行って良いんじゃね?」なんて簡単に言ってくれた。


「なっ、大丈夫だろ。あんなの余裕だよ余裕」

「あの威力で誤射されたら痛そうね、集団戦になったら背中に障壁を張らないとかな」


 50mくらい離れてる1番大きなジャイアントボアが爆散してしまった。

 爆散したジャイアントボアを囲んでた、少し小さ目のジャイアントボア達は、何が起こったのか分からないまま、次々とミカの手から放たれる矢に貫かれて、これまた爆散していく。


「次の階層に進む前に、これからの注意点をいくつか教えておく」


 次の階層はゴブリンやオークが主体で、階層を進む事に大規模な集団戦になっていくらしい。


「集団戦になる可能性があるから周りの警戒を怠るな、だろ?」


「先に言うんじゃない」


 生意気だな……模擬戦のあとから、ずっとこんな感じで俺に突っかかってくるトム、まあカンチョーなんかした俺が悪いのはわかってるけどやりづらい。


「ライにい、本当に危険な時はミカをよろしくね、私はトム優先で守るから」


「ああ、危険だと判断したらそうする」


 ミカが俺達の待ってる所まで帰って来る間に、ちゃんとポジションを決めておいた。


 前衛がトム、トムのすぐ後ろにシャロン、少し離れてミカ、その真後ろに俺って並び。


 俺は3人のサポート役に徹するつもりだ。


「はい、お肉。他にも大きなお肉の塊が出たわ。私1人じゃ運べないから手伝ってよ」


 肉はありがたいな、全部まとめて護民官家ルピナスさんちに寄付して行こう。


「ドロップ品を拾って、下るか」


「うん」


 少しくらいは味見してみようかな。




 11階層から先に出て来るのはゴブリンとオークが主体。


 他所のダンジョンなら2階層3階層みたいな入ってすぐの階層に出て来るゴブリンが、なんでこのダンジョンでは11階層を越えないと出てこないのかと言うと……


「シャロン、浮かんでる魔法陣は火属性だろ、もっと注意して魔法を選べ」


 立派な杖を構えて魔法を打ち込んで来るのはゴブリンシャーマン、鉄級上がりたての魔法使いくらいのレベルの魔法を打ってくる。


「トム、全部弾かなくていい。後ろに影響がなければ避けて構わない、大きく動き過ぎだ」


 その横に並んでゴブリンアーチャーが三体、アイツらも普通の狩人が使いそうな弓を持ってる。


「ミカ、当たらないなら無駄打ちはするな。前衛の補佐の為に牽制するならもっと効果的な場所を考えろ」


 トムの前で大きな盾を構えて、トムの長巻きから味方を守りつつ、後衛の火力を最大限に発揮させるために耐えるゴブリンソルジャー達、上等とは言えないような錆びて汚いフルプレートメイルを着込んでるけど、持ってる大盾を使って上手くトムの攻撃をいなしてる。


 このダンジョンに出て来るゴブリンは全て上位種と言われるゴブリンなんだ。


「早く倒さないとオークも来てるぞ」


 オークだって馬鹿に出来ない。


 普通のオークなんて、素っ裸でせいぜい棍棒くらいしか持ってないけど、このダンジョンに出て来るオークは青銅製の武器を持ってる。


「ライにい、オイラじゃ無理だ。1度手本を見せてくれよう」


 仕方ないな、さっきまで鼻息荒く先に進もうと言ってたトムから泣き言が出たか……


「合図したら俺の場所までダッシュしろ。行くぞ3・2・1……今だ」


 それもそのはず、トムの目の前に居て、後衛を守ろうと必死になってるゴブリン達の顔つきは、外で見つけたら注意して対応しないといけないくらい精悍な顔付き。


 どいつもこいつも群れを率いるボスみたいに、周りのゴブリンを守ってやるぞって気合い十分な顔付きだな。


「ピーガン」


 身代わりの依代の効果は確認済み。


 威力指定せずに通常の威力で放てば、俺には全く影響が無い。


「モスキートン。ナメッシー中規模、粘度最大」


 カユカユ魔法も通常威力で十分。後衛のアーチャーやメイジの動きを阻害できるだけでいい。


 あとはヌルヌルをベトベトに変えて、密集陣形のソルジャー達をくっ付けてやったら完了。


 あとはダンジョンモンスターだから、遠慮なく使わせてもらう。


「サルモネラー」


 もちろんエストックに纏わせて、腐り魔法を纏ったエストックでゴブリン達の頭を一突きしていく。


「こんな感じだ」


 ソルジャーを一気に仕留めて、痒みでのたうち回ってるアーチャーやメイジに一気に詰め寄って4体の腹を突いて一気に腐らせる。


「なんだよそりゃ、何してるかわかんないだろ」


 まあ魔導書を使えば、こんなの軽作業だな。


「んじゃ次は魔導書無しでやるから見とけよ。シャロン、とりあえずベトベトしてる所に水魔法を打ち込んでくれないか、大きな水球で良いから」


 次はオークだな。向かってくるのは5体。



 ゴブリンからドロップした魔石を拾ってる俺を見付けて咆哮を上げながら襲いかかって来る。


 このダンジョンのオークとゴブリンは常に敵対してるんだ。ダンジョンモンスター同士で争うなんて不思議な場所だけど、外の世界でも似たようなもんだし、あんまり気にしない。


 自分達が仕留めるはずだった獲物ゴブリンを奪われて発狂してるオーク達。

 こいつらの分厚い脂肪にエストックは相性が悪いから、短剣に持ち替える。


「良いか、青銅製の武器だからって受け止めて反撃してやろうとするなよ」


 武器の性能差で青銅製の武器なんて真っ二つにできるけど、飛ばした部分が何処に飛ぶなんて予想もつかないから、できるだけ打ち合う事はせずに避ける。


「先に後衛から倒せ。援護射撃さえなければ普通のオークだ」


 一気に走りよって前衛のオーク三体をサッと交わして、少し後ろで魔法を使おうとしてるオークメイジに一気に詰め寄る。


 オークメイジだって持ってる杖で殴りかかってくるけど、脇の下を通り抜けて後ろに回って延髄をひとなで。


 もう一体のオークメイジに向かって、切り付けたオークの体を蹴り飛ばす。

オークメイジがギョッとした所を喉元をひとなでで、これで2匹仕留めた。


 あとは簡単。重たくて大きな青銅製のハンマーや斧を振り回すオークなんて、練習にもならん。


 こんなのペインとの模擬戦に比べたら緊張すらせんよ。


「避けて一撃、避けて一撃、避けて一撃。こんな感じだ」


 ゴブリンやオークとの連戦を見て、ちびっ子3人の目が輝いてた……


「なんだよライにい。ライにいってめちゃくちゃ強いじゃないか」


 めちゃくちゃって程じゃないぞ。ゼルマ先生の方がよっぽど強かったし。


「あんなのに突っかかって行くなんてトムはバカよね。私なら教えを乞うわ」


「ねえ……やっぱりあんた達って異常よ……あんなの兄ちゃん先生でも無理よ……」


 三者三様、面白い反応だな。


「良いか。階層1つ下る事に、一度に出て来る数は倍になるんだからな。集団戦が無理と思うなら、大人しく外の森で森魔狼を探した方が楽だぞ」


 20階層では、オークとゴブリンの大規模な戦の中に入っていかないとらしい。そいつらを全部殲滅して、やっと21階層への階段が現れるって教えてもらった。


「何言ってんだよ、出来るようになる為に来てんだから、出来るまで帰んないぞ」


 生意気だな……少しくらい怪我した方が良いのかな?


 そんな事を考えつつ、小さな魔物が苦手だった学生時代時代を思い出して、少し懐かしい気分になった。

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