一般


 村の神父さんが着てるのと色違いの聖衣を着た女の人が来て、下を向いてソファーに座ってた僕に話し掛けて来るまで、ずっと真っ白の服を着た人達にジロジロ見られて色々な事を言われた。


 そのどれもが『自分が言われて嫌な事は他人に言うんじゃないぞ』なんて言ってた父さんが聞いたら怒りそうな事ばかり、中には意味が分からない言葉もあったけど、どれも良い事を言ってるとは思えなかった。


「購買で買える物は学長の指示で全て用意して貰えるけど、足りない物もあるでしょうから買い出しに行きましょう。でも、なんで女の子が男子寮に?」


 この人も僕を見て女の子扱いしてくる。


「僕は男です。女の子かと言われるんですが何故でしょう?」


 なんとなく分かることは、僕をここまで案内してくれたポルシュさんより、目の前に居る女の人の方がずっと強そうだって事。


「それは君の顔付きと髪型じゃないかな? 男の子なら髪は短くしてるものよ」


 髪型……回りを見たら白い服を着てる人達の髪は短い、魔物の鋭い爪で首に攻撃されたら、どうやって防ぐんだろう?


「でも、髪を伸ばしておかないと、首に魔物の爪が当たったら死んでしまいます」


 気になったから聞いてみた。


「ここには魔物なんか居ないから、そんな事気にしなくて良いのよ」


 魔物がいない……そう言われてみたら、昨日くらいから殆ど魔物なんか見てない。今朝から1回も見てない事に今気付いた。


「そうなんですか? 髪を切っても危なくないんですか?」


「買い出しのついでに身なりも整えて来ましょうね」


 僕の質問には答えて貰えず、何をされるかよく分からないまま、女の人に連れられて色んな場所へと行った。


「本当に切るんですか?」「ええ」


 色んな所を回った、髪を切られて、体を洗われて、服を着替えさせられて、沢山の荷物を受け取りに行って……


「お金は何時払えば良いんでしょうか? 銀貨3枚と銅貨2枚じゃ足りないと思うのですが」


 都会は怖い所だって村の冒険者さん達に言われてた、気付いたら返せない程の借金をしてて、毎日朝から晩まで働いて、受け取ったお金を返しても、勝手に借金が増えていくから気を付けろとか……


「貴方に祓魔師の資質がある限り、学園内で購入出来るものに対して金銭を払う必要は無いのよ。欲しい物があるなら申請書を書いて出してくれたら支給されるわ」

 

 神父さんの言ってた通りだ。


『祓魔師はどんな職業につく者より優遇される』


 人の領域を保つ為に使われる魔水晶を作り出す事が出来る祓魔師は、とても希少な存在で大切に扱われるって教えて貰った。


「ここが君の部屋よ。1人部屋だから好きにして良いわ」


 沢山の荷物を持って案内された部屋は、綺麗なベッドと綺麗な机、座り心地の良さそうな椅子があって、日当たりの良さそうな大きなガラスの窓に綺麗なカーテンがかかってる。そしてその部屋は僕の実家よりずっと広かった。


「入学式までまだ2週間以上あるわ、明日は学園内の事について教えに来るから、よろしくね」


「よろしくお願いします……えーと……」


「私はアビゲイル・ロンド。祓魔師科の講師で、銀級祓魔師よ」


 やっと名前を教えて貰った。


「名乗るのが遅くなってすいません。ライル・ラインです。よろしくお願いします」


「ええ、知ってるわ」振り向きながら言われて、広い部屋に1人置いて行かれた……


「自由にしていいって……」


 意味が分からなかった。


 結局着替えさせられた真っ白の服は、なんか動きづらくて、直ぐに着替えた。

 肩より少し上で切りそろえられた髪の毛は違和感が凄い。


 部屋は自由にしていいって言われたけど、汚したら怒られそうだから、床に毛皮のマットを敷いてその上に座った。


「荷物はどうすればいいんだろ……」


 背負ってた魔法鞄の中から干し肉と干しみかんを取り出して、少し早めの夕食……


 明日アビゲイルさんに会ったら、文字を教えて下さいって頼んでみようかな。



 どう言う訳か火を焚いてないのに部屋がずっと明るかったせいで落ち着かなくて眠れなかった。


 アビゲイルさんが来たのは、日が登ってだいぶ時間が経ってからで、朝ごはんに焼いた大麦と乾かした野草を少しと、皮袋に入れてあった水を飲んで少し経ってからだった。


「朝食に行きましょうか? 食堂の使い方を教えるわ」


 連れて行かれた場所では、沢山の同じ服を着た人達が朝食を食べてる所だったけど、なんと言えば良いのか……


「朝からあんなに食べるんですか?」


 皆が食べてる物を見たら、大きなパンをちぎって、黄色のスープを飲んで、焼いたベーコンをかじってた。


「そう? 普通の朝食よ」


 ベーコンから出る脂の匂い……こんな匂いを付けたら魔物が寄ってきそう。


 大きなパンも、3回に分けて食べても良いくらいの大きさだし、黄色のスープは甘かった。


「ライル君、カトラリーは使わないのかしら?」


 カトラリーってなんだろ?


 気になって回りを見てみたら、皆が銀色の匙を持ってスープを1口ずつ飲んでる……

 スープを飲むくらいで、あんなに時間を使ってどうするんだろ? 


 僕が使ってるのは箸で、周りの人達は珍しそうに見てくる。周りの人達は大きなベーコンを1口サイズにナイフを使って切り分けてるけど、僕は箸で持ち上げてかぶりついた。


「ライル君、もう少し綺麗に食べられないのかしら? 見た目と言うのはとても大切よ」


 見た目を気にしてゆっくり綺麗に食べて、その間に結界を魔物に壊されたらどうするんだろって思ったんだけど、魔物は居ないんだったよな……


「はい、分かりました。でも慣れるまで少し時間が掛かりそうです」


「入学式までには慣れてね」


 学園内の施設を色々案内して貰った、その途中で文字を教えて下さいと頼んだら。


「それは私の教える事じゃないわ、新学期が始まったら専門の講師がいるから、その人から教えて貰ってちょうだい」


 結局アビゲイルさんが来たのは2日だけ、あとはずっと部屋の中で1人。食べ物が欲しくて食堂に行ってみたけど、どうやって食べ物を貰えば良いのかが分からなくて、部屋に帰って魔法鞄の中から保存食を取り出して毎日食べてた。


 困ったのはトイレと水。


 どこにトイレがあるのか分からなくて、部屋を出て白い服を着てる人に聞いてみた。


「そんなの書いてあるだろ」そう言われて場所は教えて貰えなかったから、皮袋を1つ使ってその中にした。


 皮袋の口を縛って魔法鞄の中に入れたから匂いはしないけど、あと数日もすれば皮袋もいっぱいになりそう。


 水の事はもっと困った。顔を洗うのも、服を洗うのも出来ない。井戸の場所を聞いてみたけど、井戸なんか学園内には無いそうだ。皆はどうやって水を得てるんだろう……



 魔法鞄に入れてあった保存食も今日で最後、水は2日前に無くなった。そんな今日が入学式と言うのがある日らしい。


 どうして良いか分からずにいたら、白い服を着た人に「着替えて大講堂の大広間に行くように」って言われた。


 白い服に着替えて部屋を出てみたら、皆が同じ方に向かって行くから、それについて行ってみた。


 最初の日に間違えた建物が大講堂と言う建物で、間違えて入った所が大広間だと知った。


 何百人も居そうな大広間で、何をしていいか分からず入口から少し入った所でキョロキョロしてたら。


「新入生は椅子に座って」


 と、大人の人に言われたから、前の方に並べてある椅子に座った。


 入学式と言うのは訳の分からない式で、代わる代わる大人の人が似たような事を話して、それを我慢して聞き続けるだけの式だった。


「新入生はその場に残って」そう言われて椅子に座ったまま。


「名前を呼ばれた者は、呼んだ講師の前に並ぶように」


 そう言われて、名前を呼ばれたから、呼んだ人の前に列が出来てて、そこの最後尾に並んだ。


「これが1回生のクラスになる、各自講師に着いて教室に向かうように」

 

 大きな杖を持った白い髭のお爺さんから言われた事に従い、講師の後ろをついて行く。


「机に名札が置いてある、各自自分の名前の札がある席に座りなさい」


 字が読めないから、1番最後に余った席に座った。


 廊下側の1番後ろの席に座ったら、隣に座った人に睨まれたけど……なんでだろう……


「なあ、お前って貴族じゃないよな?」


「え?」


 突然聞かれて、少し考えた。貴族ってのは偉い人だったよな……


「違いますけど、どうしてですか?」


 そう答えたら。


「じゃあ良いや。気にしないでくれ」


 僕の方を見ないで、そんな事を言われた。



 その後は、沢山の本を貰って、時間割表と言う物を貰って、最後に配られた紙に2次専攻、3次専攻する科目を書いて提出しなさいと言われたけど、僕は文字が書けない。


 回りを見たら、皆読み書きが出来るみたいで、羽根ペンを使って紙に何かを書いてる。


「提出したら今日は終わりだ。明日から通常授業が始まるが遅刻などしないように」


 部屋から僕と講師以外皆が居なくなって、僕の所に講師が来た。


「何時まで掛かってるんだ? もう君1人だぞ」


 紙に書いてある事も読めないし、文字を書けない。

と言うか、ペンを持ってない。


「文字の読み書きが出来ません。どうすればいでしょうか?」


 講師の人の顔色が変わった。


 困った表情だったのが、呆れるような表情に……


「ライル君だったか、君はこの学園に何をしに来たんだ?」


「勉強をする為に来ました」


 聞かれた事に答えたら……


「チッ」って1回舌打ちされて。


「君は特別授業を受けなければならない様だな。着いて来なさい」


 そう言われて着いて行った場所は、机が数個と大きな椅子に座った白い髭のお爺さんが居て。


「この生徒が今年の一般枠です」


「そうかそうか、今年は1人だけかのう?」


 僕をここまで案内してくれた講師は僕を一瞥もしないで部屋を出て行った。結局名前も分からなかったな。


「あの、ライル・ラインと言います。これからどうすれば良いでしょうか?」


 最初に名前を名乗ったら。


「ワシはボーウェンだ、しばらくライル君の先生になる。分からないことだらけじゃったろう。ここで1つずつ教えていくから、1つずつ覚えてゆけばいいでのぅ。まずは好きな席に座りなさい」


 そう言われて、今まで不安だった物が一気に吹き出して、泣いてしまった。




 

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