第2話「望まぬ転生」

「 聞こえますか? 」


 奇麗な流水のように透き通った声が私を呼びかける。

 その声を聴くと同時に、目を開けると辺り一面暗闇の空間が広がっていた。

 混乱する私にどこから聞こえてくるかわからない奇麗な声が続けるように語り始めた。


「 ここは貴方の運命を決める場所です。 」


『運命を決める場所?そうか…私は死んだのか…』

 それを聞いて不思議と自分が死んでしまった事をすんなりと受け入れる事が出来、今までしてきた自分の行いが走馬灯のように頭の中を駆け回った。

 長かった人生、死んだら極楽浄土に行けると信じていたが、その走馬灯の殆どは戦争の時に見た現実。

 思えば戦争から帰ってきた時、国は私を英雄と言い数多くの賞をもらったが、その後は悲惨な人生だった。

 戦争で父と母と弟と、唯一の身内を失っていた事を後から知らされ、いくら英雄と言われても、守るべき者すら守もる事も出来ずに何が英雄か。

 それに国の為と思い戦ってきたのに、仕事を探せば人を殺した人を雇えないと言われ、世間からは鬼と言われ、唯一出来た事を言えば皮肉にも戦争で培った銃の扱いが出来る狩猟のみだった。

 獣を追うのと人間を追う事に関してはさほど違いもなかったのですぐその狩猟自体には慣れたが、ますます世間や周りの目が厳しくなる原因の一つだった。

 色々と生前を思い出し、葛藤していると再び奇麗な声が語りかけてきた。


「 貴方は生前、数多くの人を殺めてしまいました。 」


 その言葉を聞いた瞬間、血の気が引くような思いをした。

 極楽浄土の行けないのであれば、せめて静かに眠っていたい、そう思っていたからだ。

 生前も地獄ならば、死んでも地獄へ行けと言う事か。

 しかし、沢山の人々を殺めてしまったのも確か、今更抗議した所で遅いのもわかる。

 なにせ、相手は誰なのかもわからないのだから。

 せめて、軽い地獄に行きたいと願いながら次の言葉を待った。


「 しかし、貴方は生前英雄と言われるほどの功績を残しています。その技術を活かせる世界へ転生を望まれるのであれば、そうしましょう。 」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。

 転生?生まれ変わりと言う事か?

 しかし、今更人生をやり直した所で生前の記憶も無いだろう、技術を活かすも何も、戦争はすでに終わっている。

 もしや戦争がもう一度始まると言う事か?

 正直な所、それは願い下げたい所だったが、地獄よりは幾らかマシなのかと、そんな事を頭の中で右往左往していると、また声が聞こえてきた。


「 悩んでおられますね。しかし、貴方は地獄へ行くべきお人ではないです。苦しい時間を耐え、今まで生きながらえていたのだから。 」


 その言葉を生前に聞いていれば私の人生ももう少し幸せだったのかもしれない。

 しかしいきなりそんな話をされても「はいお願いします」とも言えない物だ。

 でも、もう一度花を咲かせる事が出来るのであれば…そうしたい。

 こんな暗闇の中、誰かもわからぬ人にお願いするのは少々小恥ずかしさはあったが、地獄に行くよりはもう一度人生をやり直せるならばと、私は言った。


「それが私の行く道ならば、もう一度人生を」


 そう言うと、急に周りが白い光に満たされ始めた。

 光が強くなり、目を閉じると不思議と心地よい眠気と温かさに包まれる。


「 やはり貴方は勇気あるお方だ。それではお望み通り、新たな人生を約束致しましょう。貴方が生前居た世界ではなく、魔法が使え、未だ戦争が絶えない世界で貴方の技術を存分に活かせる体へと貴方の魂を転生致しましょう。 」


 魔法…?戦争が絶えない…?

 え、いや誰かわかりませんが、恐らく神様ですか、神様ですよね?

 一体何処へと行かせるおつもりですか。


「 それではよい人生を(にっこり) 」


 顔は見えないが、恐らく満面の笑みで手を振るような姿を安易に想像できるような声を最後に私は疑問と言うより、すこしたちの悪い詐欺に引っかかったような気分のまま、深い眠りへとついた。

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