入試に関する、こっ、これは……
行商人のポンセさんに連れられて辿り着いた場所。
アーバイン魔法学園って言う場所らしい。僕が1人前の祓魔師になる為に、ここでしっかり勉強しないといけないんだ。
実家を離れて今日からここで暮らす予定。
「すいません、お尋ねしたい事があります。入学試験会場と言う場所に行きたいんですけど、どう行けば良いでしょうか?」
綺麗な白い服を来た人達に聞いてみた。
「入試会場……ねぇ……キミ、本気でココを受ける気かい?」
大きな門の近くで暇そうに話してた人達。
ずっと僕の事を見ながら「汚い」とか「物乞いか?」とか言ってたけど、ちゃんと綺麗に洗ってある毛皮を着てるんだけどな……それと物乞いってなんだろ?
「はい。紹介状と推薦状も持ってます」
村を出る時に父さんから渡されたんだ、これを入試の時に受付で見せなさいって言われた。
「目の前に大きな建物があるだろ、その左側にある建物が試験会場だけど、キミは本気かい?」
何が本気なのかが分からない。でも道を教えて貰ったんだから……
「ありがとうございます。行ってみます」
そう答えて門をくぐろうとしたら……
「ここは物乞いが来るような場所じゃ無いぞ」
なんて言いながら、さっき話しかけた中の誰かに、何かを投げ付けられた。
何かを投げ付けられたのは音で判断出来てたから少し右に避けて、避けた後に気になった事を聞いてみる。
投げられた物は石ころだった。
「あの……物乞いってなんですか?」
白い服を来た人達は「チッ」なんて舌打ちしながらどっかに行ってしまった。
何か悪い事をしたのかな? なんて考えたけど、何もしてないから気を取り直して目的地に向かう。
途中、さっきの人達と同じ様な白い服を来た人達にジロジロ見られたけど気にしない。
「ごめんください。入学試験会場はここで良いのでしょうか?」
言われた建物のドアを開けて、中に居る人に聞いてみた。
「ん? なんだ……試験会場は校舎を挟んで反対側の建物内だが……」
あれ? さっき言われたのは左側だったよな……
「ありがとうございます。そちらに行ってみます」
あっそうか、向かって左側か建物の左側かの違いか。
僕の勘違いだな。
反対側の建物に向かう間も、すれ違う人皆に、僕を見て「汚い」とか「孤児か」なんて言われながら、孤児じゃないですって思いつつ目的地に到着。
「ごめんください。ここが入学試験会場ですか?」
「入口に書いてあっただろう、ここが試験会場で間違いは無い。君は受付を済ませて来たか?」
受付ってなんだろう……
「申し訳ないです。受付ってなんですか?」
村に住む魔法使いさん達みたいにローブを着てる人に聞いてみた。
「受付はここでも出来るから、あっちのカウンターで必要事項を書類に記入して受験料を払って来てくれ」
言われた方を見たら、村の酒場のカウンターよりずっと綺麗で清潔なカウンターの所に女の人が4人並んで話し込んでる。
「受付はここですか? 何をすれば良いのでしょうか?」
僕の事を4人が一斉にチラッと見た後、嫌そうな顔をされた。
そのうち1人が僕に嫌そうな顔をしながら答えてくれたんだ。
「確かに受付はこちらでもできます。受験料に金貨8枚をこの場でお支払い下さい。それと、こちらに必要事項の記入をお願いします」
そう言って渡された1枚の羊皮紙……
僕の所持金は村に来る行商人のポンセさんに、たまに買い取って貰ってた野草のお金を貯めてた銀貨3枚と銅貨が2枚……
足りない金額を指折り数えるけど、指が足りなくて数えられない……
あっそうだ……
「これ、紹介状と推薦状です」
父さんに渡された2枚の手紙。受付の女の人に渡したら、しかめっ面になって指で摘んで受け取ってくれた……
「公的機関に提出する紹介状と推薦状って、偽物だったら重罪よ……」
偽物なんてあるんだろうか? その2枚の手紙を見たら、女の人の顔が青ざめた。
「こっ、これは……ポルシュ試験官、確認して頂きたいのですが」
さっきのローブを着た人が手紙を受け取って読んでる。
そして少しずつ顔色が変わって行って……
「学長に連絡を、これが本物ならそれなりの対応をしなくてはいけないからな」
受付の女の人で何もして無かった人に指示を出してた。
「君はライル・ライン君で良いのかな?」
僕に向かって、そう聞いてくるローブを来た男の人。
「はい、そうです。試験は受けられるのでしょうか?」
お金が足りなくて試験が受けられないのならお金を貯めないと……そう思いながら聞いてみたら。
「あの推薦状や紹介状が本物なら、君は入試に関する全てと学費の全てが免除される。そして君に大切な質問だ、魔導書は持っているか?」
魔導書……もちろん持ってる。
「はい。持ってます」
王都に来る途中、ゼルヘガンの町で1泊した時に、馬車の荷台で寝てたら、ブンブンうっとおしく顔の周りを飛んでた蚊を叩き潰して2つ目の悪魔の力を手に入れた。
悪魔の力は2個だけど、ちゃんと教会で貰った魔導書。
背表紙が岩のように硬くて、足に落とした時に痛くて骨折したかと思う程に重たいやつ。
「なら君は試験無しで入学出来る。ようこそアーバイン魔法学園へ。その手に持った書類に必要事項を記入して受付に出してくれたまえ」
そう言われて手に持った羊皮紙を見る、でも僕は……
「文字は読めませんし書けません。ここで読み書きを習えると聞いていたのですが……」
唖然とされた。なんでだろ? ここに来れば読み書きも計算も教えてもらえるって聞いてたのに……
「それは、本気で言っているのか?」
本気でってなんの事?
「違うのでしょうか?」
習えないなら、まず読み書きを教えてくれる所を探さないと……
「いや……まあ……一応あるにはあるんだが……」
「ポルシュ試験官。学長がお呼びです。そちらの少年……少女? も、ご一緒にだそうです」
ん……少女? 僕は男なんだけど……
「男です」女の子じゃないぞ。
ローブを着た男の人の後ろをついて歩く。
校舎って建物は清潔で、置いてある物がピカピカ光ってて、村の建物とは大違いだ。
「ポルシュ・マーリック魔法実技指導官入ります。これから入る場所では聞かれた事だけに答えるように」
僕の返事を待たずに重そうなドアを開けて部屋に入る男の人……ポルシュさんって呼べば良いのかな?
ポルシュさんと一緒に中に入ると、閉めてもいないのに音もなく勝手にドアが閉まった……
「やぁやぁライル君。祓魔師科志望で良いんだよね。必要な物は全部こっちで整えるから、今日は寮に案内して貰って、長旅の疲れを癒してね」
僕より年下かな? って感じのニコニコした小さな男の子が1人、焦げ茶色でツヤツヤ光ってる机の向こう、大きな椅子に座って僕を1度も見ないでそんな事を言ってくる。
「ずっと馬車の中で座ってただけなので、それほど疲れてもいません。勉強はいつからできるのでしょうか?」
なんだろう……目の前の椅子に座ってる男の子から凄い違和感を感じる。
「その辺は担当の講師に全部説明させるから気にしないで。ようこそライル君、君の事を歓迎するよ」
これは幻覚だ。魔物が溢れた時に何回か似たような感覚になった事がある。
「おっ気付いた、さすが最前線育ちだね。王都で過保護な親の元、ぬくぬく育った坊ちゃん嬢ちゃん達とはモノが違うか」
なんか褒められた。褒められたでいいんだよな?
「学長、気付いたとは?」
「マーリック講師、分からないなら気にしなくて良いよ。彼を寮に案内した後、祓魔師科担当の講師に連絡を取ってコレを渡して。あと試験会場に帰るついでに、コレを購買部に出しといて」
何か書いてある羊皮紙を2枚ポルシュさんに渡す学長と呼ばれた男の子。
「はい。かしこまりました」
それに深々と頭を下げて、羊皮紙を受け取るポルシュさん。
渡した方は子供に見えるけど中身は別物、たぶん村の魔法使いみたいな感じ。
ポルシュさんは、村の魔法使いさんでも出来る事が出来ないのかな、幻覚だって気付いてるんだろうか。
村の大人達なら幻覚なんて一瞬で打ち破っちゃうし。
僕だって、やろうと思えばできるんだし、それが出来なさそうと言うか、幻覚に包まれてるって気付いてなさそうだなポルシュさんは……
魔法実技の指導官……講師って言ってたよな?
講師って先生の事だよな、こんな感じで僕にも分かる幻覚が分からないって、何を教えてるんだろ?
それとも幻覚って分かってて気付いてないフリでもしてたのかな?
結局、何も答えは出ないまま、寮と言う建物に連れて行かれた。
たぶん学園の敷地内だと思う、校舎と言う建物から5分くらい歩いたところに建ってる三階建ての立派な石造りの建物。
「今日からこの建物が君の住む場所だ。担当の講師が来たら中の寮長と相談して君の部屋が決まる。それまではロビーで待っていてくれたまえ。わたしは試験会場に戻るから、ここで失礼するよ」
そう言って僕の方を見た瞬間「クソガキが」なんて呟いたポルシュさん。
僕は何か悪い事をしたんだろうか……
そんな疑問が湧きながら、置いて行かれた寮と言う建物に入ってすぐのロビーで1人、フカフカのソファーに座ってる。
中に居る人は皆が同じ様な白い服を着て、遠巻きに僕を見ながら「汚い」とか「蛮族か」とか「女? 男?」とか「絨毯でも巻いてるのか?」なんて言ってる。
毎日ちゃんと手入れして毛皮は綺麗にしてるから汚くは無いし、蛮族って森の中で隠れ村を作って体中に泥を塗って踊ってる人達の事だよな、僕は違うぞ……
ちゃんと服は着てるし、それに僕は男だ。
初めて体験する程に沢山の目に晒されて、知り合いが1人も居ない場所で、これから僕がどうなるか、その時既に不安で押しつぶされそうだった。
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