目的のブツ


 ちびっ子3人が、それぞれソロで10階層の階層主を撃破出来るようになるまで1週間くらい掛かった。

 そんな中で、トムとシャロンはクリティカルドロップ品を手に入れられたけどミカは無理だった。


「悔しい……悔しい……」


 11階層を散策する間、ずっとトムとシャロンを睨んでブツブツ呟いてたミカだったけど、今回の散策で初めて見付けた宝箱を3人で開けたら機嫌も治ったみたいだ。


「なあライにい、これって何?」


 宝箱から出て来たのは植物の種。


「カルロさん、なんでしょうコレは?」


 俺だって分からない種なんかいくらでもあるし、希少品を商ってたカルロさんに聞く方が早い。


「流石に種だけ見てもなんの植物かまでは分からないよ、上に戻ったら鑑定して貰おう」


 そうですねって答えて散策再開。ちびっ子達は、美味しい果物の種だったら良いななんて話してる。


「あそこの角を曲がったらゾンビが居るぞ、今回は誰が行く?」


 音で判断するに、動きの遅いゾンビが三体。ちびっ子達でも十分倒せる筈だから任せてみよう。


「ライにいがお手本見せてよ」

「ゾンビには触りたくない」


 いちおうだけど、ミカに倒し方でも教えとくかと考えて。


「短剣使って倒すからよく見とけよ、普通だったらゾンビの攻撃範囲外から一方的に叩ける武器を使うのがオススメだ」


 周りの警戒はカルロさんに任せて、背中に付けてる短剣を1本だけ抜いて、体の力を抜きつつゾンビの前に出てみた。


「こいつらには頑強さなんて無いから、肌がむき出しの所から切断して行くのが良いぞ」


 襲いかかって来るゾンビの真上に飛び上がって、靴で頭を踏む、1体目は頭を砕かれて、何も出来ずにドロップ品に姿を変えた。


「もっと普通に倒してくれよ、オイラのサンダルじゃ汚れるから無理だろそれは」


 苦情を言われてしまった。


 仕方ない、腕を振り回して体ごと覆いかぶさろうとしてるゾンビを横からすり抜けて、背後から首に一閃、ごとりと音を立てて首が落ちたらドロップ品に姿を変えた。


 最後の一体の目の前に大きく1歩踏み込んで、前蹴りで1度吹き飛ばして、ゾンビの体勢を崩してから、こいつも首を一閃。


 三体ともドロップしたのは毒のある歯で、一応売れるから拾っておいた。


「なあライにい、オイラ達の体格も考えてくれよ」


 トムはダメ出しが多いな。


「とりあえず、やってみろ。まだ奥に4体居るから3人でな」


 20階層まで一気に行きたいけど、なかなか先に進めない。

欲しいものは20階層の階層主がクリティカルドロップで落とす物なのに。



 20階層まで降りるのに更に2日、殆ど探索はせずに、最短コースを一直線に来たから、この日数で済んだけど、探索しながらだと数倍は掛かってただろう。


「ここは俺が1人でやるからな。お前たち暇なら雑魚と遊んでていいぞ」

 

 ここの階層主は1体だけ、リビングアーマーって魔物なんだけど、持ってる武器が毎回違うらしい。

 今回は半身が隠れるラージシールドとショートソード。


「ライル君、クリティカルドロップを狙うなら鎧には傷を付けちゃダメだよ」


「はい、もし出なかったら、出るまで周回するつもりなんで、カルロさん、ちびっ子達をよろしくお願いします」


 さあ、集中しよう。魔力の流れが読みにくいリビングアーマーだけど、鎧が擦れる音で動きは判断出来るんだから。


 階層主のリビングアーマーが直立不動で待つ、古城の正門、この門を潜れば、ここから先の階層は多種多様で広大な敷地を持つ様々な城が待ってる。


 俺の目的はココ。だから先の事はどうでもいい。


「じゃ、行ってきます」4人に声を掛けて走り出す。


 もちろん魔導書だって何時でも発動出来るように腰に装着して。


 リビングアーマーは感知出来る範囲に生物が侵入したら動き出すのが基本だ。

 目の前のリビングアーマーの感知範囲は20mくらいだろうか、ちびっ子達に見せる為に短剣を使って倒さないとだから、普段ならしない事をやらないといけない。


「足止めするのは小さい落とし穴でも良いからなー」


 俺は普通の魔法が使えないからヌルヌル魔法だよ。

リビングアーマーの足元にヌルヌルを薄く敷いてやる、1歩踏み出したリビングアーマーが見事に滑って大股開きになった所を、左手の肘の関節部分からポキッと折って、肘から先の鎧を盾ごと外して遠くに投げる。


 俺とリビングアーマーの戦いを、ちびっ子3人が真剣な眼差しで見つめてるのは分かるけど、なんでカルロさんまで凝視してるのか不思議だ。


 起き上がろうとして右手を地面に着いたリビングアーマーだけど、そのまま後ろに回り込んで兜をスポッと抜いてやると、これも遠くに投げる。


 立ち上がったリビングアーマーは、周りをうろちょろする俺に怒り狂いながら右手に持ったショートソードを振り回すけど、そんなの当たるわけない。少し離れてやり過ごす。


 腰に付けた小さな魔法鞄から少し太めのロープを1本取り出す。先には重り代わりの石がついてるやつ。


 それを地面に輪になるように投げて、そこの中心に飛び込む。


「拘束魔法が使えるなら、そっちを使えよ」


 つどアドバイスをしながら戦い方を見せてるわけだけど、ここまで何一つ大変な事はしてない。


 俺に向かってショートソードを振り回しながら襲いかかって来るリビングアーマーがロープの輪の中に入ったら、外れた左腕方向にリビングアーマーをすり抜けて、地面に置いたロープを持ち上げる、リビングアーマーの上半身に掛かるようにロープをセットしたら、振り向いたリビングアーマーを左にすり抜けて反対側のロープを引っ張ると、ロープがリビングアーマーに絡みつく。


 それを何回か繰り返してるうちに、リビングアーマーの上半身はロープでぐるぐる巻き状態になる。


 あとは低空タックルで足の鎧を1つずつ外して行って、最後に右手の鎧を外したら出来上がり。


「この状態になれば何も出来ないからな」


 胴体部分の鎧しか残ってないリビングアーマーに近付いて、肩当てや胸当てを外して行くと、臍の辺りに魔石を発見。


 それを抜いたらリビングアーマーは消滅して、兜が落ちてた場所に宝箱が現れた。


「お見事、流石だね」


 ロープを絡めてたくらいの時から、近寄って見てたカルロさんに褒められた。


「いえいえ、まだまだな気もします。単体だとこんな感じですが、複数体出て来るようになれば、どうなるか分からないですから」


 集団対1だとどうなるか分からない、それは本音だ。

宝箱の中身を確認しながらカルロさんと話してたら……


「ライにい、オイラ達も順番に倒すから危なそうだったら助けてくれよ」


 それなら早く退かないとな。


 そう思って宝箱の中身を掴んで正門前から離れると、トムがカルロさんに預けてた長剣を出して貰ってニコニコしながら構えてる。


「おっ、当たりじゃん。一発目から出るなんて……」


 欲しかった物が欲しかった形で、一発目から出るなんて奇跡だ。


「それは猫かな?」


「たぶん猫だと思いますよ」


 宝箱から出たのは身代わりの依代、普通にドロップする人形の中に魔石が入ってる物じゃない、全部魔石で出来てる小さな人形なんだ。


 色は無色透明だけど、形は小さな猫の人形。


「このサイズなら魔法鞄に括り付けられますね」

「細い革紐か蜘蛛糸で縛っておけば頑丈だろうね」


 腹痛魔法の自爆をどれだけ軽減してくれるか少し楽しみ、今度機会があれば試してみようと思う。




 ちびっ子3人やカルロさんが順番にリビングアーマーを倒すのを見学しつつ、付近を軽く散策してみた。


 市街地の廃墟の大通り、何となく見た事があると思ったら、王都の王城前の景色とそっくりな事に気付いた。


 とは言っても、見えてる城の形も、崩れた建物も全然違うけど、区画と言うか、なんと言うか、建物が建ってたであろう間隔や、道幅なんかは、そっくりなんだ。


 それを不思議に思いつつ、4人がそれぞれに階層主戦を終わらせて、結果を見てみればびっくりした。


「私は私のやり方で戦うわ、あなた達みたいな馬鹿力でゴリ押しの戦闘なんて、見てて不快よ」


 クリティカルドロップを出したのはミカ1人、カルロさんなんか左のボディーブロー1発で門に叩き付けてペシャンコに潰して勝利してたし、トムは鎧を真っ二つ、シャロンは大岩を召喚してペシャンコにしてた。


 そんな中、ミカだけがテコの原理を応用しながら、鎧を1枚ずつめくって行って、クリティカルドロップをゲットしてたんだ。


「見てよこの大きさ、身に付けられるサイズじゃないけど、置き物にするならちょうどいい感じよ」


 ミカが出した宝箱から出たのは、俺の出した身代わりの依代とは比べ物にならない大きさの、犬の置き物。

 妊娠中のルピナスさんの部屋に置くつもりなんだと。


「さて、目的も達成したから帰ろうか」


 久しぶりにダンジョンに潜ったカルロさんは、良い汗かいて楽しそうだった。


「ですね、そろそろエビの餌に置いて来た魔物肉も無くなる頃ですし」


 あとは、出た身代わりの依代が、どれだけ効果があるのかを試すだけだ。




 地上に帰って来たら、長期滞在の本当の目的、納税の為の申請も終わってて、カルロさんの魔法鞄の中から出した大量の白金貨を徴税官に渡して、領収書を書いて貰って帰る準備も終わった。


「来年からはオイラも本格的に狩りに参加出来るから、ライにいがやってるみたく、綺麗に倒す練習もしなきゃ」


「シャロも手伝うよ、トム1人に任せてはおけないわ」


 カルロさんは苦笑い、ダンジョンの上層部くらいなら、この年齢でも活躍出来る奴は居るんだ。

 でも2人が狩りをする場所は最前線と言われてるリンゲルグ山脈の麓、リンゲルグ村だから。


「ねえ、あんた達どうやってそこまで強くなったのよ?」


 ミカと比べたら、ドラゴンと小さなトカゲくらいの差があるわけで……


「んあ? 俺達なんか村の大人の足元にも及ばないよ、なんなら村に来てみるか?」


「ねえ……トム……浮気かしら?」


 ジト目のシャロンと、訝しげな目をしたミカを見てたら……


「若いってのは良いもんだね」


 なんて呟きながら、闇市で姉さんへのお土産を物色してるカルロさんを見て……


 エルフ基準だと、まだまだ新婚のカルロさんも、楽しそうだなって思えてしまった。

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