悪魔を探して
今日は朝からカルラの家族とユングを交えた家族会議に、何故か俺とケルビムとルーファスまで無理矢理同席させられてる。
ケルビムとルーファスは分かるんだ、2人ともユングと同じ目標を掲げて行動してるから、でもなんで俺が……
参加者を二つ名を含めて紹介すると。
8人がけのテーブル席の右側にカルラの父方。
鮫殺しピッペン、鯖嫌いカニンガム、海鮮焼きアマンダ。
左側にカルラの母方。
骨砕きレイラ、悪食クルト、エビ獲りジョン。
正面は今日の主役の2人。
ひよこ好きカルラ、ユング・ランデンベルグ。
特別顧問に別テーブルで。
一本釣りエルバス、タコ食いビスマ、セラ。
主役2人の補佐役に別テーブルで。
エビ食いライル、潮干狩りケルビム、唐辛子ルーファス。
そして司会進行役に、北の伯爵家と南の子爵家の婚姻となると、国王の認可が必要になるからと、国王代理で、当事者達をよく知る王族。
立ちっぱなしで司会進行をしてる、ハンセン・ド・コールマン。
海馬亭の食堂に集まって、これから2人がどうするか、どうして行きたいか、サウス子爵様とランデンベルグ伯爵様との話し合いはどうなったか、王国側は許可を出したのか、そんな感じの家族会議。
「王都議会の意見としては、この婚姻で北と南の交流が増えれば、間にある王都圏にも良い影響を与えるだろうと好意的だ」
ハンセンが正装してるんだ、ピチピチの白タイツでゴージャスなマントを着けてさ。
場にそぐわないと言うか、1人だけ浮いてると言うか……
「王家としては北と南が発展してくれるのは経済的にも食料事情的にも国内の発展に繋がるから良しとしてるが、懸念されてるのが1つ。回りくどい言い方は好きじゃないから率直に聞くが、王家への発言力を増そうと考えてる訳じゃ無いよな?」
ハンセンはずっとニヨニヨしっぱなし。
別テーブルで見てる俺やケルビムやルーファスもニヨニヨしっぱなし。
「そんな事を考えた事すらありません。私はただカルラ嬢を妻にしたい、それだけなんです」
ちなみに、真面目な話は殆どしてない、カルラは下を向いて、たまに頷くだけ。
顔を真っ赤にしながら。
カルラとユングの出会いから、付き合うまで、付き合い始めてから、遠距離恋愛になってからの行動を、こと細かく報告する会議だから。
「北の青瓢簞も好意的じゃ「弟を伯爵家に縛り付けないで済みます。サウス卿、弟をよろしくお願いします」なんて頼まれてしまったけぇの」
カニンガムさんの「縛り付ける」って部分だけはユングもケルビムもルーファスも嫌そうな顔をしたけど、ユングの兄、北の伯爵様の発言に驚いた顔をしてた。
「いつも傲岸不遜な兄さんが……」なんてユングが呟いてた。
北の伯爵様は、国内でも有名な権力者の1人。王国全土で食べられる麦の8割を北の伯爵領で生産してて、穀物庫の番人って言われるんだ。
「ワシも驚いたでェ。何時もワシが頭を下げる立場じゃったのが、深々と頭を下げて頼まれてしもうたけえのォ」
主食の麦の流通量をいくらでも調整出来る北の伯爵家の権力と発言力は、東の侯爵家を抜いて王家に次ぐ発言力を持ってる。
「まぁどっちの家も好意的、王家も王都議会も好意的、それなら反対する事も無いじゃろ。で、2人は何処まで行ったんじゃ?」
ニヨニヨしながらエルバスさんも質問を投げ掛けてる。
「嫌じゃ、ワシャぁ聞きとうないどォ。そがな事なぞ聞きとう無いどォ」
あっ……親父さん逃げた……
「目出度いけど、2人が一緒に暮らすのはまだ先の話なんだろ?」
ビスマ姉さんも若者の恋愛に興味津々。
2人が初めてキスをした部分を、根掘り葉掘り海鮮焼きのオバチャンとカルラのお袋さんの3人で質問攻めとかしてたし……
『1回生の夏休暇、それぞれ実家に帰省する前の日の夕方に、王都の中央噴水広場のベンチで、私からカルラ嬢に好きだと伝えて、そのまま唇を奪いました』
なんて白状してた。
んで、今ビスマ姉さんに聞かれた事には。
「それは、待っていてくれとしか言えません。何よりも大切な事なので」
婚約だけして結婚はまだ先なんだと。
ユンケル魔法団の3人共通の叶えたい夢、それがまだ終わってないからって事らしい。
「待たせてる間にカルラがババアになっちまっても、ちゃんと責任は取ってくれんのかい?」
う〜ん、お袋さん……
カルラがババアになる姿が想像つかないです。
俺と同じ19歳だけど、カルラって子供にしか見えないし、12歳の子供達と混ざると、全く違和感が無いんだけど。
「どんなに年老いても妻にしたい女性はカルラ嬢だけです。この気持ちは一生変わらないと誓います」
皆でニヨニヨ。カルラとユングは顔が真っ赤。
その言葉を聞いて安心した表情のお袋さんが、逃げた親父さんを捕まえに行った。
結局ユングがどれだけカルラの事が好きか大暴露するだけの報告会で、セラちゃんが「おにゃかへっちゃ」って言い出すまで、ずっとユングの惚気を聞かされるだけだった。
「「御指導よろしくお願いしゃーす!」」
カルラのお袋さんに首根っこ掴まれてしぶしぶ帰って来た親父さんを連れて、屋台で色々昼食を買い込んでから全員で海ダンジョンに来た。
ユンケル魔法団の3人に泳ぎと海の魔物対策を指導するって理由と……
「見てくれよ、フォレストフロッグの革タイツ。わざわざエルフの村から取り寄せたんだぜ」
泳ぎたいって言い出したハンセンのために。
「それって女性用だろ? しかも花嫁衣裳だぞ」
真っ白に漂白されたフォレストフロッグの革タイツなんだけど、エルフの伝統的な花嫁衣裳だったりする。
「女性用でも伸びるから大丈夫。それより泳ごうぜ」
カルラ作の魔道具達も、ここ数日は学生達がコピーした物が販売され始めて、性能的に少し劣るけど十分使えるって評判になって、それを手に入れたハンセン。
筋肉質な体で、下半身だけ白タイツと黒い靴を履いて、上半身は裸のままで口に呼吸の魔道具を咥えてはしゃぎ回ってる。
「そがな泳ぎで南部の男が言う事聞くと思うちょるんか! もっと手を伸ばせ!足を動かしんさい!」
カルラの親父さんが厳しくユングに指導する中。
「あんたらに夜の酒のアテがかかってるんだから気合い入れるんだよ」
ケルビムとルーファスは、ナイスバディが浮き出て色々とボヨンボヨンしてるビスマ姉さんの全身タイツ姿に顔真っ赤。
「こうやって飲むのも2日ぶりだな」
「クルトん家に行って飲んどるとセラが泣き出すけぇのぉ」
クルトさんとジョンさんは砂浜に座り込んで、2人で殻の硬い焼いたエビをバリバリいわせながら殻ごと食べつつ冷したエールを飲んでるし。
エルバスさんは釣りを始めて、カニンガムさんとアマンダさんは、2人で竈を作って海鮮焼きを焼いて、その海鮮焼きを骨ごとバリバリ言わせつつセラちゃんが食べてる。
「さっきからライルは何してるの?」
ハンセンと泳ぎで勝負してたカルラ、ハンセンは黒い全身タイツを着てないから、紺色の全身タイツを着てるカルラに負けっぱなし。
ずっと審判をやってた俺だけど、疲れてハンセンが砂浜に寝転んだ後に、俺はずっと捜し物。
「悪魔憑きが居ないか調べてるんだよ、ここのダンジョンにも居るはずなんだけどな」
鮫との戦いで魔導書を無くした俺だけど、2日後に潜り取りの漁師さんが見付けてくれて、手元に帰って来た。濡れても乾かせば元通り、やっぱり不思議。
「ああ、確かどんなダンジョンでも一体は必ず居るんだっけ?」
「ここで確認されてるのは海藻タイプだな、祓魔師連盟の報告書で読んだんだけど、一階か四階のどちらかに居るみたいなんだ」
冒険者ギルドにしてた借金は、西と東の森の地図を書き上げて、それを冒険者ギルドに渡してくれたらチャラで良いって言われてる。
どうせやろうと思ってた事だし、金を追い掛けなくて良いなら悪魔憑きを探そうと、空いた時間にちょくちょく海ダンジョンに来てるんだ。おかげで一階は殆ど調べ終わった。
「四階だったら大変だね」
「どうしようもない時はジョンさんに応援でも頼むさ」
そんな事を話してる俺とカルラに目を輝かせたハンセンが割り込んできて……
「キングロブスターなら俺の魔鎖でどうとでもなるぜ。どうせなら今から行かね?」
なんて言ってきた……
その言葉を聞いてたジョンさんが。
「ハンセン坊ちゃん。そりゃワシに宣戦布告したのと同じじゃのぅ」
なんて言いつつニヤケながら立ち上がって。
「どれ、俺も久々にエビでも狩ろうか」
クルトさんまで真剣な目付きになった。
俺は……海藻を調べるだけだからキングロブスターは無視しますよ、なんて言葉を飲み込んで……
「色々と装具をもってきます、宿に置きっ放しなんで」
と、答えといた。だってこのメンバーで行けばキングロブスター食べ放題だろうから。
想像するとヨダレが……
海ダンジョンの2階層は1階と殆ど変わらない砂浜と海岸で、泳いでるのが魚か魔魚かの違いだけ。
3階層に降りる階段は砂浜の奥にある。
とりあえず2階層はスルー。
3階層に降りると陸地は殆ど無くて目の前は深い海になってる。水深が200mくらいあるらしい。
「マグロの兄弟、ワシらァ今から4階に降りるけぇ先に市場に行くようならエビ用の水槽を用意してくれ言うとってくれんかのう」
ジョンさんが海に向かって思いっ切り叫んだ。
そしたら海から黒いタイツを着たマグロ追いカーネルさんが飛び出して。
「ワシはもうすぐ上がるけぇ言うといたるわァ。気ぃつけて行ってきんさい兄弟」
なんて言って海に戻って行った。
「すげえ、一角マグロを泳いで追い掛けるとか」
ケルビムが感動してる。初めて見た時は俺もビックリした。
時速120km以上で泳ぎ回る一角マグロを自前の水魔法と風魔法を使って追い掛けてたカーネルさん、カルラの作った魔道具を手に入れてから漁獲量がとんでもない事になったって教えて貰った。
「やっぱり一角マグロが正式名称なのか。俺の地元だったらカジキマグロって呼んでたけどな」
年に2回くらい、村の冒険者が食べたいって言って南部に買い付けに行ってたんだ。
容量の大きな時間停止の付いた魔法鞄で持ち帰って、村中皆で分けて食べてた。
「西部は勇者様の影響で色々と呼び名が違うらしいのォ」
村を出て最初に困ったのがそこだった。
「今じゃ慣れましたけどね」
皆で雑談をしながら4階に降りる階段の前で魔鎖を用意するハンセンと、太いロープがハシゴ状になってる特殊な網を用意するジョンさん。
2人のエビ漁がどうなるか楽しみだ。
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