12月31日

 最後の日に好きな人にばったり会えるのは嬉しい。

 この人、なんとなく顔が好きだなとずっと思っていた。あーやばい、こりゃ好きなんだ、と気づいた時にはもう遅かった。

 彼はマスクをしている。

 そういえば顔、見てないな。ちょっと取ってくれないかな。

 喫茶店でお茶でも、とか誘えばいいのか。

 でもそんな時間はない。

「天ぷら買ったんだ」

 そう言って彼は手にしているビニール袋をかざした。

 家族の分、だそうだ。良いお年を、と言ってわたしたちは別れた。

 来年もよろしく。わたしはと言えば、帰ってひとりでお蕎麦を食べて紅白を観る、くらいだな。ビールも開けてもいいかな。

 振り返ると、彼の背中がまだ見えた。

 あなたがすきです、大好きです。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

「今日はなにー?」

「今日は大晦日〜」


『小説めくり』はこれでおしまい。新しい年はまた違った物語があるんでしょう。ただただ通り過ぎていくだけだとしても、それを眺めることは楽しい。きっと、それだけで生きる価値はある。

読んでいただきありがとうございました。


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小説めくり365と1日 キタハラ @kitahararara

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