廃墟階層


 村のちびっ子2人とペインから預かったちびっ子を1人引き連れて、泊まりで3日目……


「魔石の場所は似たようなスケルトンでも違うんだから、一体ずつちゃんと場所を調べろよ、無駄に骨を砕くんじゃない」


 一気に20階層くらいまで潜るつもりだったのに……


「ライにい、普通の子供にそんな事なんか言っても、見えてるわけないだろ?」


「魔力読みもだけど、体の動かし方すらマトモに出来て無いわ」


 村のちびっ子代表の2人、トムとシャロンはまだいい、不死者への対応もそれなりだから。


「見えてても届かねえんだよ。あほ面引っさげて観てないで手伝えよ!」


 ペインから預かった子供、迷宮攻略隊見習いの更に見習い。


 先日カルロさんが短剣を購入したガキンチョ、狐獣人のミカ11歳女の子の指導もしながらのダンジョン攻略中。


「この間売った短剣を自分で使ったら良かったんじゃないか?」


 10階層の廃墟階層で先に進めず困ってんだ。


「だから、観てないで手伝えって!」


 10体くらいのスケルトンなんか1人でどうにかしてくれないと、20階層の古城階層なんて、どうやったって無理だから、厳しく指導してるんだ。


「刺し傷くらいなら治してやるから、さっさと倒せよ。早くしないとスープが冷めちゃうだろ」


 獣人特有の動きの素早さで囲まれる事はないけど、頭蓋骨の中だったり、肋骨の中心だったり、肩甲骨の裏だったり、それぞれに違う場所に魔石のある、スケルトンに苦戦中。


「ライにい、冷める前に食べたいから手伝って来るよ」


「ちゃんと手本になるようにな」


 俺の持ってる短剣と同じくらいの長さの鉄の短剣を1本抜いて、トムがミカの手伝いに行くと……


「やっと来た! 何してんのよ、早く来てよ」


 安心した表情になる……


 それもそのはず、たかだか錆びた槍や朽ち果てそうな長剣を持った遠距離攻撃も出来ないスケルトンなんか、トムにとっては練習用の立木となんら変わりないから。


「全部オイラが倒したら練習にならないだろ。ミカじゃ手強そうな槍持ちだけ倒すから、残りは自分でやれよ」


 今年で12歳になるトムなんだけど、背はミカやシャロンより低くて、魔力の総量もミカより少ない。


 でも体の使い方に圧倒的に差がある。


 自分の考えた通りに体が動くって言えば良いんだろうか、自分の限界をちゃんと分かってるって言えば良いんだろうか、俺も小さい頃はトムみたいな感じだったなと、懐かしくもある。


「シーフなんだから動きを止めてどうすんだよ。もっとチョロチョロ動き回ってチクチク攻撃しなきゃだろ」


 手本を見せるように、横の動きを使って槍持ちのスケルトンに近付いて行くトム。スケルトンの体にピッタリとくっつきそうになったら、一気に加速して後ろに回って肩甲骨の裏にある魔石を一突き。


「今みたいな感じでやれば大丈夫だから」


 面白いのは、ミカに指導するトムを見つめてヤキモキしてるシャロンかな。


「あ〜……くっつくな。もっと離れろ……女狐め!」


 最近のガキンチョはませてんなって思う。


 ミカに自己紹介する時に「トムのガールフレンドのシャロンです」なんて自己紹介してたもんな。


 トムが少し顔が引きつってたのが印象的だった。


「ライル君、あと2時間くらいで階層主も復活するらしいから、そろそろ準備しようか」


「カルロさん、申し訳ないです。お使いなんか頼んで」


 カルロさんには階層主の順番待ちをしてる列に2日間並んでて貰った。

 俺とカルロさん2人だったら、列に並んでのんびり過ごしてたはずなんだけど、今回はちびっ子達を鍛えるのが目的の半分だから、今の状況も仕方ない。


「ううっ……私の尻尾が……」


 汗や埃でドロドロになって縮んでしまった尻尾を気にしてるミカ。トムに治癒魔法を掛けて貰いながら、涙目でブラッシングしてる。


「毛繕いなんて外に出てからやれよ。それより腹ごしらえの方が大事だぞ」


 トムはまだ、色気より食い気らしい。

 作ってあった魔物肉のシチューを啜りながら、肉の塊が付いた骨にかぶりついてる。


「階層主は俺とカルロさんで倒すから3人は見学な。出来る限り、技を見て盗むように」


 ソルジャースケルトンとスケルトンメイジの混ざったスケルトン達との集団戦になるから、3人は見学。

 俺とカルロさんで30体のスケルトン軍団を相手にするつもりなんだけど……


「私が参加すると拳圧だけで吹き飛ばしてしまうから、ライル君1人で殺ってくれないかな?」


 そんな事を言われてしまった。


「それならしょうがないですね。それじゃ、ちびっ子達の護衛をお願いします」


 まっ、動きの遅いスケルトンなんか何体居ても大丈夫。ゴブリンの集団の方がずっと面倒臭いもんな。


「お茶でも飲みながら見学させて貰うよ」


 



 結局、なんでこんな事になったのかって言うと、俺が不用意に「暇な時にな」なんて言ったのが原因。


 トムとシャロンに短剣術を教えるのに「どうせならダンジョンにでも行ってきたらどうだ?」なんて言ったトムの親父さんの余計なお世話一言も原因の1つ。


 そんな事を考えながら、階層主の待つ割れたレンガの散らばる廃墟に入って行く。


 崩れた壁の外から4人は見学中。


 ダンジョン外で出会っても、スケルトンくらいならどうとでもなる。でも、ダンジョンの中なら少し倒し方を工夫しないとなんだ。


「余計な攻撃を加えて形を崩して倒すと、ドロップ品がしょぼくなるから気を付けろよ」

 

「「はーい」」


 スケルトンの体力が10だとしたら、10きっちりダメージを与えて倒すとクリティカルドロップがあるんだ。

 それを達成するにはスケルトンの体の何処かにある魔石を抜くのが1番簡単。


「ソルジャーみたいな鎧持ちは最後に回して!周りのザコから順に倒して行くからなー」


 そんなに動きの早くないスケルトン達を、一体ずつ魔力の流れを探りつつ、魔石を抜いて倒して行く。


 攻撃をいなすのは短剣を使って。骨の裏に隠れてる魔石を取り出すのも同じ、短剣を使ってテコの要領で骨をこじ開けて魔石を抜く。


 そんな、魔石を抜かれて崩れ落ちるスケルトンを見て。


「うひょー綺麗に倒すな、ライにいカッコイイぞ」

「あれくらいならトムもできるでしょ?」

「なんなのよあんた達、あんなの異常だわ」


 そんな事を話すちびっ子3人の会話を聞いてる。


「私だったら一度に全て殴り壊してしまいますがね」


 カルロさんの呟きは無視しよう。


「肋の中に魔石が入ってるスケルトンは、後ろから手を入れて抜いてやれば安全だからなー」


 因みに、階層主戦は他の冒険者達にも見られてる。

と言っても、見てる冒険者達の殆どは鉄級、もしくは銅級に上がったばっかりの若いヤツ。


 目端の利く奴は、俺がちびっ子達にしてるアドバイスをメモに取って、自分達の戦いに活かそうとしてるし、スケルトンの攻撃をいなす姿を見て、同じ様に動いてみたりと色々だ。


 因みに、スケルトンは確定で魔石をドロップする魔物なんだけど、綺麗に魔石だけ抜いて倒すと……


「鎧の中に魔石がある時は鎧の金具や皮のベルトを壊して脱がしたら良いからな」


 最後の一体、スケルトンソルジャーの胸当てを、肩の所で繋いでる皮のベルトを切って脱がした後、胸骨の中心に付いてた魔石を奪って30体終わり。


 階層主のスケルトン軍団を全部綺麗に倒すと……


「ライにい、宝箱出てるよ!」

「私が開けたい!」

「何コレ……銅級のくせに、なんでこんな事が簡単に出来るのよ……」


 トムの言ったように、スケルトンソルジャーが崩れ落ちた場所に宝箱が出現するんだ。


「シャロン、罠は掛かってない筈だから開けてみるか?」

「ライにい、いいのっ!?」


 声を掛けたら、一瞬で飛び上がって宝箱に縋り付くシャロン……


 宝箱に頬擦りするシャロンの表情は欲に目がくらんで歪みきってる。


「なーんだ、ちょっと綺麗なネックレスじゃん。どうせなら武器が良かったな〜」


 のくせに、宝石の付いたアクセサリーには興味が無いようだ。


「1度上に帰って鑑定して貰おうか、次のパーティーが待ってるから早く出よう」


 カルロさんの言う通り。この場に留まってたら階層主が復活しないから、早く退散しないと。





「ミカ、どうだった、上には上が居るもんだろ?」


 レグダに滞在してる時は護民官の屋敷にお世話になってる。それの対価に、ミカを預かって指導してたんだ。


「兄ちゃん先生より綺麗に倒してた……」

 

 俯いてペインと話すミカなんだけど、少し寂しそう。


「まあ、ペインは綺麗に戦うと言うより、強い敵と豪快に戦うって感じだから、雑魚い魔物なんかじゃペインの実力は発揮出来ないよな」


 これは事実、在学中に冒険者コースの先生にクリーンヒットを入れたのは、同級生の中ではペインただ1人だったから。

 相手が強ければ強いほど、ペインもそれに合わせて強くなる不思議な奴なんだ。


「兄ちゃん先生、それってホント?」

「さあ? 自分の事は自分じゃ良くわからん」


 そんな事を言いながら、ミカの頭を撫でてるペイン。数年前のペインを知ってるから、今のペインが別人に見えるのは仕方ない。


「4年間背中を預けてた俺が言うんだからホントだよ」


 とりあえずフォローしておこう。


「ライにーい、飯が出来たらしいよー。早く食堂に行こうぜー」


「ああ、今行く」


 今回納品したのはジャイアントリザードのバラ肉の塊。総重量500kgの肉の塊をカルロさんの魔法鞄に入れて持って来た。


「ミカ、今は腹いっぱい食って明日に備えろよ。20階層まで進みたいんだろ?」


「うん」


 ペインとミカのやり取りを見てたら、ペインは軍人なんかじゃなくて、先生になって正解だったと思う。

 

「ほんとに護民官ぽくなったよな」


「言わないでくれよ、俺もまさかこんな事になるなんて考えても無かったんだからよ」


 食堂には50人間以上の子供達が集まってる。

 それぞれに分厚いステーキを目の前にして、目をキラキラ輝かせながら。


「ダズが見たらなんて言うかな」


「さあ? アイツの事だからスルーしてくれるんじゃね?」


 そんな俺達の会話を誰も気にしてない。


「さーあ、あんた達、カルロさんとライルさんにお礼を言ってかぶりつきなさい」


「「はーい。カルロさん、ライルさん、美味しいお肉をありがとう。いただきまーす」」


 目の前に置かれた肉に釘付けだから。


「なあ、後で少しやるか?」


「明日は早朝から10階層まで一気に走るし、少しだけならな」


 右手で杯を呷るような仕草をするペインに、少しだけって答えて、オオビコ草の根を食べとこうと、腰に付けた魔法鞄から取り出して、ステーキと一緒に美味しく頂いた。


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